「うわさのくすり」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.1 (1/7)
「この男が、それほどあくどい犯罪者なのだろうか……」
殺風景な取調室で、ベテラン刑事は、首をかしげた。
彼には自信があった。長年の経験から、容疑者を見れば、悪いやつがどうか、すぐに勘がはたらく。
しかし、目の前で取り調べをうけている四十手前くらいの色白の男は、それほど悪いやつには見えなかった。ひどくやつれてはいるが、どこか知的で、 身なりもきちんとしている。重要な使命にかられているような雰囲気もあった。
「おれの勘もとうとう、にぶってきたか」
刑事は、事件の内容をまとめた資料に目をやった。書類には、あやしげな色の錠剤が、小さな袋に入って、添付されていた。
「なるほど、この錠剤がれいの……」
刑事は錠剤をながめながら、世間を騒がせたある事件のことを思い出した──。
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