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【夜を注ぐ①】

路地裏にある小さなバー。ネオンを放つ看板の下には、小さなベルのついた、これまた小さなドアが中から怪しげな香りを漂わせている。


その様を遠目に眺める、スーツ姿の女性がいた。


その女性はよろめきながら店に近づき、店の前でただ呆然と立ちつくしていた。


「…なんら?…このバー…」


ふやけた視界でネオンをとらえると、次の瞬間には、そのドアに手をかけていた。よろめく足音と可愛らしいドアベルの音だけが、路地裏に響いた。


店内は外観よりも簡素だ。小さなカウンターと、二人席がちらほら。窓は大通りに面しており、車のライトが右へ左へと騒がしい。その騒がしさとは裏腹に、客のいない店は静まり返っていた。


「あら、こんな時間にお客さん?」


カウンターに座る一人の女性が声をかけた。黒いドレスを着た、すらりとしたシルエットが存在感を放つ彼女を尻目に、周りを不躾にぐるぐると見回していた彼女はふらつきながらも声の方に向き直り、返事をした。


「はぁい!カワグチミサト…お客さんでぃ〜す!」

「ふふ、愉快な方ね」


カワグチミサトは、カウンターの女性に促されるまま、その隣りに座った。



楽しい席だった。

その女性は突然訪れた酔っぱらいの話を煙たがりもせず、邪険にもせず、終始愉快そうに笑いながら聞き、彼女もまた愉快そうに話した。


会話があまりに楽しく、ミサトはケラケラ笑いながら、出されたものをグイグイ飲んだ。すると何故か視界がはっきりしてきた。


「…あれ?カヤさんのカクテル、すごく綺麗…」


酔っている間に聞き出したのか、相手の名前を呼びながら親しげに話す私が目をつけたのは、カウンターの女性、カヤが飲むカクテルだ。


「これ? ありがとう。自慢なのよ」


褒め言葉に機嫌をよくしたカヤさんは、グラスを傾けてよく見せてくれた。


それは深い藍色をしていて、所々に不思議な輝きを含んでいた。


「これはね。"夜"よ」

「夜?」


なるほど確かに、グラスの中身は夜を連想させるような美しい光を放っていた。


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https://note.com/shimishmidaikon/n/n00a8dbabcd71

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