制作ノート:「社会人のための楽器の継続と上達の手引き」
書籍「社会人のための楽器の継続と上達の手引き:練習の習慣化から、音楽性を深めるまで」(ペーパーバック版、Kindle版がそれぞれ販売中です!)のおまけ記事です。制作の背景と、出版にあたって感じたことを書いています。
※この本には当初、noteの有料マガジンとして公開された「note版」が存在しましたが、本書がAmazonでの独占販売となった関係上、2024年7月に公開を終了しています。
本書の輪郭
制作のきっかけ
本書は、私にとって1冊目の書籍として構想されました。
短いブログ記事やnoteの記事であれば多少は書き慣れていましたが、書籍というのはそれよりずっと長くなりますし、全体のしっかりした構成も必要なものです。なので、最初の書籍はなるべく具体的な話が盛り込めるテーマで、自分にとって書きやすいものを選ぼうと考えました。そこで選ばれたのが、自分が10代の頃から試行錯誤を続けてきた、楽器の演奏技術の習得についての話です。
私が趣味にしているアイルランド音楽とコンサーティーナという楽器については、SNSの投稿でもたびたび触れていますし、noteにもいくつか記事を書きました。音楽を通した人間関係については「友達ってサイコー、友達を増やしてウキウキ人生を送ろう (2023.11.17)」で、楽器そのものについては「コンサーティーナより美しい楽器ってある? (2023.12.3)」でそれぞれ書いています。コンサーティーナの演奏に関しては、執筆開始の時点で8年以上継続しており、人前でライブをするなどの経験も重ねてきたので、楽器を本格的に趣味にしたいという人に役立ててもらえるようなまとまった知識と思想が、自分の中に十分に存在しているはずだと判断しました。
当初はnoteの有料マガジンとして公開することを目標に執筆を開始しましたが、個人で電子書籍を出版できるKDP(Kindle Direct Publishing)の詳細を執筆中に知ったことから、Amazon Kindle向けの電子書籍としても出版する形としました。
(2024年3月29日追記:その後、Amazonでペーパーバックのプリントオンデマンドでも出版できるシステムがあることを知り、めでたくペーパーバック版も発売になりました!)
本当のテーマは徐々に出てきた
本書のテーマは楽器の効果的な上達方法であり、最初はそれについて具体的なノウハウを細かく書いていこうと考えていました。実際にそれはそれで、可能な限り詳しく書いています。しかし、人が大変な過程を前向きに頑張れるかというのは、結局はそこに主体性とか意味の感覚を見つけられるかといったことにかかっていて、これは楽器を継続していけるかということにも、最終的に到達できる表現や技術のレベルにも関わってきます。
演奏するということを人生の意味というもっと大きな枠組みの中に組み込むというのは、執筆途中で「隠されたテーマというより、はっきりと打ち出すべきテーマだな」と感じたので、本文中でもそのように書きました。私が楽器の演奏活動を通して最終的に得たものは、生きるということへの意味の感覚であるからです。
「人にとって、本当に意味のあることって何なのだろう」というのは、私がこれまで生きてきた中でずっと考え続けてきたことです。本書の目的は、楽器の上達のために使えるノウハウを共有すること、つまり何らかの「答え」を提供することにありますが、部分的には読者に対する「問いかけ」も含んでいます。以下に引用する部分などがそうです。
楽器の演奏というのは、自分の中に表現したいものがなければしょうがないので、こうした問いを立てることがただの精神論の類だとは思っていません。これは演奏者として必要な習慣です。
背景にある思想
本書の正式タイトルの確定にあたって(これに悩んだ話は後述します)、ふと「この本を通して私が言いたかったことは結局は何だったのだろう」という疑問が湧きました。
そこで、ホワイトボードに図を描くようなイメージで改めて整理してみました。そうすると思ったよりシンプルで、それは以下の3つということになります。
自分で考える、自分らしくある(他人の言うことはさほど重要ではない)
世界と繋がる、人と繋がる(人の幸福度に最も影響する要因は人間関係である)
それ自体をそれ自体として楽しむ(意味なんか知るか! それ自体が意味だ!)
この3つを横から見たピラミッドのように三角形に配置して、その中心に「人生の意味をつくる」という言葉を置いてみると、まあだいたいそれが私が本書で言いたかったことなのかな、という感じがします。
白黒つかない世界と、書き手の悩み
言葉というのは、何かを限定するための道具です。「何事も状況次第でケースバイケースだし、すべては人それぞれだよね」と言えば、それは間違ってはいませんが、それ以上意味のあることは何も言えなくなってしまいます。
「誰も傷つけずに何かを言うことはできない」という考え方があります。ある主張をすれば、別の考え方や感じ方をする人が必ずいるし、客観的に見てほぼ合っているという内容でも、例外的なケースはいつでもあります。だから人が何かを言ったとき、「それは違う」という意見が出てくるのは仕方がないです。それでも、何かを伝えようと思ったら、ある立場を取ってそれを言う必要があります。
本書の第六章の「視界を広げる、自分の軸を持つ」において、クラシック音楽の権威に疑問を投げかけている部分がありました。これは普通の大人が楽器を始める際に、そうした「ちゃんとした正しい音楽」のイメージによって、自分自身の最初の小さな一歩にためらいを感じてしまうという現象があって、本書のテーマからして無視できない問題だと考えたため、詳しく取り上げました。でも、クラシックを愛する人たちには、ここで述べた内容に反発を覚えた読者もいるかもしれません。そのように感じられたのならごめんなさいという気持ちですが、私はどうしてもこれを言う必要がありました。
内容の正当性や根拠について考えるなら、正直なことを言うと、私は演奏者として自分の技術レベルが高いとは全然思っていません。音楽理論や音楽史についてめちゃくちゃ詳しいというタイプでもないです。楽器仲間にはアマチュアでもすごく上手い人がゴロゴロいますから、私のことを個人的によく知っている音楽仲間がこの本が読んだらどういう感想を抱くかということを想像すると、ちょっと恥ずかしいような気もします。
それでも、私自身の知識や経験の中に、他の人にとって何か有益なものがあるはずだということは信じています。そういうことを信じていなかったら、書籍の執筆という大変な作業を最後まで行うことはできなかったです。
少し細かいデータの話
完成に要した日数
日付の記録について、ざっと見てみましょう。
カッコの中の数字は、テーマ決定から何日目かを表しています。さきほどの話のとおり、テーマというのは書いているうちに少しずつ変化しつつ明確になっていった面があるのですが、一応「楽器の本を書くぞ」と決めてからということですね。
テーマ決定:2023年12月1日
構成開始:2023年12月1日
執筆開始:2023年12月4日
一応の執筆完了:2024年1月29日(60日)
全体の見直し開始:2024年2月6日(68日)
全体の見直し完了:2024年2月13日(75日)
初版の原稿確定:2024年2月14日(76日)
さらに、他にももう少し作業があります。
正式な書籍タイトルを確定:2024年2月13日(75日)
Kindle版の表紙デザイン完了:2024年2月14日(76日)
noteでの有料マガジンとして公開:2024年2月14日(76日)
Kindle向けの電子書籍として出版申請:2024年2月15日(77日)
Kindle向けの電子書籍として公開完了:2024年2月17日(79日)〈※Amazonの商品ページ上の発売日は2月16日となっている〉
以上のような感じで、基本的には平日のフルタイムを使って行った仕事でしたが、全体でちょうど2.5ヶ月ほどかかった形になります。
いろいろなソフトを使って出版準備を進めていたときの話は、ブログ記事「最初の原稿が出来上がりつつある (2024.2.7)」にも書きました。原稿を編集している画面の様子などを載せているので、人が専門的な仕事をする様子を覗くのが好きな方は、そちらも見ていただくと面白いかもしれません。
原稿を書き上げたとき、それからnote版として公開完了したときにも大きな達成感がありましたが、Kindle版の申請が通ったあと、いつも見慣れたAmazonの画面で自分の名前で検索してみて、自分の書いた本(しかも自分がデザインした表紙)が出てきたときにはさすがにテンション上がりました。頑張ってよかったと思いました。
タイトルを決めるのって難しい
執筆を始めた当初、本書には「社会人のための楽器を楽しんで上達する考え方」という仮タイトルがつけられていました。
この仮タイトルについては、執筆中に「間違ってはいないけれど、どうもしっくりこないな……」という感覚がずっと頭の片隅にあって、かなり悩みました。最終的に、見直し作業が完了するくらいのタイミングで現在のタイトルを思いつき、そのまま改題して確定させました。「思いつく」というのは、たとえば半日とか集中して考えたから出てきましたということはないので、出てこないときは本当に出てきません。出版作業の大詰めまで課題として残っていたので、けっこう焦りました。
書籍のタイトルを決めるとき、考慮すべきことというのは意外と多くあります。以下のような観点が考えられるでしょう。
ぱっと見で人目を引くか(手に取ってもらえなければ始まらない!)
その本の思想と、主張したいポイントを的確に表しているか
語呂のよさはあるか
ネット上で検索キーワードとして引っかかりやすいか
このような点をすべて気にした上で、たったの二十文字前後といった範囲に簡潔にまとめる必要があります。これは明らかに難易度の高い仕事です。ニュースの原稿を書く場合などに、昔からよく言われる言葉で「長い文章を書くよりも、短い文章を書くことのほうが時間がかかる」というのがあります。記事の見出しやタイトルというのは、その最たるものと言えるでしょう。
しかし、私にはTwitterの文字数制限の中で、長年自らの思想とネタツイを投稿し続けてきたという経験があります。Twitterをやってきて本当によかったと思いました。ありがとうTwitter!!(これは半分冗談ですが、「事実でしょ」と言われたら否定できません。なぜなら事実なので)
最終的な書籍タイトル「社会人のための楽器の継続と上達の手引き:練習の習慣化から、音楽性を深めるまで」については、そんなにキャッチーというかインパクトのあるものではない、ごく普通の書籍名に落ち着いたという印象ですが、一応は納得できたかなという気持ちでいます。
表紙のデザインが楽しかった
以前から、自分がライブするときのチラシを自分でデザインしたりするのが好きでした。本書の最後のほうの章で、私はアートにそこまで関心のある人間ではなかったという話が出てきますが、こういう視覚的な表現に関してはけっこう好きなほうです。
使用したのは普段使っているMacと、本来はプレゼンのスライドを作成するためのソフトであるKeynoteです。表紙のハ音記号のモチーフは、Bravuraという音楽記号用のフォントを使用しています。全体の配色はLOLCOLORSというサイトを参考にしました。
デザインに関しては素人なので、凝ったことをやるとそれが一発でバレるだろうなと考え、今のようなすっきりしたデザインに落ち着きました。ただ、逆にシンプルな表現こそアラが出やすいというのもどの分野でもよくある話です。素人っぽいさが滲み出ていないといいのですが。
この表紙デザインの作業はかなり楽しかったです。もちろん真剣にやるし悩みもするのですが、2ヶ月もの間ひたすら原稿を書き続けていた中で、完成間近になってこうした違った作業をするというのは、夏の暑い日に窓から不意に涼しい風が吹き込んできたときのような感覚がありました。
文字数と熱量
本書の構成としては、第一章から第九章に「はじめに」と「おわりに」がついた全11章でできています。全体の文字数をカウントしたところ、8.8万字という数字になりました。一般的な書籍のボリュームについて少し調べてみると、文庫本では10~12万字程度、新書では8~12万字程度になるのが普通なのだそうです。なので、本書も立派な1冊の本と呼べるだけの内容は盛り込めたのかなと思います。
章ごとの文字数のデータは省きますが、分量が1万字を超えた章としては、以下の4つがありました。
最初のふたつは、練習の継続と演奏技術の話で、これは楽器の上達についての本なのだから当然ですね。面白いのが残りのふたつで、人間関係を扱った章にも同じくらいのボリュームがあり、さらにモチベーション低下への対処というテーマに独立した章を立てたら、これもけっこうなページ数になったという形になっています。きっとここに、私が特に伝えたいことというのが存在していたのでしょう。
演奏者の心理的な側面にスポットを当てること、人間関係をモチベーションやスキル向上の源泉として重要視するというのは、楽器について語った本としてはやや珍しい傾向で、結果的に本書の特長になってくれたものと思います。
振り返りと展望
書き終えてみて
大変であり、楽しかったです。「人にとって楽しくて意味のあることは、常に大変なことなんだ」というのは本書の中でも出てきた話ですが、これが本書の執筆にもそのまま当てはまりました。
私が音楽を通して得た喜びや価値の感覚をみんなに伝えたいのだという気持ちについては、本書の中でもたびたび触れました。気持ちが直球すぎて、改めて見返すと照れるような部分もあるのですが、これは私が本当にそうしたいと感じたことなので、本書の完成によってそれが達成できたことはよかったと思います。満足しています。
これから執筆していきたいと考えている2冊目以降の書籍にも、本書の執筆で得られた経験を活かして、この世でいろんなことに悩みながら生きている人々にとって、何か価値のあるものをお届けできたらと考えています。
今後の出版の計画
音楽についての話は出し切った感じがあるので、今後の書籍では別のテーマを扱うつもりです。
ただ、合理的かつ客観的に役立つようなことを考えつつ、自分自身の主観的な感覚を何より重視していこうというメッセージを届けたいというのは、私の物書きとしての姿勢として、今後も大きくは変わらないのではないかなと思っています。別のテーマを扱った今後の書籍でも、おそらく本書と似たようなテイストが現れてくるはずです。
これを書いている2024年2月の時点で構想している書籍について、そのテーマを挙げてみます。
まず、メンタルヘルスの問題や生きづらさを抱えている人に届けたい、生き方の実用的なヒント集。これは書籍名に「サバイバルガイド」という語がつくと思います。それから「人生の意味のつくり方」。これは「私の言いたいこと全部盛り」といった感じの包括的な内容になるので、実際に執筆に着手するのはいくらかあとのことかもしれません。
職業寄りの具体的なテーマとしては、「何者かになりたい」と感じている人がプロアマを問わずクリエイターになるためにはどうしたらいいか、という本。私は楽器以外にもインディーゲーム開発者として活動してきた経験があるので、何らかの形で「クリエイターになる」というのはぜひ書いてみたいテーマです。生きてる以上は自分で何かやろうぜ、というのは私がたびたび言っていることで、「下手でいいから何かやるんだ、何もなさずに墓場まで行くつもりか? (2024.2.3)」の記事などにも書きました。
それと、ものを書くということは私が音楽と同じくらい長年大切にしてきたことなので、執筆の技術についても書いてみたいなという気持ちがあります。ただ、私自身は物書きとしては駆け出しですし、まだそんなに執筆の腕がいいとは思っていないので、これももう少しあとになりそうです。
さらにさらに、これは当初は書籍化する予定ではなかったのですが、株式投資についてのわかりやすい解説書も出す予定です。この話は、本書の執筆の終わりが見えてきたくらいの頃に息抜き的に書き始めた記事だったのですが、思いのほか長く詳細なものになってしまったため、ちゃんとした本にすることにしました。たぶんこれが私にとって2冊目の本になるはずで、現時点での仮タイトルは「投資に正解は存在するか:堅実な株式投資のための入門ガイド」です。
いやはや、たくさんありますね。書きたいものがこんなにあるとは、自分でも思っていませんでした。
でも、やりたいことがあるというのはいいことです。これまで自分が順調な人生を歩んできたとは1ミリも思っていないのですが、いろいろと悩んだり苦しんだりした上で30代という年齢になって、自分の中に言うべきことが結晶してきたというのはよかったと思います。
最後に
この記事の内容としては以上です。本書や私の執筆するものたちに興味を持っていただき、この制作ノートをわざわざ最後まで読んでくれたということを、とても嬉しく思います。ありがとうございます。
この記事でも他の記事でも何度も書いているとおり、私は読み手にとって何か実際的に有益で、なおかつその人の心の深い部分に対しても意味のあることを届けたいと思っています。今後の書籍の出版、それからnoteやブログの執筆についても、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
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