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週報『海のまちにくらす』(2022-2023)

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2022年春から大学を休学して東京を離れ、新しい土地で生活をしています。相模湾に面した小さな半島です。ここではじぶんは土地を通過していく観光的旅行者でも、しっかり根をおろした恒久…
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2022年4月の記事一覧

海のまちに暮らす vol.9|悩むのって案外エンターテイメントなのかもしれない

海のまちに暮らす vol.9|悩むのって案外エンターテイメントなのかもしれない

「モリザワ商店って知ってる?」

土曜日に真鶴出版へ行った時、ヤマナカさんに訊かれた。なんだろうモリザワ商店って。八百屋かな。知らないので尋ねてみたら、駅の近くにある古道具屋なのだという。真鶴在住の写真家・シオリさんが、旦那さんとやっているらしい。店が開いているのは年2回(春と秋)のそれぞれ短い期間だそうで、今春の開店期間は4月9日(土)からわずか3日間。今日が初日の土曜日だ。店には掘り出し物の古

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海のまちに暮らす vol.8|土の学校に入学する

海のまちに暮らす vol.8|土の学校に入学する

 6時に目覚めてグレープフルーツを切り、長靴とパソコンをリュックサックに入れて家を出る。これからナオユキさん家の畑に行く。MacBookを持って畑に行くなんておかしな格好だ。

 ナオユキさん家の畑は貴船神社の近くにある。地図でいうと、真鶴半島という、真鶴のなかでも特に海側に突き出したエリアだ。僕が住んでいるのは駅の方だから、ナオユキさん家の畑に行くためには、海側へ30分くらい歩くことになる。リュ

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海のまちに暮らす vol.7|畑をはじめるかもしれない

海のまちに暮らす vol.7|畑をはじめるかもしれない

 畑をやりたい。農作をしたい。と言っていたら、なんと、できることになってしまった。真鶴出版の裏手には畑がある。空き地のような場所だったのだが、今は共同農園として4、5人が畑をやっている。そのうちの一角は真鶴出版として借りているスペースらしい。僕はもともと真鶴に移住をしたら農作をやってみたいと思っていたので、興味本位で畑のことを訊いてみた。そしたら、「今誰も耕してないから、それならのもとくん使ってい

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海のまちに暮らす vol.6|井戸に神あればタンポポに神あり

海のまちに暮らす vol.6|井戸に神あればタンポポに神あり

 そろそろ海に挨拶しておいたほうがいいな、と思った。海には海の神さまがいるから。山には山の神が、井戸には井戸の神がいて、タンポポにはタンポポの神さまがいる。僕の場合、以前の家では風呂にいる神様にいつもお世話になっていた。風呂神さまだ。風呂神さまはクリエイティブな神さまみたいで、僕が悩んでいる時によく助けてもらっていた。その姿を見たことはないが、僕が熱いシャワーを浴びたり、湯船に使っているあいだに、

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海のまちに暮らす vol.5|この町には脇役がいない

海のまちに暮らす vol.5|この町には脇役がいない

  目が覚めてすぐに寝室の雨戸を開けると、町は青かった。早朝の色をしている。台所へ歩いていって、湯を沸かす。3月末とはいえ、朝晩はまだ冷える。真鶴に住みはじめて2日目の朝。

 今日は仕事で東京へ行く用事がある。11時に出るから、それまでに洗濯物を干しておく。帰ってくるまでに太陽が乾かしてくれるだろう。こっちに住んでから、太陽の光のありがたさをより一層実感するようになった。暖かい日は布団やマットを

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海のまちに暮らす vol.4|泊まれる出版社

海のまちに暮らす vol.4|泊まれる出版社

 新しく住みはじめた真鶴には面白い場所がある。「真鶴出版」という場所だ。7年ほど前に真鶴に移住してきた若い夫婦、カワグチさんとトモミさんが、「泊まれる出版社」として立ち上げたローカルメディアだ(※ローカルメディアとは、フリーペーパーやWEBサイトなど、地域限定の情報を発信している媒体のことをいう)。カワグチさんが本を発行する出版活動をし、トモミさんが宿を運営している。神奈川の南西端にある築50年の

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海のまちに暮らす vol.3|個性的であるということ

海のまちに暮らす vol.3|個性的であるということ

 入居の日。僕は初めて車を運転した。鎌倉から真鶴まで。これは神奈川の右端から左端までということになる。思い返すと免許を取ったのは3ヶ月も前だった。「免許ってのは普通、マニュアルだから」と車狂の友人が言うものだから、何も知らない僕はマニュアルで免許教習へ行き、教官は僕を見てこう言った。「マニュアル取るやつなんて今どきいないぜ」

 ちなみにレンタカーはATだった。それでもしばらく車に乗らないうちに、

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海のまちに暮らす vol.2|水平線の見える家

海のまちに暮らす vol.2|水平線の見える家

 真鶴にはその後何度か行った。行くたびに海は青く、青さを見るたびに目が覚めるような心地がした。2、3回訪れたあたりから、もうこの町に住んでしまおうという気になって、僕は物件を探しはじめた。

 町内を歩き回って疲れて、喫茶店に入る。ジャズがかかっている。奥の方でタバコの煙が朦々と上がる。僕はタバコはやらない。でも僕の周りにいる知り合いたちは面白いくらい、きまってみんなタバコを吸う。みんながもくもく

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