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【短編】恋愛審判員制度:後半

前半を読む

<対戦カード>
香川 シュウジ(28)広告制作会社 コピーライター
玉田 ケーコ (27) 広告制作会社 デザイナー ※シュウジとは同期

主審: 内本孝則 (ジャッチスタイル:硬派)
実況: 中村 浩介 アナウンサー 香川と玉田の駆け引き実況
解説: 風間 千尋    男女の駆け引きのプロ 戦況を解説する

中村「いやぁ!後半も楽しみです。それでは、お知らせの後は後半、水族館デートキックオフです!」

◯とある駅前

横浜にある桜木町駅前のような場所。シュウジが予定よりちょっと早く駅に着き、ケーコを待っている。

シュウジ「…」

そこに改札を通り、手を振りながら現れるケーコ。

ケーコ「おまたせ笑。」

職場のイメージとはちょっと違う玉田の印象。いざデートとなりちょっと照れるシュウジ。

シュウジ「なんか、あれだね笑」

ケーコ「あれってなに笑言っとくけど、まだ同僚だからね。」

シュウジ「わかってる笑。まだね。」

二人が会話していると、黄色いユニホーム姿の主審が改札を通って二人の前に現れる。

シュウジ「あ。」

ケーコ「やっぱきたね。」

主審が両腕を天に掲げホイッスルを強く吹く。

主審「ピーーーーーーーーーーーー」

ホイッスルが吹かれた後に実況・解説が喋り始める。

中村「さぁ、後半がはじまりました!楽しみですね風間さん。」

風間「楽しみですね〜。」

ホイッスルは吹かれるが駅前周囲の人は一切主審に注目することなく、それぞれの日常を過ごす。

シュウジとケーコと主審は、水族館へと歩いていく。

◯水族館・入り口

水族館の入り口に到着し、入場券を買おうとするシュウジ。窓口の人「2名様ですか?」

シュウジ「はい、そうです。」

審が首を振り、小さくホイッスルを吹く。

主審「ピッ」

シュウジ「へ?」

ケーコ「あ、たぶん、審判の人の分もってことかな??」

シュウジ「え、そういうシステムなの??」

こんどは主審がちょっと強くホイッスルを吹く。

主審「ピッ!!」

すかさず話し始める風間。

風間「あ、まずいですね。」

中村「と、いうと?」

風間「ちょっと、ここで香川さんごねると、主審からの心象が悪くなりますね。」

主審がジェスチャーでシュウジを呼び寄せて、注意のアクションを見せる。

中村「おっと、注意が入りましたね。」

残念そうに喋る風間。

風間「これでカードが出やすい状況になってしまいましたね。」

シュウジは不服な態度を見せつつチケットを3枚購入。

シュウジ「3枚で。」

窓口の人「かしこまりました。」

シュウジからチケットを受け取ると少し笑顔になる主審。3人は水族館に入場する。

◯水族館・ロビー

入り口には大きなシャチの水槽。楽しそうにしているケーコ。

ケーコ「ねぇ、おっきいいね!!」

シュウジ「おっきいね〜。」

すかさず突っ込む風間。

風間「おっきいねぇじゃねだろ。あるだろもっと。」

シャチの水槽に近寄る二人。

ケーコ「ねぇねぇ、あれ目じゃない?目?笑」

シュウジ「あれ、傷じゃね?笑笑」

ケーコ「えー笑、絶対目なんだけど。」


シュウジ「あ、あれカメじゃない??」

別の水槽を指差すシュウジ。風間がちょっとキレる。

風間「何やってんだほんとに。シャチの話してんだろ。」

中村「割と自分勝手なのか香川、パスがつながりません!」

ちょっと不機嫌そうにするケーコ。

ケーコ「ちょっと、聞いてる〜??」

シュウジ「あ、ごめんごめん笑」

と言って、しれっとケーコの手を握ってカメの水槽につれていくシュウジ。

実況のボルテージが上がる。

中村「おっと!!いきなり!!前に出る香川。」

突然、機嫌が良くなる風間。

風間「いい!!すごく!!!いい!!!違和感ありませんよ!!」

照れながら、手を握っていることには触れないケーコ。

ケーコ「笑笑。そんなカメ好きなの?笑」

シュウジ「好きだよ?」

全くカメを見ることなく、ケーコの顔を見つめたまま答えるシュウジ。

中村「香川のドリブルが止まりません!!」

風間「今日、だめかなと思ったら、さっきのシャチの話無視はフェイント??もう!ずるいだろ!!」

風間はとっても上機嫌。主審はホイッスルをくわえもしない。

主審「…。」

中村「ファウルは全くありません!!」

風間「最高のスタートですね!!」

ケーコがシュウジに突っ込む。

ケーコ「ねぇ、全然カメ見てないよ?」

シュウジ「え?そうだった?」

とぼけながら手を繋いだまま水族館の次のエリアに進んでいくシュウジとケーコ。

◯水族館・大水槽エリア

大水槽エリアはイワシやメジロなどの魚が大量に放し飼いされており、座りながら魚群の様子を観察できるエリア。大水槽が目立つようにロビーより少し薄暗い。

ケーコ「うわぁ、こんなに群れになっている綺麗…。」

シュウジ「だよね。せっかくだからさ、座ってみよ?」

ケーコ「うん。」

といって、大水槽を前に二人で座りながら話す二人。

シュウジ「水族館とかでデートって初めてかも」

シュウジの発言に風間がぼそっとひとこと。

風間「うそに決まってんだろ。」

中村「風間さん?」

風間「失礼。」

ケーコもシュウジの発言に突っ込む。

ケーコ「流石にそれはウソ笑」

シュウジ「なんで、なんで?」

ケーコ「さすがに手をつなぐの手慣れすぎてない??」

風間がぼそっと。

風間「ほら。」

シュウジ「そうだった?」

ケーコ「そうだよ?」

シュウジ・ケーコ「笑笑」

シュウジがちょっと攻める。

シュウジ「手つなぐの嫌だった?」

ケーコ「聞く??それ。」

シュウジ「もし嫌だったらどうしようかなって。」

風間がぼそっと。

風間「嫌なわけねぇだろ。わかんだろそんなもん。」

ケーコ「嫌だったら繋ぐと思う?」

シュウジ「つながない。」

ケーコ「なんで聞いたん。笑」

他愛のない甘いやりとりが続く、良い雰囲気の二人。

シュウジ「なんとなく笑」

そう答えると、ケーコに顔を近づけようするシュウジ。

ケーコ「なに?」

と、言いながらそんなに嫌がってないケーコ。

シュウジ「んー。なんも?」

ケーコ「ちゃら。」

なぜかちょっと小声で実況する中村。

中村「おっと、ペナリティエリア内にかなり侵入しております!」

風間「ちょっと、順番間違えすぎてない??」

ホイッスルはくわえているが吹くことはない主審。

主審「…。」

少し顔をシュウジから離すケーコ。

ケーコ「もう笑審判の人に吹かれちゃうよ?」

シュウジ「え?なんもしてないじゃん。」

そっと、ケーコの肩に手を、回すシュウジ。

主審「…。」

風間「ちょっと、主審甘くない??」

中村「さぁ、ペナルティエリア内での攻防が続きます!」

そんなに抵抗しないケーコ。

ケーコ「そんなに積極的だったっけ、シュウくん?」

逆に顔をシュウジに近づけていくケーコ。

大喜びの実況陣。

中村「ここで、まさかのカウンター!!」

風間「最&高!!!!」

ケーコのカウンターに歯止めがかからくなりつつある二人。シュウジが、ケーコの肩に寄せていた方の手をケーコの脇にまわす。

ケーコ「ちょっと、くすぐったいよ」

シュウジ「いいじゃん。」

ケーコ「ばーか。」

それを聞いてシュウジが一気にケーこにキスをしようと顔  を近づようとする。

主審「ピーーーーーーーーーーーー!!!」

実はすぐ後ろに座っていた主審がホイッスルを大く吹く。

中村「ファーーーーール!!!」

風間「まぁ、当然ですね。(小声で、あとちょっとだったのに…)」

中村「二人ともはどめがかからなくなってましたからね。」

風間「これは止めますよね。ちぇっ。」

主審は二人の目の前まで歩いていき、シュウジ・ケーコ両者にイエローカードを提示する。

中村「両方にイエローカードですね。」

風間「これは、両成敗です。ただ、反省しなくてもいいです。」

中村「え?」

風間「いえ、何にもありません。」

主審にイエローカードを提示されて落ち着いた二人。

ケーコ「あーあ、私もイエローカードだされちゃった。」

シュウジ「ごめん、ごめん。」

ケーコ「イエローカードってさ、何枚もらえるの?」

シュウジ「一枚まで。二枚目はレッドカードになっちゃうよ。」

ケーコ「あ、そっか。じゃぁ、もう悪いことできないね?」

シュウジ「だね笑。気をつける。」

良いムードになりつつ、風間がひとことはさむ。

風間「中村さん、香川さんって、ちゃらくない?」

中村「…。。」

答えられない中村。

シュウジとケーコは立ち上がって次のエリアに向かって歩いていく。

◯水族館・深海コーナー

深海コーナーはあんこうやリュウグウの使いなどの珍しい深海魚が見られるエリア。大水槽エリアよりもさらに暗い。

風間「深海コーナーくらっ…、今の二人には危なくないですか?」

中村「さぁ、この深海コーナを無事通過できるのでしょうか?」

深海コーナーに入っても手をつなぎ続ける二人。

ケーコ「うわぁ、あんこうだ。かわいい。」

シュウジ「でか、かわいい??」

ケーコ「え、なに?かわいいじゃん。」

と言われた後に、しれっとケーコの頭をやさしく撫でてあげるシュウジ。

ケーコ「なに?笑」

シュウジ「笑」

ケーコの問いかけにただ笑うシュウジ。風間が、みんなが思っていることを言う。

風間「これさ、もう好きじゃん?」

中村「…ですね。イエローカードをもらわずデートを終わらせることができるかというところですかね。」

風間「二人とも後一枚で、デート強制終了ですからね。」

 アンコウの水槽から、深海鮫の水槽へ移動するシュウジとケーコ。深海サメの水槽付近はさらにくらくなり、人通りもほとんどない。

ケーコ「え、この鮫動いてる?」

シュウジ「あ、ちょっと動いた。」

深海鮫の水槽からしばらく動かないない二人。二人の声がだんだん聞こえなくなる。

シュウジ「…。」

ケーコ「…。」

深海鮫の水槽は二人の姿がかろうじて視認できるくらいの暗さ。

風間「あれ、二人どうしましたかね?」

中村「ちょっと、確認できないですね。」

少しすると、ケーコの声がちょっとだけ聞こえてきた。

ケーコ「こらぁ…。(小声)」

シュウジ「んー?(小声)」

とぼけるシュウジ。

ケーコ「もうっ…。」

シュウジ「なに?笑」

すかさず風間。

風間「なに?じゃねぇよ!!!」

中村「これは…、一体何が起こっているんでしょうか?」

風間「いや、やってんだろこれ。」

暗闇でよく見えないが主審がホイッスルを吹いた。

主審「ピーーーーーーーー!」

中村「あーっと!!ここでファウル!」

風間「これは…まずいですね。カード出ちゃうかも。」

シュウジが審判の前に駆け寄り、人差し指を横に振りながら何もないとアピールする。

シュウジ「ない!なに!なんもないって!」

それに対し主審は、首を複数回横に振る。

主審「…。」

中村「デートフェアプレイ精神に著しく反していれば、カードの対象になります。」

暗闇でよくシュウジとケーコの間に何が起こっているのかわからないので、主審はビデオテープのジェスチャーをする。

主審「…。」

中村「おっと、これはビデオ・アシスタント・レフェリー、VARでの確認になります!」

風間「何もみえませんでしたからね。」

◯水族館・深海コーナー入り口

 主審が小走りで深海コーナーから出て、深海コーナーの入り口になぜか設置されてあるモニターを険しい表情でチェックする。

中村「我々もVARチェックをしてみましょう。」

深海鮫の水槽付近のシーンが明るくなった状態で流れる。

中村「さてさて…?」

風間「どうなっているんでしょうか?」

シュウジが人差し指でケーコのほっぺたをこしょこしょ、している映像が流れる。

映像を見て呆れながら喋る風間。

風間「なんだこれ。何の映像なのこれ?」

中村「おっと、これは、香川が玉田のほっぺたを触っているんでしょうか…?」

さらにVTRがゆっくり再生される。

風間「こんなのスローにしなくていいだろ。」

中村「これー、いちゃついてるだけですね。」

VTRが終わり、画面を見つめる主審の姿。ひと呼吸おいて

頷く主審。

主審「…。」

頷くと主審は小走りで再び深海コーナーの中へと走っていく。

◯水族館・深海コーナー

小走りで再びシュウジとケーコの前に現れる主審。

シュウジ「で、どうなんですか?」

ケーコ「…。」

中村「さぁ、判定が出ます!」

主審はセーフのジェスチャーをして、ファウルがなかったことを認定する。

主審「…っ。」

風間「ねぇに決まってんだろ。」

風間が冷たくつっこむ。ほっとするシュウジ。

中村「ファウルはありませんでした!!」

風間「私としてはカードもらってほしかっ

たですね。」

風間はもっと刺激的な展開を期待していた。

ケーコ「もう…。シュウくん、すぐ触ってくるよね?」

シュウジ「審判の人のおかげで助かってる笑」

笑って誤魔化すシュウジ。

ケーコ「助かってるのは私の方なんだけどね。」

ちょっと冷たく返すケーコ。

シュウジ「反省してる。」

と言って手再びケーコの手を繋いで先へ進むシュウジ。

風間「『反省』って言葉は反省してない男しか使わないんだよなー。」

中村「さぁ、首の皮一枚繋がった香川、デート再開です。」

◯水族館・クラゲコーナー

クラゲコーナーは、ライトアップされており、オーロラのように美しく光るクラゲたちを見られる幻想的な空間。

ケーコ「きれい…。」

シュウジ「綺麗だね。」

シュウジとケーコはカラフルにライトアップされたクラゲの水槽前に近づく。

ケーコ「いい時間帯だね。」

シュウジ「そうだね。」

ケーコ「いかにも、って場所だね。」

シュウジ「いかにもって?」

ケーコ「え、それ聞くの?」

シュウジ「笑笑、ごめん。」

風間が冷たく突っ込む。

風間「笑ってんじゃ、ねぇよ。」

ケーコは少し顔をくしゃっとしてシュウジの顔を見る。

ケーコ「まぁ、シュウくんは結構、順番間違えがちだよね笑」

シュウジ「え、そう??」

ケーコ「かなり笑」

申し訳なさそうに一瞬、水槽の方に目を逸らすシュウジ。

シュウジ「あのさ…。」

ケーコ「うん。」

シュウジ「会社でも言ったけど、やっぱ玉ちゃんが好き。」

中村「シューーート!!」

ケーコ「…。」

少し照れ笑いするケーコ。

ケーコ「まぁ、いいんじゃない?」

シュウジ「いいんじゃない?って」

ケーコ「わかってんじゃん笑」

シュウジ「笑」

ケーコ「うーん…。笑」

ちょっと首を傾げるケーコ。

シュウジ「え?」

一瞬だめかと思うシュウジ。

ケーコ「いいよ。」

風間「でしょうね。」

わかりきった回答にむしろ冷静な風間。

中村「決まったぁぁぁぁぁ!!!!後半45分香川決めました!!」

互いにギュッと抱き合うシュージとケーコ。

主審もそれを見届けて、ホイッスルを口にくわえ試合終了を宣言しようする。

主審「…。」

そうしていたら、そっと口付けをかわす二人。

シュウジ・ケーコ「…。」

主審が咳き込む。

主審「うんっ…!」

シュウジ「あ、やべカードでちゃうね。」

ケーコ「え、狙ってたんじゃないの??笑」

主審が両手を上げてホイッスルを吹く。

主審「ピーーーーーーーーーーっ!」

中村「試合終了!!!」

風間「ナイスゲーム」

中村「ナイスゲームでしたねぇ。」

風間「ちょっと香川さん、チャラかったんで少しだけ今後が心配ですが。」

中村「実況は中村、解説は風間千尋さんでお伝えしました。」

風間「ありがとうございました。」

<シュウジのスタッツ>
トータルスコア:シュウジ 1 -0 ケーコ 
会話支配率78% 
シュート 15本
枠内シュート 8本
会話パス成功率 68%
ファウル 数えきれない。
イエローカード 1
レッドカード 0
オフサイド 0

終わり

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