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10ダルクと子守唄 5/9

スパイファミリーの小説です。テーマは家族愛。

「アーニャちゃん、アーニャちゃん」

微睡の中で、優しい声が聞こえる。
これは、ゆめ?

恐る恐る目を開けると、黒髪でヘーゼルの瞳をもつ男性が心配そうに、アーニャの顔を覗き込んでいた。

「目が覚めて良かった。突然ごめんね」

テノールボイスが耳に心地よい。全体的にすらりとしていて、引き締まった顔立ちをしている彼は、まさに大人っぽく紳士的な“ダミアン”だった。ダミアンというのがもったいないくらいに。

「じなんににてる。でもじなんよりかっこいい」

「じなん?ダミアンのことかな?」

アーニャは、うぃと頷いた。彼は、ありがとうと微笑んだ。ダミアンの兄は、皇帝の学徒だと聞いていたが、今はマントを着けておらず、長ズボンになっただけで、デザインは変わらない制服を着こなしていた。

「さあ、アーニャちゃん。ここから出よう。立てるかい?」

片手を差し出す姿は王子様そのもので、アーニャはしばし彼に見惚れてしまう。しかし、すぐに我に返って彼の手を取った。

(ちょっとだけ、ベッキーのきもちがわかるきがする)

恋愛ドラマが大好きな友人を思い出し、アーニャは口元を綻ばせる。彼は、アーニャの手を引くと檻の外へ出て、男たちが去っていった方向とは、反対側にあるドアの鍵を開けた。アーニャの歩幅に合わせて歩いてくれているため、歩きやすい。アーニャが彼を見上げると、彼は紳士的なスマイルを送った。

「自己紹介が遅れてごめんね。僕はデミトリアス・デズモンド。ダミアンの兄だよ」

「あに!」

「そう。アーニャちゃんの話は、よく聞いてるよ。いつも弟が世話になっているね」

アーニャは驚いた。まさか、ダミアンが自分の話をデミトリアスにしているとは思わなかったのだ。

「じなん、なにはなした?」

「入学初日に殴られたとか、下手な道案内で迷子になったとか、会う度にいろいろ話してくれたよ」

(なっ!?アーニャのいんしょう、さいあくっ!?)

アーニャは、ガーンとショックを受けた。

「だから、アーニャちゃんが、実際にどんな子か気になってたんだ。それで、今日初めて会ったけど」

「アーニャ、さいあくだった?」

デミトリアスは、くすくす笑った。

「そんなわけない。素敵なレディだと思ったよ」

デミトリアスの心の声は聞こえない。つまり、彼は本心でアーニャのことを素敵なレディだと思っているのだ。アーニャは、ほんのり頬をピンクに染めた。

「すてきな、れでぃ?」

「ああ、そうだよ。可愛らしい子だから、ダミアンも好きになったんだろうね」

「すっ、すきっ!?じなんが!?」

アーニャは、なぜか寒気がした。同じ頃、寮にいるダミアンも、くしゅんとくしゃみをしていた。

「うん。あ、僕から言ったってことは内緒だよ」

「あにとアーニャのひみつ?」

「そう。よし、着いたよ」

デミトリアスは、無線機を取り出し、目的地に到着とだけ伝えた。その返答を聞くと、非常ベルの扉を開けて、アーニャにここにいるよう指示した。

「ごめんね、廊下に身を隠せるところがここしかなくて。僕は、他の子どもたちも助けに行かないといけないんだ」

デミトリアスは申し訳なさそうに微笑んだ。

「でも、安心して。目を瞑って耳を塞いで、100秒まで数えてごらん。きっとお迎えがきてくれているから」

アーニャは、不安げな顔つきでうぃ、と頷いた。

「短い時間だったけど、楽しかったよ。ありがとう」

「あ、アーニャも!たすけてくれてありがとう」

デミトリアスは、アーニャの頭に軽くキスを落として、非常ベルの扉を閉めた。アーニャは、きょとんとしていた。真っ暗な空間が怖いと思わず、ぼんと頬が赤くなる。

(ベッキーのきもち、けっこうわかるきがする)

それから、デミトリアスに言われたことを思い出し、目を瞑って耳を塞いで、100秒数えるのだった。

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