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10ダルクと子守唄 9/9
スパイファミリーの小説。テーマは家族愛。最終章です。
翌日。朝風呂を終えたロイドが、包帯が巻かれた手で、がしがし髪の毛を拭いていると、アーニャが走ってきた。
「ちちー!」
しわしわになった制服を見て、ロイドはギョッとした。着替えさせてから寝かせるべきだったか、と内心少し後悔する。
しかし、そんなことはお構いなく、アーニャはロイドの両足に抱きつくと、上目遣いでロイドを見上げた。
「アーニャ、
10ダルクと子守唄 8/9
スパイファミリーの小説です。テーマは家族愛。
50m前方、人の気配。
ロイドは立ち上がった。
精悍な体つきの男が壁に沿って、こちらに向かってきている。真っ暗な空間に、街頭の小さな光しかないため、顔ははっきり分からないが、その腕の中にはアーニャがいるようだった。ピンク色の頭が分かりやすい。ロイドは、やがて近づいてきたその人物を見て、目を見張った。
昨日の夜、バーで隣に座った男だった。
男は、濁
10ダルクと子守唄 7/9
スパイファミリーの小説です。テーマは家族愛。
86と数えた時には、お迎えが来てくれていたようだった。ぽんと肩に手を置かれ、目を開ける。
「アーニャちゃん、遅くなってごめんよ」
アーニャはスカイブルーの瞳を見て、目を輝かせた。
「ちちとおなじいろのめっ!」
男は図体に似合わず、優しい笑みを浮かべると、アーニャを持ち上げて、そのまま縦抱きをした。ロイドがいつもしている抱き方だった。
(はじ
10ダルクと子守唄 6/9
スパイファミリーの小説です。テーマは家族愛。
イーデン校への潜入はたやすい。今まで何度も潜入してきたため、経路もそつなく確保していた。目印は、あの車だ。慣れているとはいえど、やはり校内はかなり広い。捜索場所を頭の中で絞りながら進む。ロイドは防犯カメラを避けるため、地上へは降りず、猫のごとく校舎から校舎へと飛び移りながら移動していた。
最も怪しいと踏んでいた知恵の塔の付近に着くと、ようやく地上へ降
10ダルクと子守唄 5/9
スパイファミリーの小説です。テーマは家族愛。
「アーニャちゃん、アーニャちゃん」
微睡の中で、優しい声が聞こえる。
これは、ゆめ?
恐る恐る目を開けると、黒髪でヘーゼルの瞳をもつ男性が心配そうに、アーニャの顔を覗き込んでいた。
「目が覚めて良かった。突然ごめんね」
テノールボイスが耳に心地よい。全体的にすらりとしていて、引き締まった顔立ちをしている彼は、まさに大人っぽく紳士的な“ダミアン
10ダルクと子守唄 4/9
スパイファミリーの小説です。テーマは家族愛。
イーデン校、知恵の塔
目を開けると、グレーの天井。
布団からゆっくり体を起こす。制服は着たままだった。
アーニャは、打ちっぱなしの壁に囲まれた殺風景な空間を見回す。右上に監視カメラ、正面には男たちが視界に入った。
「おはよう、被験体007」
男たちは、檻の外からこちらを見ていた。心臓がドクドクと脈打つ。
「元気にしていたか」と、前髪が三日月型
10ダルクと子守唄 3/9
スパイファミリーの小説です。テーマは家族愛。
翌日。時刻は20時を過ぎた頃だった。
ロイドは、朝から嫌な予感がしていた。
ランチを入れた紙袋の底が破れたり、何もないところで2度躓いたり、重要書類を一部アジトに忘れてきてしまったり。スピリチュアルなことは信じない主義だが、任務中に絶対に起こり得ないミスが立て続けに起こると、どうしても不安になる。その上、悪いものほど当たる確率が高いのだ。
ロイド