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秘密警察(SSS)編 4/4

ロイドが何者かに尾行される話+西国でスパイ任務を終え、帰国したユーリにばったり遭遇する話。秘密警察(SSS)編の最終章です。

東国、バーリント

ロイドは精神科医の仕事を終え、新たに任務が入っているかを確かめに向かう道なかだった。異変に気づいたのは、ショーウィンドウに映り込む不自然な人影が視界に入った時。観光マップを片手に、こちらを盗み見ているようだった。サングラスを掛け、中折れ帽を目深にかぶっている。黒いスーツを着た、中性的な佇まいだった。性別だけでなく、年齢も分からない。

(尾行か)

ロイドは、わざと人混みに紛れ込んで歩く。なるべく早足で、商店街へ向かい、サンドラー広場に出る。駅の方に向かって行き、階段を降りて、また上がる。そうやって、人混みに巧みに紛れ込みながら、歩くことおよそ5分。案外容易に尾行を巻けたようで、周囲を警戒し続けながら、スーパーで買い物を済ませる。もちろん、ただ買い物をするだけでない。暗号を拾うことが目的だった。アーニャにピーナッツでも買って帰ってやるか、と一袋をカゴに追加してからレジに向かう。

(あれは、秘密警察の尾行か?にしては、どこか甘い気がするが)

ロイドは、レジ打ちからF暗号を受け取ると、スーパーを後にしたのだった。

♦︎

その後も何度か尾行があったが、いずれもロイドにとっては、下手な尾行で巻くのも簡単だった。

(はぁ……今日も激務だった……)

諜報員としての任務以外に、精神科医としての仕事もこなしていると、すっかり夜になってしまった。ロイドがフラフラになりながら帰ったところ、片手に桃色や赤色の豪華なカーネーションの花束を抱えたユーリが視界に飛び込む。ユーリは、フォージャー家がある集合住宅の前で不審者のごとくうろついていた。

(ユーリくん?何してるんだ?彼がここに来て早々、ヨルさんに飛びつかないのは珍しいな)

ロイドは気配を消しながら、ユーリに近づき耳を澄ませる。

一気に渡そうか、いや何回かに分けて渡すべきか。全部渡して大喜びする姉さんの顔を見てみたい。でも、毎日一袋ずつプレゼントしていく楽しみも捨てがたい。ブレスレット、ネックレス、靴、ワンピース、うーん、何から渡そう。今世紀最大の悩みだ。

多分、そんなことを呟いている気がする。ロイドはドン引きしていた。
もう一方の手には、宝石店や高級ブティック、最高級ワイン専門店の袋を大小十袋ほどと、お菓子の袋を一袋下げていた。お菓子はアーニャのために買ったものだろう。ピーナッツ味のクッキーが有名なお店の袋だ。そして、ヨルへのプレゼントは、いずれも西国で手に入れたもののようだった。

(向こうで、何か任務でもあったのか?)

ロイドはそう疑問に思いながらも、ユーリがフォージャー家に足を踏み入れるのを、陰でひたすら待ち続けるのだった。


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