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しっとり鶏肉
2021年4月12日 00:16
路地裏にある小さなバー。ネオンを放つ看板の下には、小さなベルのついた、これまた小さなドアが中から怪しげな香りを漂わせている。その様を遠目に眺める、スーツ姿の女性がいた。その女性はよろめきながら店に近づき、店の前でただ呆然と立ちつくしていた。「…なんら?…このバー…」ふやけた視界でネオンをとらえると、次の瞬間には、そのドアに手をかけていた。よろめく足音と可愛らしいドアベルの音だけが、
2021年4月13日 16:22
1話→ https://note.com/shimishmidaikon/n/nc7bd95a9dea0「このグラスに入っているのは"夜"。ほら、中で光っているのが星よ。これは星雲。星が入ったものは珍しいから、取り寄せるのに苦労したの」カヤさんは、よく通る声で楽しげに言葉を紡ぐ。私がキレイだと言った"夜"は、カヤさんがグラスを回すのに合わせて踊り、様々な模様を浮かび上がらせた。「すごい
2021年4月24日 20:20
2話→ https://note.com/shimishmidaikon/n/n00a8dbabcd71帰りたい…。酒の勢いでこんなところまで来てしまった自分を責めながらも、ミサトの頭はどうやってこの場から逃げるか、口封じの追跡を免れるか、とキリキリと回り続けていた。しかしどう考えても逃げることも追跡を免れることもできない。同じく酔った勢いでミサトの職場、出身、住所がカヤに開示済みだったの
2021年5月5日 02:12
前話→ https://note.com/shimishmidaikon/n/n731dcfb51f20 カヤがミサトの手をぐいぐい引きながら歩くと、急に開けた場所に出た。鬱蒼とした木々は途切れ、草原と満点の星空が広がっていた。ただ、広がっていた。そこにはおおよそ酒造の出来るような施設も、建物も無かった。ミサトは裏切られたような気分になったが、あまりの肩すかしに言葉も出ない。「ここ
2021年5月8日 23:26
前→ https://note.com/shimishmidaikon/n/nc2ba17ab2d24果てなく続くと思っていた夜空は、ぐにゃりとその表面に波をつくり、ひずみを徐々に広げたと思えば、やがてその中心から一筋の"夜"が涙のように、音もなく降り注いだ。ぱたっ ぱたっ頬にあたった"夜"は生温かい。ミサトが頬にさわった指を見ると、空を写し取ったような満天の星星が指を染めていた。
2021年5月16日 22:58
あらすじ 夜が落ちてきました。1話から→https://note.com/shimishmidaikon/m/m0311c6be2e90 空から一つの筋となって滑り落ちてくる夜は、草原中央にある机に置かれたポットの中へ一直線に注がれている。「これは、何なんですか?」ミサトはさっきの言葉をもう一度聞いてみた。ここまで来たら、何も聞かないほうがアホらしい。知らないことはとことん聞
2021年5月26日 20:26
今までのもの→https://note.com/shimishmidaikon/m/m0311c6be2e90春の風が草をなで、二人の間を音もなく抜けていく。その冷たさが妙に堪えて、ミサトは体を縮めた。そして満天の星を眺めながら、ぽつぽつと言葉を落とした。「私お酒って好きじゃないんです。苦いし、喉痛くないですか?」入社したての私は、周りに促されてレモンサワーを初めて飲んだ。消毒でも飲ん