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[SR-001-09] 第八章:モチベーションが落ちたときには

本ページは「社会人のための楽器の継続と上達の手引き」の11ページ中の9ページ目で、「第八章:モチベーションが落ちたときには」の章です。

※本書にはペーパーバック版およびKindle版も存在します。また、書籍の詳細については、シロイブックス公式サイトの書籍情報のページもご利用ください。


心を扱うための原則

努力の問題でないことを理解する

この章は、もしかしたら本書でもっとも重要な部分かもしれません。モチベーションの低下と、その対策について考えてみます。

モチベーションを考える上で大切なのは、それが落ちることは当然あるということを理解することです。ずっと前向きで元気に頑張れる人なんてどこにもいません。そうなるのがダメなことだとか、音楽への情熱が落ちてしまったのだとは考えないことです。モチベーションとは心身の状態であり、意識的なコントロールの下にはないため、努力の問題とは違います。

風邪を引いたときであれば、「努力によって立て直す」ということはしませんよね。栄養を摂るなどの適切な対処をしたら、あとは安静にして、回復を待つということをするはずです。モチベーションについての基本的な方針は、これに似ています。適切な対応をして、あとは待つということです。

「適切にやった上で待つ」というのは、世の中のいろんな場面で現れています。就職活動でどこかの会社に履歴書を送れば、そこから先はあちらの判断になります。きちんと考えて応募書類を書いた以上は、くよくよ考えてもどうにもならないことです。魚釣りであれば、餌やスポットをうまく選ぶということはあっても、遠くにいる魚を自力で近寄って来させるための方法というのはありません。

モチベーションは、このときの魚のようなものだと考えてください。方法が適切であれば、それは戻ってきます。この章で取り上げるのは、「それでは適切な対処方法とは何なのだろうか」という点になります。

続けることも、知識とスキルの問題

この適切な対処方法を取れるようになる上で、必要なことはふたつあります。ひとつは人間の心の仕組みや、何かを学習するという過程で起こってくる現象を知識として知っておくこと。もうひとつは、具体的な行動として効果のあるノウハウを知ってくということです。

楽器の演奏技術そのものが悩みながら苦労して身につけるものであるように、自分のモチベーションとうまく付き合うというのは、人が生きていく上で使えるもっと一般的なスキルであり、試行錯誤しながら身につけていくものです。これは最初はうまく行えなかったとしても、生きているうちにだんだん上手に対処できるようになっていくタイプのものです。

「続けるためのスキル」が実際に続けることの中でしか培えないというのは、なかなかやっかいな話ですね。実際のところ、これさえ与えれば誰でも続けられるようになるという万能の処方箋は存在しません。その人が楽器を続けられたということには、素質と環境、タイミングと運などがすべて絡んでいます。病気に対して薬を飲むことには効果がありますが、最後には本人の回復力次第だ、といった面はどうしてもあります。この章では、なるべく効果のある薬を処方するということを目指していきます。

また、この章の最後では、モチベーションについて最も深い影響を与えるかもしれない「自分には才能がない」という感覚について、どう対処したらいいのかということを考えていきたいと思っています。

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