マガジンのカバー画像

しおの雑文庫

43
つれづれよりもラフに、楽に。 雑な話をしていく。 iCaとかで適当にテーマ決めて書きます。
運営しているクリエイター

#小説

ISSS 小説「In seaside,so said.  」—case:谷生瑞希世—

ISSS 小説「In seaside,so said. 」—case:谷生瑞希世—

 波の上に、月の光が散っている。少し風のある夜だった。

 星がよく見える。上を向いて歩こう……そんな歌い出しは、日本で暮らしていれば自ずと浮かぶフレーズだ。
 海のにおいというものは、想像は爽やかなものだが、実際に近づいてみると生き物の匂いがする。というと――やや生臭いということだ。

 谷生瑞希世《たにうみきせ》は深呼吸をした。生臭いとわかっているが、どうも癖になる。まだ洗剤の香りが残る生乾き

もっとみる
【創作】蚊がヴァンパイアだったらギリ許せる話ノベライズ 年越し!バックトゥザフューチャー編

【創作】蚊がヴァンパイアだったらギリ許せる話ノベライズ 年越し!バックトゥザフューチャー編

自創作で描いてる「蚊がヴァンパイアだったらギリ許せる話」のノベライズを書いたので宣伝です。twnovelを元手にコミカライズして、漫画オンリーで本編を進めた創作のノベライズオンリー話です。 ややこしいね。
詳しい敬意は下の記事。

本編漫画はpixivに書いてます。よければ読んだって〜。

そんなわけで。

ノベライズの本編をちょっぴりお届け。サンプルが読めます。pixivの方でもあげてます。

もっとみる
【SS画像】水族図書映画館

【SS画像】水族図書映画館



Twitter別垢での文章の印象アンケートで票が多かったものをモチーフに書きました。
水族館も図書館も映画館もいきたい。

【小説】リリの電話

【小説】リリの電話

リリの電話

 白山リリは町でいちばん嫌われている女の子だ。果樹農家がいくつか並ぶ山の付近の、誰が見てもボロ小屋としか思えない小さなアバラ小屋に住んでいて、片親で父親は酒浸りで、職も就かない、町の中でも有名な鼻つまみものだ。
 それなのに、リリはクソがつくほど美少女だ。
 亜麻色の長くて軽やかな髪、長いまつ毛に囲われたガラス細工みたいに透き通った瞳。白い肌に小さくて細い顎。身長は中学三年生らしい平

もっとみる
【予告】小説を公開します

【予告】小説を公開します

いま書いている小説が普通に一万字超えそうなのと、一回有料noteにしてみたかったので、100〜300円くらいで公開できたらしたいなと思っています。うまく行かなかったら普通に無料です。
小さい町から出たい少女が町のはなつまみもののクソ貧乏なクソ美少女を友達になるというていで利用しようとして近づく話です。

以下サンプル

よろしくお願いいたします。

【おはなし】ヤギと結婚した王子

 ある豊かな国で、王子様の婚礼が行われた。
 王子は親族の若者たちの中で、最も結婚が遅く多くの民から心配されていた。
 これで安心国も世継ぎも安泰だと、民衆は喜んだが、だれもその妃を見たことがない。それだけが気がかりであったが、偉い人間の顔など、誰も覚えてはいないので、大した問題にはならず、かわりに「どんな美しい人なのだろう」と空想論議が多く交わされた。
「きっと雪のように肌が白く、絹のような髪の

もっとみる

筐の女

筐の女

 Aの部屋は五畳一間の年季が入ったものだ。上京して五年、住み慣れた狭さを彼も気に入っていた。
 気に入っていたが、いつも妙な違和感が片隅にあった。なるべく気づかないふりをしていたのは、家賃が安いからだ。
「襖は開けんでな」
 Aは泊めた友人に対し言った。彼の布団は、客用も含めて部屋の隅に置いてあった。雄大な川が広がるような水墨画が描かれている、立派な襖の奥は布団を置くためのものであろ

もっとみる

星の箱

星の箱

 箱をこじ開けると、悪魔が飛び出た。
 星雲とブラックホールを混ぜ合わせたような靄は響く笑い声とともに渦を巻き、ヒトの形を成していく。掌に乗るほど小さな箱の上に、先の尖った靴が揃えて乗った。重さがまるでない。ホログラムでないのなら、悪魔だ、と青年は思った。
「眩しい!」
 細身ので長身すぎる、真っ黒な服に身を包んだ男は、近すぎる照明に退いた。
「箱を地面に置くかなにかしてくれないか」

もっとみる

「あそこにベンツが停まっていますね」から始まるBL

あそベンBL

「失礼。煙草いいですか」
 顔色の悪い、よれたスーツを着た男から声をかけられた。ぼんやりと座っていた眼鏡の男は、少し慌ててあたりを見渡した。公園には子連れの親が数人いたが、距離は離れていた。
「ええ、どうぞ」
 身を縮めて、ベンチの隣を空ける。
 顔色の悪い男が首にかけているストラップが、同じ会社のものだった。
 見たことがない。階か部署か、異なるのだろう。
 男はどっかりと腰を

もっとみる

風の街

風の街

 むかしむかし、あるところに少年がおりました。
 そこは寂れた場所で、見えるものといえば風化した白い壁、屋根のない家、誰もいない通り道、死にたくなるような青空だけでした。
 その街はなにもなく開けた場所でしたが、風は吹き抜けませんでした。
 少年は毎日、ぼろぼろになった壁の縁に座り、雲のない空を見上げていました。うっすらとでも雲が見えれば、風が吹いているかどうかを見定めることができるか

もっとみる