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    思いやりにあふれたもの、度肝を抜いてくるもの、自分が考えた結果の先を見せてくれるものが好きです。

記事一覧

一人でいることの頭の中 ― 『茄子の輝き』(滝口悠生)

この本のタイトル、何だか見覚えがあると思った方。 そうです。映画『花束みたいな恋をした』に出てきたあの本です。 今村夏子さんを好きな人が好きな本ならば、そして脚本…

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3年前
3

物語の感想を書くということ ―『花束みたいな恋をした』(脚本:坂元裕二)

脚本家・坂元裕二さん作品の愛好家である私にとって、1月29日(金)から公開されている映画『花束みたいな恋をした』はずっと楽しみに待っていた作品だった。 いわずもがな…

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3年前
13

#読書の秋2020 河出書房新社様より優秀賞を頂きました!

一昨年より、別の場所も含め、自分の大好きな作品(本・映画・ドラマ・マンガ・音楽等)について書くということをしてきました。 自分の思っていることを書くのはとても楽…

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3年前
6

作品の質と価値について自分なりに考えてみた―『スター』(朝井リョウ)

朝井さんは、現代を生きる若者の間に起こる現象や感覚を小説で表現していることが多い。物語としても、社会学的な意味でも、毎回読みごたえが抜群でとても面白い。 今年単…

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3年前
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大人になって本を読みはじめたら、若いうちに本を読めと言われていた理由がようやくわかった

私は、作品やその作品を創る人に対して敬愛の気持ちがある。 そういった愛着を持っているもの全てのおかげで、今の私があると本気で思っている。 今回はその中でも、読書の…

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3年前
6

見えない根を思う―『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(末永 幸歩)

私は、ここ2~3年ほどで「自分は今の状況に納得しているか」について敏感になったように思う。 若い頃は、大人に言われたことをしていれば間違いないとか、意見に賛成で…

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3年前
3

抗えないとしても―『さざなみのよる』(木皿泉)

『さざなみのよる』は、主人公・小国ナスミが病気となり、43歳で亡くなるところから始まる連作短編集である。 家族や会社の同僚、そして一度会っただけの人など、ナスミ…

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3年前
14

「正しさ」は正しいか―『まじめに生きるって損ですか?』(雨宮まみ)

雨宮さんが亡くなってから、今日でちょうど4年になる。 読書の秋キャンペーンの間に、この本についてはどうしても書き留めておきたいと考えていたので、書かせて頂きます…

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3年前
3

絶妙なバランスをもつ人―『横道世之介』(吉田修一)

『横道世之介』(吉田修一(著)/2009年)は、長崎から上京してきた大学生・横道世之介の入学から一年間を追った青春小説である。 バブル期の東京での大学生活を中心に描…

キミコ
3年前
6

救いの本―『ファーストラヴ』(島本理生)

私は、気が緩んで話しすぎてしまった時に高確率で言われることがある。 それは「考えすぎだよ」という言葉だ。 その言葉は、心配の表情とともに寄り添って言ってもらえるこ…

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3年前
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無言の世界―『星の子』(今村夏子)

私は、今村さんの書く物語がとても好きだ。 とてもシンプルな言葉で書かれた文章の中に、子供の頃に感じていた(大人になってから感じるものとは少し異なる、けれども現在…

キミコ
3年前
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小説の中で踊る人②―『ダンス』(青山七恵)

前回に引き続き、踊る人についての小説を語りたい。 『ダンス』は、『風』(青山七恵・著/2014年/河出書房新社)に掲載されている短編小説である。 「踊る」というテ…

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3年前

小説の中で踊る人①―『憤死』(綿矢りさ)

私は、小説の中で踊る人が好きだ。 ダンサーやバレリーナに関する話が好きという意味ではない。 (そういう話は読んだことが無い。読んだらとても好きになるかもしれないけ…

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3年前
1

人の物語になりたくないという話―『MIU404 最終回』より ※ネタバレ有

昨年から今年の初めにかけて、はてなブログで愛する人や作品について書いてきた。 →『好きなものは、自分で決めるので』 いろいろ思うところがあり、コロナ禍で書くのを辞…

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3年前

一人でいることの頭の中 ― 『茄子の輝き』(滝口悠生)

この本のタイトル、何だか見覚えがあると思った方。 そうです。映画『花束みたいな恋をした』に出てきたあの本です。 今村夏子さんを好きな人が好きな本ならば、そして脚本家の坂元さんが作中で登場させた本ならば、私もきっと好きだろう。 そう思って読んだ結果、やはりとても心に残る本になったので、今回はこの作品について語りたい。 『茄子の輝き』の主人公は、市瀬という男性である。 市瀬は、20代後半で妻と離婚をしている。その離婚後から30代前半までの彼の思考を、そのまま脳に移植して追体験し

物語の感想を書くということ ―『花束みたいな恋をした』(脚本:坂元裕二)

脚本家・坂元裕二さん作品の愛好家である私にとって、1月29日(金)から公開されている映画『花束みたいな恋をした』はずっと楽しみに待っていた作品だった。 いわずもがな、心に残るものがとても多い映画になった。 坂元さんは、人と人の間に生まれる微細なやりとりや、矛盾することもある白黒つけられない感情などを映像媒体で表現してくれる唯一無二の人だ。 私は、わかりやすく説明できないものによって世の中の大部分が構成されていると思っている。そのような私にとっての世界をそのまま描きながら、そ

#読書の秋2020 河出書房新社様より優秀賞を頂きました!

一昨年より、別の場所も含め、自分の大好きな作品(本・映画・ドラマ・マンガ・音楽等)について書くということをしてきました。 自分の思っていることを書くのはとても楽しく、達成感もありました。 しかし、思ったことを本当にそのまま熱く書いているため、気恥ずかしさなどもあり、このような文章を書いていることを周囲の人には話していません。 そのため、自分の書いていることが文章的に理解されるものになっているか、自分の思いが伝わるものになっているか不安なままに続けてきました。 noteで「

作品の質と価値について自分なりに考えてみた―『スター』(朝井リョウ)

朝井さんは、現代を生きる若者の間に起こる現象や感覚を小説で表現していることが多い。物語としても、社会学的な意味でも、毎回読みごたえが抜群でとても面白い。 今年単行本として出された『スター』(朝日新聞出版/2020年)は、映像作品を創る二人の男性が主人公の話である。 あらすじは以下の通り。(↓公式サイトより、拝借しました。) 新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。 ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。

大人になって本を読みはじめたら、若いうちに本を読めと言われていた理由がようやくわかった

私は、作品やその作品を創る人に対して敬愛の気持ちがある。 そういった愛着を持っているもの全てのおかげで、今の私があると本気で思っている。 今回はその中でも、読書の秋2020キャンペーンに乗っかって、私の思う「本」の良いところについて、語らせて頂きたい。 まず、私はずっと本が好きだったというわけではない。 小学生までは本が好きで読んでいたものの、中学生から高校生では他のことに時間を割かれて読まなくなった。 大学生になって、また少しずつ読み始め、社会人以降は、本を読むことが生活

見えない根を思う―『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(末永 幸歩)

私は、ここ2~3年ほどで「自分は今の状況に納得しているか」について敏感になったように思う。 若い頃は、大人に言われたことをしていれば間違いないとか、意見に賛成ではないけど面倒だから相手に良い顔をしておこうという発想で、とりあえずその場をやり過ごすことが多かった。 今思えば、若い女性だから責任をとらなくていいと思われていることを盾にした、相手への責任転嫁である。軽んじられることを不快に思いながらも、そのことを盾に使うという矛盾した行動をとっていた。 この責任転嫁は、世の中に対

抗えないとしても―『さざなみのよる』(木皿泉)

『さざなみのよる』は、主人公・小国ナスミが病気となり、43歳で亡くなるところから始まる連作短編集である。 家族や会社の同僚、そして一度会っただけの人など、ナスミと関わった様々な人が登場する。 ナスミを中心に「何かをもらい、何かをあげた」人々の繋がり(何かとは何かであって、ものとは限らない)や、ナスミの死から「生死というものを周囲がどう捉えていくか」が軸となった物語である。 その中で、いのちがやどるということに対して、印象的な言葉がある。 やどっていたものが去ってゆく。それは

「正しさ」は正しいか―『まじめに生きるって損ですか?』(雨宮まみ)

雨宮さんが亡くなってから、今日でちょうど4年になる。 読書の秋キャンペーンの間に、この本についてはどうしても書き留めておきたいと考えていたので、書かせて頂きます。 雨宮さんは、私が最も尊敬する女性の一人である。 誰よりも自分の内面と徹底的に向き合う覚悟と、他人の弱さを真摯に受け止め認めてくれる優しさを併せ持った方だと思っている。 その佇まいやセンスのかっこよさにも憧れていたし、大げさではなく、雨宮さんの文章のおかげで、私はどん底を乗り越えられた。 『まじめに生きるって損で

絶妙なバランスをもつ人―『横道世之介』(吉田修一)

『横道世之介』(吉田修一(著)/2009年)は、長崎から上京してきた大学生・横道世之介の入学から一年間を追った青春小説である。 バブル期の東京での大学生活を中心に描かれ、合間には当時世之介と関わった人たちの小説連載時(2008年前後)の姿も紹介されている。 主人公の横道世之介は、世之介と関わった人の言葉を借りれば「いろんなことに、『YES』って言っているような人」である。 世之介のような人が近くにいたら、私は確実に好きになっている。 自分の気持ちは素直に表現しながら、デリカ

救いの本―『ファーストラヴ』(島本理生)

私は、気が緩んで話しすぎてしまった時に高確率で言われることがある。 それは「考えすぎだよ」という言葉だ。 その言葉は、心配の表情とともに寄り添って言ってもらえることもあれば、呆れたように言われることもある。そして、怒るように言われたこともある。 ネガティブな愚痴をずっと聞かされていると思われていたのかもしれない。 自分の考えている不安や煮詰まった考えを、聞いてくれるからと甘えて言い過ぎたことが良くないのかもしれない。 自分の考え方が、相手を間接的に責めるようなものだったのかも

無言の世界―『星の子』(今村夏子)

私は、今村さんの書く物語がとても好きだ。 とてもシンプルな言葉で書かれた文章の中に、子供の頃に感じていた(大人になってから感じるものとは少し異なる、けれども現在にも確実に繋がっている)虚しさや不安のようなもののすべてがつまっていると感じる。 このような感覚をありありと思い出させてくれる人は、今村さん以外にいない。 大好きな作品である『星の子』が映画化されることを知り、主演・芦田愛菜さんのコメントに感動し、いそいそと映画を観にいき、その後小説を読み返すという『星の子』づくしの

小説の中で踊る人②―『ダンス』(青山七恵)

前回に引き続き、踊る人についての小説を語りたい。 『ダンス』は、『風』(青山七恵・著/2014年/河出書房新社)に掲載されている短編小説である。 「踊る」というテーマがたまらないのはもちろんのこと、淡々とした中にユーモアを感じる文章で書かれていて、とにかく好みな短編である。 加えていろいろな解釈ができるような作品になっており、生きづらい全ての人に寄り添ってくれるような面もある。 私にとって、とても大切な作品として君臨し続けている。 この話は、以下の言葉から始まる。 優

小説の中で踊る人①―『憤死』(綿矢りさ)

私は、小説の中で踊る人が好きだ。 ダンサーやバレリーナに関する話が好きという意味ではない。 (そういう話は読んだことが無い。読んだらとても好きになるかもしれないけれど。) 一般人が、自分の思うがままに踊り出すシーンが好きなのだ。 踊る人が出てくる大好きな作品について、2つの記事で語りたい。 『憤死』は、『憤死』(綿矢りさ・著/2013年/河出書房新社)に掲載されている短編小説だ。 私は綿矢さんの小説がとても好きで、新刊が出ると必ず読んでいる。 中でも、猪突猛進の精神で突き進

人の物語になりたくないという話―『MIU404 最終回』より ※ネタバレ有

昨年から今年の初めにかけて、はてなブログで愛する人や作品について書いてきた。 →『好きなものは、自分で決めるので』 いろいろ思うところがあり、コロナ禍で書くのを辞めてしまっていたけれど、今回からnoteで再開したいと思う。 また書きたいなと思い始めたのは、シンプルに書きたくてしょうがない作品に出会ったからだ。 私含め、SNSなどで多くの人が熱い感想を寄せている今期ドラマ『MIU404』(TBS系列/2020年)(脚本:野木亜紀子さん)である。 簡単なあらすじは以下のとおり。