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私だけの詩領域

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詩の価値なんて知らないよ これは私だけの空だ
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#小説家

終末の恋人たち

終末の恋人たち

「明日さ」

「うん」

「デートしよう」

「いいよ どこで?」

「きみがいれば どこでも」

「そういうことじゃないでしょう」

「ごめん」

………

「もう夜になるね 夕ごはん どうしようか」

「わたし なにかつくるよ なにがいい?」

「きみがつくるものなら なんでも」

「それが いちばん困るんだって」

「ごめん」

………

「ねえ」

「うん」

「明日 どうしようか」

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あなたを迎えにいく日まで

あなたを迎えにいく日まで

年末、というのはどうしてこんなにも、
人生を直視せざるを得ないんだろう。

あの頃のわたしが生きていた部屋で、
ひとり呆然と、時計を眺めている。

人間がつくりだした概念の手のひらで、
私たちは否応なく、
「来年」というものに向かわされている。

小説家になりたかった。
小説家になれなかったら、
私の人生に意味などないと思っていた。

書いて書いて書いて書いて、
40分に一本しかない電車を待って、

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恋文の花吹雪

恋文の花吹雪

桜の花びらが美しいのは、神様が破り捨てた恋文の破片だかららしい。

数多の恋で星は汚れて、清掃業者は日々過労。

恋を失ったような顔で、恋に恋して恋い焦がれる、少女たちの向かう地獄。花が咲き乱れる地獄。

「愛してる」のエネルギーで自転は起こる、と唱えた研究者が死んだ。遺書の代わりに残されていたのは、未投函のままの恋文だった。相手は10年も前に、別の男と愛し合い、一人で死んでいた。

「尚、愛して

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東京未遂

東京へ逃げたい、と一度でも思ったことがある人とは、深い関係になれると信じている。

行きたい、ではない。
逃げたい。
正確に言語化するなら、「ここではないどこかで救われたい」。

家出しても、行き場所なんてどこにもなかった頃。ネカフェは徒歩圏内にはなくて、コンビニすら遠くて、泊めてくれる人もいなくて。街灯のない夜道を、涙を流すのも忘れて徘徊していた頃。私は東京に行きたかった。ほんとうに行きたかった

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