【ミカタをつくる広報の力学】#66 合理的配慮と広報PR
2024年4月1日から、障害のある人に対する「合理的配慮」の提供が民間企業にも義務付けられます。
と、いきなり言われても「何のことだか分からない」という方もいらっしゃると思います。
そこで今回は「合理的配慮」についての基本的な説明、広報PRとの関連性について書いていきます。
※初めての方は、「#00 イントロダクション」をお読みいただくと、コンセプトがわかりやすいかと思います。
※本コラムでは、法律名称や行政用語に倣って「障害者」の表記を使用しています。
※本コラムでは、一部画像を含みます。ご了承ください。
そもそも「合理的配慮」って?
「合理的配慮」というのは読んで字のごとく、「合理的」に「配慮」する、という意味なのですが、「誰の何に配慮するのか」という部分が抜けてしまうと、いまいち分かりにくい。
この場合、基本的には「障害のある人」に対して「差別が無いように配慮する」と解釈するのが妥当かと思います。
背景として、2021年5月に「障害者差別解消法」が改正されました。
「障害者差別解消法」というのは、「障害の有無にかかわらず、誰もが平等で互いを尊重しあえる共生社会」の実現を目指して、「障害を理由とした不当な差別的扱い」を禁止する法律です。
人々が生活するうえで、買い物をする、食事をする、レジャーを楽しむ、乗り物に乗る、働く、など、様々な体験をしているわけですが、それらすべてのシチュエーションにおいて「障害を理由に不可能」はNGですよ、ということです。
とはいえ、障害のある人には物理的に困難なケースもあるでしょう。
車椅子では入れないような狭い場所とか、視聴覚をメインとして楽しむアトラクションとか。
そこで必要になるのが「合理的配慮」。
「完璧に同じにするのは無理だけれど、可能な限り障害に関係なく体験できるようにしましょう」ということです。
当初は行政機関のみの提供義務でしたが、2021年の法改正により、2024年4月1日から民間の事業者においても、「障害のある人への合理的配慮の提供」が義務付けられたのです。
大切なのは「建設的対話」
ここで気になるのが「合理的」。
「配慮」は分かるけれど、「合理的」が付くと何が変わるのだろう?
上記では私の言葉で「可能な限り」と書きましたが、法律上は「負担が過重でないとき」という言葉が使われます。
分かりやすく言うと、「負担が過重」=「めっちゃしんどい!」ということ。
無理や無茶を求めていたり、業務プロセスが崩壊するほどに優先してくれというわけではありません。
「合理的」というのは、「お互いに納得できる程度に理屈が通っている」と解釈すれば良いでしょう。
業務に支障が出たり、大きな犠牲を払うほどまで頑張らなくても良いですが、何の工夫も努力もなく「できません」の一点張りでは、ちょっと納得できないですよね。
そのあたりの「お互いのバランス」をもって「合理的」と言っているわけですが、バランスの良い均衡点を得るためには、お互い前向きに対話する必要があります。
それを内閣府の資料では「建設的対話」と呼んで、「前例が無い」や「もし何かあったら」といった消極的な対応、「この障害にはこの対応」といった一括りにするような考え方を避け、配慮が必要な人それぞれの事情に合わせて、柔軟に、個別に、検討するよう勧めています。
そのためには、まず「相手の要望」をよく聞くことが重要ですよね。
次に「出来ること」と「出来ないこと」を考慮して、お互いにベストな落としどころを探っていく。
これが「建設的対話」であり、「合理的配慮」です。
具体的に何をすれば良いか
では、具体的には何をすれば良いのか。
①対話の準備(環境の整備)
様々な障害を想定した場合、多少の準備は必要かと思います。これを「環境の整備」と言います。
例えば、聴覚障害や発話障害がある人と対話するには、手話や筆談具などが必要になるでしょう。
視覚障害がある人の場合は、対話するためにインフォメーションを探そうにも、案内図が平面だったら読めないので、触知案内板や音声案内が必要になるかと思います。
②ヒアリング(建設的対話)
準備が出来たら次はヒアリング。建設的対話によって相手のニーズを聞き出します。
例えば車椅子のお客様が「段差があって店内に入れない」という場合、重要なのは「段差を無くすこと」か、「段差を超えて上がること」か。それとも「店内に入らなくてもその店のサービスを受けられること」か。
相手のニーズは「段差を上がること」ではなく「サービスを受けられること」ではないでしょうか。
こういう決めつけも良くないので、実際にはそこの確認をしてくださいね(笑)
③課題解決(合理的配慮)
対話の結果ニーズや課題が分かったら、どのように解決すれば良いかを考えます。
その際には、「出来ない理由」よりも「どうしたら出来るか」を考え、様々なアイデアを提案してみると良いかと思います。こうなるとアイデア勝負なので、どれだけ柔軟なアイデアを臨機応変に提案できるか、という話になります。
上記の場合は、お客様に店内に入ってもらうのではなく、逆にサービスの方が出ていくことで解決できれば、それもアリなわけです。
④ケーススタディ
ある顧客のあるニーズに対して課題解決できたら、そのケースに限っての話ではありますが、ひとつの成功パターンとなります。もし同様のケースが出てきたときの参考にするため、ケーススタディとして社内で情報共有しましょう。
それらのノウハウが蓄積されることで、さらなる「環境の整備」につながります。
こうしてPDCAを回していくことが、よりよい共生社会の実現につながるのではないでしょうか。
広報PRの活用方法
合理的配慮は個別対応なので、企業によっても顧客よっても対応が異なり、アイデア次第で無数の対処法が出てきます。
そのアイデアは企業のオリジナリティであり、課題を解決した事実はウェルビーイングに直結するファクトですので、広報として外部に発信していくことでブランドコミュニケーションの一部となります。
その場だけの配慮ではなく恒常的な対応策となった場合には、DE&I(ダイバーシティ・イクオリティ&インクルージョン)やバリアフリーへの取り組みということになり、サステナビリティレポートなどに記載されるような活動となります。
改修工事のようなハード面の変更ではなく、人間の心遣いによるバリアフリーのことを「心のバリアフリー」と言い、心のバリアフリーの取り組みを表彰や認証する制度が国や自治体にはありますので、積極的に活用することをお勧めします。
以下は観光庁と東京都の例です。
○観光施設における心のバリアフリー認定制度(観光庁)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kokorono_barrier-free/index.html
○東京都「心のバリアフリー」サポート企業連携事業
https://kokorobf-support.tokyo/
ちなみに弊所MOON-LABOは東京都「心のバリアフリー」サポート企業に登録されています。
平成30年度「心のバリアフリー」サポート企業一覧(PDF:490KB)
おわりに
昨今の「個客化」したVUCA時代では、こうした個別対応も当たり前の顧客満足やUX(顧客体験)のように思えてきます。
さらに心理的安全性にも配慮するとなると、障害の有無にかかわらず「建設的対話」が不可欠になりますよね。
考えてみたら、BtoB企業の営業担当者は顧客ごとのオーダーをヒアリングして、従来からカスタム対応していました。
解決策のアイデアはともかく、ヒアリングやケーススタディの方法は営業さんに聞いた方が確実かもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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ではまた次回お会いしましょう。