マガジンのカバー画像

小説のようなもの

3
小説スタイルとしてサイエンスを綴ります。
運営しているクリエイター

記事一覧

「これはね、書いていないことが大切なの」と彼女は答えた

「これはね、書いていないことが大切なの」と彼女は答えた

「またきた」
香奈子はそう言って、手に取っていたスマホを机に置いた。里菜は白ワインを一口飲んでから、「どしたの?」と聞いた。

香奈子と里菜がいつものお店のカウンター席で飲むのは毎月恒例の行事だ。二人とも会社員ではなく個人として働いている、いわゆるフリーランスだ。香奈子はライターとして、里菜はイラストレーターとして、企業から依頼を受けたときに仕事をする。

「今日打ち合わせした人から早速Faceb

もっとみる
「これは平均の罠だよ」と彼女は言った

「これは平均の罠だよ」と彼女は言った

(2016年11月30日作成のものを改変)

「フリーランスって便利屋か何かと思っているんじゃないの」
香奈子はそう言ってレモンサワーを一口飲んだ。
「だと思うよ。家でのんびりしながら片手間でやっていると思っているんだよ」
里菜はそう言いながら白ワインの入ったグラスに手を伸ばした。

香奈子と里菜がいつものお店のカウンター席で飲むのは毎月恒例の行事だ。二人とも会社員ではなく個人として働いている、い

もっとみる
「月が7割蒸発したらどうなるの」と彼女は聞いた

「月が7割蒸発したらどうなるの」と彼女は聞いた

(2016年10月31日作成)

「ねえ、月が7割蒸発したらどうなるの」
彼女はいつも、猪突に変な質問をしてくる。僕は、いつもどおりに返事をする。
「また、どうしたの」

大きなガラスを通して車の行き来が視界に入る、このカフェのこのテーブルが僕たちのお気に入りだ。

僕たちは同い年で、大学3年生のときに夏の短期バイトで知り合い、付き合い始めた。付き合ってから半年が過ぎたくらい。
お互いの癖は大体わ

もっとみる