マガジンのカバー画像

母の介護 そして別れ

25
運営しているクリエイター

#認知症

しりたかったこと

しりたかったこと

「〇〇さんと結婚して幸せだったのかね」

発熱から体調を崩し
あれよあれよという間に
まさかの心肺停止となり
蘇生処置を受け
ICUで生命維持装置をつけられた
意識のない母のベッドサイドで

間もなく終わりの時を迎えるであろう
母の生涯を振り返るように
母の再婚相手である
父との結婚が幸せだったのだろうかと
母の妹である叔母がゆっくりとつぶやいた

そしてその時私は
今しかないと思って
母に聞かな

もっとみる
家でも車椅子

家でも車椅子

母の身体は段々と衰えてきて
椅子に座っても
身体を支えられなくて
上体がグニャっと
力が入らない状態になってきた

自分で体勢を
保つことができなくなると

小柄な母を
ベッドから車椅子に移動させるだけでも
それまでよりかなり
時間や手間がかかるようになり
私自身の体力と注意力
両方の負担が大きくなった

もしも自分が体勢を崩したら
母も道連れで
下手をすると怪我をさせてしまうので
これまで以上に

もっとみる
プロ

プロ

ベッドから身体を起こして
立たせようとすると
足が痛むようで
顔をしかめて
歩くことができなくなった母

「ここが痛い?」と
色々なところを
触わりながら母に尋ねると
足でも足以外のどこでも
私が触ったところすべてを
痛いと答えて

どこがどう痛むのか
全くわからず
どうしたものかと考えこんでしまい

このまま、もう歩けなくなってしまうのか・・

そして寝たきりになってしまうのか・・

寝たきりに

もっとみる
真夜中の戦士

真夜中の戦士

母を起こすことから始まる
いつもの朝

母が寝ている部屋の襖を開けると
目に入ってきた母のベッドの景色が
いつもと何か違っている

一体何が起こったのか?
すぐには理解できない光景が飛び込んできて
一瞬とまどったが

しかし
ほんの数秒で状況を把握して
その途端
私は慌ててベッドに駆け寄った

母は、介護用ベッドの
転倒予防の鉄柵の間の狭い隙間から

頭をだらんと下に垂らし
その垂れた頭の下の床は

もっとみる
認知症の母との初詣

認知症の母との初詣

神社に続く急な長い坂道を
母が乗った車椅子を
息を切らして一生懸命押しながら
やっと坂を上りきって
その先の神社の境内に入っていく

初詣で皆がお詣りをするのは
神殿までの数段の
階段をのぼった先になるが

そこまで歩くことができない母のため
神殿が見える階段下に
母が乗った車椅子を停める

そして車椅子に座る母に向かって
私は少しかがみこんで
こうやって手を合わせてお詣りしてねと
両手を合わせて

もっとみる
ぶらぶら

ぶらぶら

認知症の母の背中側から
両脇の下に私の腕を入れて
身体を支えて歩かせようとすると

歩くのが面倒なのか
時々母は
軽く足を浮かせて
ぶらぶらさせて
体重を預けてくることがあった

小さな子供の
お茶目な悪戯のようで
微笑ましく思えて
クスッとなっていたが

小柄な母が
足腰も弱って
認知症も段々と進んでいって

自然と
私が母の面倒を見る
保護者の立場になって

少しずつ
親も自分と同じように

もっとみる
臭う

臭う

母は要介護4くらいの時から
立ち上がるのに介助が必要になり
一人ではトイレに行けず
リハビリパンツに尿取りパッドを
常に使用するようになっていた

しかも認知症のせいで
時々おむつの中の便を手でさわってしまったり
その手を周りにこすりつけたり・・・

もちろんそんな惨事に気づいた時には
母親自身と周りの寝具など
すぐに汚れを落として
清潔な状態にしていたが

いくら清潔に綺麗に整えても
母は常にお

もっとみる
大事件

大事件

触ってはいけない
不浄なものだという事が
認知症の母には分からなくなっていて

便が出てしまったおむつの中に
手を入れてしまう事がある

母はおむつの中が
気持ち悪くて
落ち着かなくて
手を入れてしまうのか

ただ不快を感じたり
自分の欲求に従って
やっているだけの事なのだろうが

母のベッドに近づいた時に
何となく臭ってきたり
母の手が汚物で汚れているのを
発見してしまったら
すぐに対処しないわ

もっとみる
東京新聞

東京新聞

昔、一時期
家で東京新聞をとっていた

東京新聞と
うちの家族のかかわりは
ただそれだけだったけれど

いつのまにか
母の頭の中では
私が
東京新聞に勤めていることに
なっていたようで

ある日
「東京新聞を取り始めました」と
デイケアの職員の方が
私に言ってきた時にも
ああ、そうなんだと
ただ思っただけで

仕事に介護にと
割と忙しくしていた
その頃の私は
別に気に留めることもしなかったが

もっとみる
ちょこんと

ちょこんと


小柄な母が
玄関の上がり框に
幼子のように
ちょこんと
大人しく腰掛けている姿を見て

自宅に車で迎えに来てくれた
デイケアの新しい職員の方が
思わず「かわいい」とつぶやいた

昼間に
グループホームで
ショートステイ中の母の
様子を見に出かけると

ちょこんと
椅子に埋もれるように座って
テレビを見ている
母の横顔がみえた

とある夜
家の中で転んで入院した母のもとへ
着替えや日用品を持って

もっとみる
夜中の冒険

夜中の冒険

朝、母を起こそうと
ベッドの脇まできたが
ベッドに寝ているはずの
母の姿が見えない

布団をめくってみたが
そこにもいない

一体どこに行ってしまったのか
母が消えてしまった

家の中の伝い歩きも
一人ではおぼつかないので
まさか
一人で起きて
どこかへ行くとは到底考えられない

母を起こしに来た時に
ベッドに密接している押入れが
開いていることには
すぐに
気づいてはいたが

押し入れとベッドに

もっとみる
行く日ですか

行く日ですか

朝、母を起こしに行くと
「今日は行く日ですか?」と
デイケアに行く日かどうか
尋ねてくることが多かった

認知症が進んできた母は
時々自分がどこにいるのか

さらに
自分が誰なのかも
分からなくなることもあったが

デイケアと認識していなくても
どこかに出かけるか出かけないかは
分かっていたらしく

デイケアに行く日には
私が母に
朝食を食べさせ
おむつを取り替えて
洋服を着替えさせて
玄関まで手

もっとみる
モヒカン

モヒカン

「○〇(←母の名前)さんの,かっこいい髪形が好きです」

毎年母の誕生日に
グループホームの職員の方々からのメッセージと
母の写真が貼られたカードをいただいていて

冒頭の言葉は
ある年の誕生日カードに
職員の方が書いてくださったメッセージだが
その頃、母の髪の毛は
私がカットするようになっていた

介護初期の頃は
美容院に行く母に私が付き添っていたが
そのうち
車いすでも行けるカットのお店になり

もっとみる
おはようってなぁに?

おはようってなぁに?

朝、いつものように
ベッドで目を覚ました
認知症の母に
「おはよう」と声をかけると

「おはようってなぁに?」
と尋ねられた

母はたびたび
自分がどこにいて
何をしているのか
わからなくなったり

はたまた
自分が誰なのか
わからなくなったり

挙句の果てには
ある日、年齢を尋ねてみると
6歳と答えることもあったが

そんな状態の母にとって
「おはよう」が分からなくても
全く不思議ではない

もっとみる