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秘密警察(SSS)編 2/4

ユーリが西国のスパイになる話です。ドキドキの初任務!

西国、西部連邦軍基地

ユーリには、西国のスパイになるための特別な訓練は特に必要なかった。文書の読み方、鍵の開け方、手渡しの方法、西国の方言など任務遂行に必要な技術は、全て身についていたからだ。新たに教えられたことといえば、文書を撮影するカメラの使い方くらいだった。

機密文書の写真を撮るだけ。人を殺すわけではない。朝飯前だ。すんなりと終わらせることができるに違いない。そう確信していたのだが――。

(くそっ、ピッキングできない鍵じゃないか!)

流石はシュルツ将軍の部屋であるため、一筋縄ではいかないようだ。1分ほど格闘したところで、ユーリは舌打ちをし、鍵付きスチールワゴンの上段引き出しのピッキングに取り掛かる。米国のロージャス将軍とシュルツ将軍がランチに出かける際、シュルツの秘書が部屋の鍵を自身のデスクの下にこっそり直しているのを盗み見ていたのだった。

こちらは、10秒足らずでピッキング成功。

自身のアリバイ作りのために、同僚とランチを済ませている。決して抜かりはないはずだが、時間との戦いだった。
鍵を手に入れると、早足でシュルツの部屋に潜り込む。例の文書は、ロージャス将軍のステンレスケースの中にあり、ロックを外して、ケースの中を漁った。
複数の資料から、“極秘""中央情報長官""L・ルイス”と書かれた資料を取り出すと、小型カメラで撮影を始める。L・ルイスは現アメリカ大統領の名だ。ページをめくっては、シャッターを押し、めくっては押し、めくっては押し……。“核兵器””東国標的リスト“という言葉に目が止まった瞬間、静まり返っていた室内に小さな音を察知した。

(まずい!)

話し声が近づいてくる。緊張感が高まる中で作業をしているため、感覚器官が敏感になっているようだった。誰の声かは判別できない。そんな余裕はなかった。背中に冷や汗が流れる。手が震え始める。

ページをめくり続け、なんとか主要ページの撮影は完了。

ケースを元の状態に戻してから部屋を出る。スチールワゴンの上段に鍵を押し込んだところで、ロージャスとシュルツとその秘書が帰ってきた。

(チッ、こっちの鍵は閉められなかった)

秘書の手が引き出しに伸びる。

「おい、ベン」

シュルツに名前を呼ばれ、振り返った。

「はい」

「買い物を頼みたい。バーベキューパーティ用に木炭を一袋」

「了解」

秘書は、問題の鍵を取り出すとシュルツに手渡した。ユーリは、ほっと胸を撫で下ろす。

任務完遂。

カメラは後で、仲間に渡すことになっていた。

(ああ、早く姉さんに会いたい)

ユーリの頭の中は、ヨルでいっぱいだった。ヨルへの愛を声に出して言えないことに、かなりのストレスを感じていた。そのため、追加任務の指令が入った時には、睨み殺しでもしそうな目つきで、少将の部下を見据えていたのだった。

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