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人の言葉を借る

私の人生は大したことがない。絶対成し遂げたいことなんて無い。使命もない。異世界に転生したり、貧乏から成り上がったり、スーパーヒーローになって世界中を救ったり、新しい研究をしてノーベル賞を貰ったり、そういう目覚しい出来事とは無関係だ。死んでも誰の記憶にも残らないし、大半のヒトと同じように没していくだろう。
いわゆるアスペな性格だとか、多少の個性はあれど、どれも凡人の範疇だ。普通のどこにでもいる人間、栄光のある人間を他所から見ているモブ、つまらない人生。

つまらない人生は良い。凡庸な人生における苦悩もまた、凡庸だからだ。これぞ最先端の悩みだ!私だけ悩んでるんだ!と息巻いてみても、結局周りが見えてないだけだったりする。私みたいな人間が悩むことは、大抵他の人も悩んでいる。
だから答えが見つかりやすい。
とっくにどこかの誰かが答えを出してくれているのだ。

私は悩んだり迷ったりしていることのヒントや答えを、本や映画から見つけることが多い。これらは、誰かに相談して解決する成功体験がないコミュ障人間でも、ヒントになる情報を得られるツールだ。
すぐに答えが見つかるわけではないし、時間的なコスパは悪いけど。その分、腑に落ちる瞬間はかなり気持ちがいい。
リアルな人間の言葉って、今までの環境や背景まで加味してしまい、あなたと私は違うからな〜と共感に欠けることが多い。対して本や映画には設定があって、人間関係だったり、社会の構造だったり、何かを抽出して誇張している。読み手には、その場面を切り取って、好き勝手に解釈していい自由がある。
だから本や小説の登場人物には、リアルな人間より共感しやすい。

最近は、本を読んでいて気に入った言葉や文章をメモするようになった。

例えば、自分の飼っている虫にデコピンをしてしまい、それを自分が昔親に暴力を受けてたからこんなことをしてしまったのかと考える人に向けた、登場人物の発言。

人は時々、かっとする。脳幹のある部分が活動すれば、攻撃性が生まれて、興奮する。そういう時は誰にでもある。別に、お前の子供の頃のせいではない。もちろん、子供の頃に原因を求めたいのなら、反対もしないが

伊坂幸太郎 首折り男のための協奏曲 新潮社 2014 174p

子供の頃の環境が原因でこうなってしまったのかと落ち込む、という場面の切り出し。そんな場面は、多分多くの人が経験しているだろう。 凡人の自分もしかり。

何こんな事でイラついて私はなんて小さいんだ、心の広い人はもっと、、、などとついネチネチ考えてしまう私にとって、この発言は「こう考えてもいいよね」というヒントになった。

こんな感じで、気に入ったこと、ハッとしたことをメモする。一つもメモするところがない本もあるし、一冊で30箇所くらいメモすることもある。


こんな感じでメモしてます
丸写しでもあるので著作権的にモザイクかけましたが
ヘルマン・ヘッセの小説でした


こうやって人の言葉を借りて、答えを見つけている。
私は言語化が苦手だ。何かを感じたとき、ぴったり来る言葉を知らない。だから、本を読んで探して、借りる。

わざわざ自分で発明して、格言を作ろうとしなくても、それっぽい言葉や表現は誰かがもう作ってくれている。なんて恵まれた世界なんだ、What a wonderful world !

どちらかというと、我々凡人がやっているのは、言葉を作るんじゃなくて、どの言葉を借りるかなんだと思う。

本なんて、映画なんて、借りなくていいシーンばかりだ。
某漫画がきっかけで「生殺与奪」が流行ったように、時々借りたくなる言葉を見つけられたらそれでいい。心に「Plus ultra!!」を借りて生きてもいい。
本って言ったけど、マンガからも結構借りてるかも。

そうやって私は誰かが紡いだものを借りて生きている。
私の言葉は全部誰かの借り物だ。

私は色んなものから借りるのが好きだ。私は創作している人間でもないから、言葉にオリジナリティを持つ必要もないと思っている。

ただ、言葉を選び方は、選んだ言葉の組み合わせはたぶん、私だけのものだ。

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