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10ダルクと子守唄 7/9

スパイファミリーの小説です。テーマは家族愛。

86と数えた時には、お迎えが来てくれていたようだった。ぽんと肩に手を置かれ、目を開ける。

「アーニャちゃん、遅くなってごめんよ」

アーニャはスカイブルーの瞳を見て、目を輝かせた。

「ちちとおなじいろのめっ!」

男は図体に似合わず、優しい笑みを浮かべると、アーニャを持ち上げて、そのまま縦抱きをした。ロイドがいつもしている抱き方だった。

(はじめまして、アーニャちゃん)

男が歩き始めると、アーニャの頭の中に、心の声が流れ込んできた。

(俺は、アーニャちゃんのお父さんのお父さんだ。アーニャちゃんから見たら、お祖父さんってことになる。じぃじって呼んでくれると嬉しい)

「じぃじ?」

(そうだ)

「じぃじ、アーニャのちからしってる?」

(もちろん、知ってるさ。ここにいるんだから。でも、お父さんやお母さん、みんなには内緒にしてるよ)

「アーニャのこと、こわくない?」

(怖いわけないだろう!どうであっても、かわいい孫には変わりない)

スカイブルーの瞳に、アーニャの満面の笑みが映る。

(どうだ、楽しくやってるかい?学校でもお家でも)

「うぃ、ぜんぶたのしい。でも、べんきょーはにがて」

アーニャは、顔をしかめる。

(勉強は大事だ!って言われても分からんよな。でも、家族と一緒に暮らしていくためにも、勉強は必要なんだよ)

アーニャは、ロイドとヨルと離れ離れになるのは絶対に嫌だったため、アーニャべんきょーがんばる、とたくましい顔つきで言った。
そんなアーニャを見て、男は愛おしそうに微笑んだ。

(お父さんとお母さんは、好きかい?)

「すき!」

アーニャは、お日様のようにニカッと笑いながら、即答した。アーニャにつられて、男も笑う。

(そうか。じぃじも、その言葉を聞けて嬉しいよ)

「アーニャ、じぃじもすき!」

予想だにしない言葉に、胸が締め付けられる。もう何年、何十年と聞かない言葉だった。込み上げてくる涙を呑み込みながら、ありがとう、じぃじもアーニャちゃんが大好きだ、と返した。
本当にアーニャと会えて良かった。誘拐される子どもがアーニャだと判明してから、デミトリアスに協力してもらい、2人きりで話す時間を作ったのだ。デミトリアスは、国家統一党総裁の息子であり、イーデン校で最も優秀な生徒の1人だった。おまけに口も堅い。そのため、施設に入ることが許されていたのだ。イーデン校には、教授も含め、この施設の存在を知る者は、ほとんどいなかった。しかし、KGBが気に入った連中には、彼のように許可を下すこともあった。デミトリアスが、人体実験には批判的なことを知らずにーー。
もちろん、他の仲間にも、ロイドとアーニャの必要な情報は(一部偽造して)伝えてあった。ロイドが探しにくると分かっていたからだ。

できるだけ振動の伝わらない歩き方をする。男の腕の中が心地良いのか、アーニャはうとうとし始めた。地上に出た時には、すっかり夢の中にいるようで、よだれを垂らしながら、幸せそうに眠っていた。男は、アーニャをぎゅっと抱きしめる。懐かしかった。

(あの子はアーニャちゃんよりも、もう少し大きかったな)

男の記憶では、ロイドは8歳で止まったままだった。それが昨日、ロイド本人と直接話せて、ロイドのパートナーとも会えて、長い間燻ってきたがん細胞がようやく取り除かれたようだった。ヨルは殺し屋だったため、最悪のケースも考えていたが、杞憂に終わった。彼女は、謙虚で素直で美しい人だった。この人なら家族を大切にしてくれる。直感だが、そう確信していた。
男は、ロイドの元へ向かう。アーニャとさようならをするその時まで、懐かしいこの感覚を味わっていたいと思った。

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