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「うわさのくすり」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.1 (1/7)
「この男が、それほどあくどい犯罪者なのだろうか……」
殺風景な取調室で、ベテラン刑事は、首をかしげた。
彼には自信があった。長年の経験から、容疑者を見れば、悪いやつがどうか、すぐに勘がはたらく。
しかし、目の前で取り調べをうけている四十手前くらいの色白の男は、それほど悪いやつには見えなかった。ひどくやつれてはいるが、どこか知的で、 身なりもきちんとしている。重要な使命にかられているような雰囲
「うわさのくすり」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.1 (2/7)
数年前、新種の伝染病が発見されたという〝うわさ〟が、ひろまった。その伝染病は致死率が高く、感染者はほぼ確実に死にいたるというふれこみだった。
そんなとき、ちょうどいいタイミングで市場に出回りだしたのが、この錠剤だった。
錠剤は高額ながら、爆発的に売れていた。なぜなら、これで伝染病を予防できるという〝うわさ〟も広まっていたからだ。
一方で、錠剤の効果をあやしむものが現れた。そして調査の結果、錠
「うわさのくすり」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.1 (3/7)
人々は伝染病の存在自体に、疑問をいだきはじめた。
もしやよからぬ輩が、金もうけのために、伝染病のうわさを流し、偽の錠剤を売っていたのではないか。そうだとしたら、ひどい詐欺だ。
世間の空気をかぎつけ、新聞やテレビは「重大な詐欺事件だ!犯人をさがせ!」と連日報道した。
そして、とうとう警察が捜査にのりだした。
捜索隊が錠剤の瓶に記載されている場所にたどり着くと、そこはうっそうとした森だった。そ
「うわさのくすり」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.1 (4/7)
捜索隊はおそるおそる、はしごをおりて行った。
はしごをおりはじめてから、ずいぶんとたったが、まだ底はみえない。もう地下五階分くらいは、おりたのではなかろうか。
足を踏みはずしたらと思うとぞっとする。また、こうしている間に、犯人に穴がふさがれ、出れなくなってしまう可能性もある。
穴の深さを不気味に感じはじめた頃、やっと足が地面に触れた。すると、まわりの壁が光りだした。
そこはキューブ型の小部
「うわさのくすり」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.1 (5/7)
むかしむかし、ジャングルの奥に小さな村があった。
ある日、村人のひとりが森へいくと、しげみのかげに赤い猿が倒れているのをみつけた。だいぶ弱っているが、まだ死んでいない。
村人は、猿を看病しようとつれてかえったが、間もなく死んでしまった。
それから数年後、猿のことなど忘れていた頃、その村に赤鬼があらわれた。
そして赤鬼は、村に火をはなち、村人もろともすべて焼きはらってしまったという。
「ど
「うわさのくすり」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.1 (6/7)
男の話を要約すると、こういうことだった。
そのジャングルでは大昔、猿を感染源とした、あるウィルス性の病気が蔓延した。そのウィルスは感染しても、一見無害に見える。しかし、ある日突然、発病する。発病したら最後、数時間後には、死亡する。
これを聞いて、刑事は反論した。
「なるほど、謎の伝染病は実在したというんだな。しかし、それでは赤鬼の説明に、なっていないではないか」
「ええ、そうですね。ところ
「うわさのくすり」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.1 (7/7)
赤鬼病の真相を知った研究者は、大いそぎでジャングルからもどった。
まずは彼を雇っていた製薬会社に、ウィルスが世界に広まったら大変であること、そしてその病気がこの社会にひろまってしまう前に、新薬を開発しなければならないことを熱心に説明した。
しかし、今後ひろまるかどうかもわからない謎の病気の研究に、企業がぽいと大金を投じてくれるはずもなかった。
それでも研究者はあきらめず、あらゆる会社にでむき