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北海道一周旅行記(8/n)【帯広〜ナイタイ高原〜十勝牧場〜帯広】・2022夏

本文の内容はあくまで個人の経験に基づく見解であり、それを必要以上に一般化する意図も、それと相反する意見を否定する意図もありません。一方でその上でも、もしお気付きの点がありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

全編のリンクはこちら。
(1/n):【新千歳〜札幌〜稚内】
(2/n):【利尻島〜礼文島】
(3/n):【旭川〜網走〜知床】
(4/n):【知床〜野付半島〜摩周湖】
(5/n):【摩周湖〜釧路〜根室〜阿寒湖】
(6/n):【阿寒湖〜裏摩周・神の子池〜屈斜路湖〜和琴半島】
(7/n):【和琴半島〜美幌峠〜三国峠〜タウシュベツ川橋梁〜帯広】
(8/n):【帯広〜ナイタイ高原〜十勝牧場〜帯広】
(9/n):【帯広〜豊似湖〜襟裳岬〜苫小牧】
(n/n):【苫小牧〜新千歳】

9日目前半【帯広〜ナイタイ高原〜十勝牧場〜帯広】

運命とは遅延して作用する幻影だった。

ル・クレジオ『物質的恍惚』

旅も終わりに近づく。10日間もあると、その終盤は旅先への感慨よりも都心への回顧が強化されていく。皮肉なことだ。日常に戻るだけなのに、今ではそれに価値を感じ、せっかく来ている旅先の地への価値を弱く感じている。その分今後の旅で得る知見を、一歩引いて捉えることができると考えれば、幸福かもしれない。

この日は快晴だった。本日の第一目的地は昨日と同じく、北海道の重心にあたる内陸地帯にある。同じエリアで、全く異なる景色。一本道であったのも相まって、空は高く、開放的だった。海の近くで育った人は、海の大きさに当てられて器が大きい性分になる気がしているが、それは、大規模平野で育った人も同じだろうか。今日の空もまた、海と同じように青かった。

ナイタイ高原

ナイタイ高原についた。新し目の施設がその中央にある点では美幌峠と同じであったが、美幌峠より数倍広い。ナイタイ高原は山の中腹部にあり、その施設から麓をみると、開けた牧草地になっていた。ちらほら乳牛もいて、そういえば、北海道といえば牛乳だよなと思い出した。高地にあるからか空も広く、まさに快晴。施設のすぐそばの斜面は公園のようになっており、多くの子供が笑顔で転がっている。ほほえましい。ベンチの一つに腰をかけ、施設で買ったミルクソフトクリームを食べた。

ナイタイ高原から麓の方面
ナイタイ高原から山頂の方面。
山頂方面にある石碑へ向かう。これは家畜感謝の碑だった。

本当に、天気が変わるだけでこうも味わいが異なるのか。東京で労働者をやっていると、天気が何になろうがすることは変わりない。天気なんて、晴れていないと少し嫌な気持ちになったり、どうでもいい相手と会話する際のアイスブレイクの題材にする程度だ。でも、こうして外に出ていると、天気の移ろいに一喜一憂してしまう。それが生き物としては健やかかもしれない。

十勝牧場

ナイタイ高原を後にして、帯広に戻る。この時点では、帯広に戻ったのち、苫小牧まで西に移動する算段だった。それが首尾良くいけば、洞爺湖や小樽までいく想定だった。まあ、そうはならなかったのだが。

途中、十勝牧場に立ち寄った。帯広までの道中にある牧場で、向日葵をみることができるらしい。第一に、ナイタイ高原にて、脳のなかに乳牛の存在が侵食してきたこと、第二に、夏といえば向日葵だと柄にもなく思っていたことから、立ち寄ることとした。

正式な駐車場はなかったが、僕らと同じように向日葵をみる人が一定いるからだろうか、駐車場として使える空間が、牧場の周辺に存在した。轍もあり、そこが駐車場であることは疑いない。アフォーダンスとしての駐車場だった。

セイヨウマルハナバチ

向日葵が集合しているエリアは、観光地として整備されているわけではなさそうだった。誰でも入れる農耕地のようなところの一箇所に、彼らは集まって咲いていた。毎年そこに咲かせることを、牧場主も確約していないような、とりあえず咲いていて、とりあえず集まっている場所のようだった。背丈も不必要に高い印象をうけた。大ぶりな蜂も多く存在した。まあ、これが自然だ。人間に都合よく存在しない。東京はほぼ全ての空間が人間に都合よく存在している。公園であっても、空き地であっても、誰かの意図を感じる。人から離れられる空間を求めて、僕らは旅をしているのかもしれない。

帯広

前日のバーのマスターから、豚丼が有名であること、畜産大学が出店を常時していることを聞いていた。前者を選び、向かうことにした。

豚丼屋の店員はやや無愛想で、老舗ラーメン屋のようなだったが許容範囲内だった。壁紙は赤く、低めの木のテーブルと椅子も相待って、家系ラーメン屋を思い出す。出てきた豚丼は美味しかった。

その後、六花亭本店に向かった。この旅ではすでにいくつかお土産を買っていた。利尻島で海鮮を買ったり、アイヌコタンで木彫の熊を買ったりしていた。誰にどれを渡すかは決めず、とりあえずいくつか買っていた。宛先の決まっていない購買をお土産と呼ぶのかはさておき、持ち帰る物品はいくつか買っていた。ただ、ここに六花亭があることを踏まえ、改めて誰にあげるか検討する。家族と、この旅をリードしてくれた友人を思い出す。両者への感謝を込めて、くわえて前者にはこれまでの恩返しに、後者には今後もこの縁が続くことへの祈りを込めて、それぞれ配送先に住所を記載した。名前は忘れたが、六花亭は、マルセイバターサンドだけではないことを知った。KAT-TUNは亀梨だけではないと、ごくせんを見終えた頃気付いた時を思い出した。

次の目的地は西のはずだった。苫小牧、洞爺湖、小樽、新千歳の順に、苫小牧から反時計回りに一周する予定だった。ただ、ここで逡巡があった。もうすでに8/10日間旅行して、この非日常を俯瞰で捉えることができていた。これまで行ったところ。そのなかで気分があがったところ。そして何より、もう来ないだろうところをしらみつぶしに回り切ろうというこの旅のコンセプト。山を見て、海を見て、島に行き、峠を越えてきた。僕は、北海道で、自分の、人間の寄るべなさに快感を感じてきた。旅をあまりしない僕にとって、旅の意義はそれではないかとおもわしめてきた。稚内、知床、野付、根室。最果ての地で、甘美な孤独に入水してきた。自分が溶けて無くなる感覚に身悶えていた。そう考えたときーー

「あのさあ」
「はい」
「この旅ってさ、人生で、もう行かなそうなところをしらみつぶしする旅じゃん」
「はい」
「小樽とか洞爺湖ってさ、新千歳空港に近いやん」
「はい」
「函館もまだ行ってない。そっちは今後の人生で行くんじゃないか」
「確かに」
「まだ俺たちには行ってない最先端があるじゃん」
「あー…まじすか」
「南の果て行っちゃわね? それで、今晩苫小牧まで行って、明日ウボポイだけ見て、帰る」
「あー……ありですね」
「お前が乗りたい飛行機の時刻にも間に合う確度が高まります」
「行きましょう」

南の果て、襟裳岬に目的地を変更した。
思えば、稚内に行ったときからこうすることになる運命だったかもしれない。

北海道一周記・2022夏シリーズ
(1/n):【新千歳〜札幌〜稚内】
(2/n):【利尻島〜礼文島】
(3/n):【旭川〜網走〜知床】
(4/n):【知床〜野付半島〜摩周湖】
(5/n):【摩周湖〜釧路〜根室〜阿寒湖】
(6/n):【阿寒湖〜裏摩周・神の子池〜屈斜路湖〜和琴半島】
(7/n):【和琴半島〜美幌峠〜三国峠〜タウシュベツ川橋梁〜帯広】
(8/n):【帯広〜ナイタイ高原〜十勝牧場〜帯広】
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