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自作品

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自作品を入れてあります。種類は様々。
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2022年1月の記事一覧

【落語・講談台本】逢魔が辻①

【落語・講談台本】逢魔が辻①

 時は元禄。
 江戸は神田のとある通りに、ちいさな店を営む夫婦がおりました。
 職人堅気の亭主と、愛嬌のある女房が構えたこの店は、その人柄通りの手堅い商いで贔屓も増え、しっかりと通りに根付きまして、子はまだ居ないながらも、二人、幸せに暮らしておりました。

 ところが、この亭主。店じまいの後、いつものように帳簿をつけながら、おかしなことに気づきます。
 残高が、合わない。
 おかしい。実際の残高が

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トキソプラズマ

トキソプラズマ

【※長文です】

「悪いね。たいしたもの置いてなくて。ビールでいいか? 簡単に食えるもん作るから、その辺座って先に呑んでてくれ」
「ああそんな、気ィ使わないでくれ。お前も一緒に呑もう」
「じゃあ、これだけ作ったら、そっちに行くよ」

「しかし、いいのかぁ? こんな高そうなソファに、俺の尻なんか乗せて」
「なぁにバカ言ってんだよ。椅子は座るためにあるんだろ」
「うちは猫飼ってからソファは捨てたなぁ。

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上弦の月

上弦の月

 受け月に願いをかけると叶うと聞いたのはどこで誰からだったか。
 誰にも言えない願いを、掬い零さず受け止めてくれる月だという。

 上弦の月の中でも、皿のように薄く真っ直ぐに冴えた月が、受け月と呼ばれるのだという。しかしこの月が、夜空に姿を見せるのは、一年の中でも実はそれほど多くはないらしい。
 偶々夜空に浮かぶ日に、雨も降らず雲もかからなければ見えるその月に、願いをかける。
 そのとき誰かに見ら

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薬と毒

薬と毒

 その夜、女はどばどばと涙と鼻水を流しながら、男と言い争っていた。

 男にとっては「理屈に合わない要求」が、女にとっては「耐えがたい苦痛」が、積み重なった末の、最後の一つが引金となった結果だった。

 暮らし始めて間もなく、男は女に、薬と毒の話をしたことがあった。
「薬と毒は、別種の何かではない。ある物質が人の身体に入ったとき、プラスに作用すれば薬、マイナスに作用すれば毒と呼ばれる。プラスになる

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枝豆

枝豆

 休日を共に過ごしたその日暮れ、男と女は、適当に目についた、小綺麗な居酒屋に入ることにした。

 男は、テーブル席を希望した。
 そこまで混んでいなかったのか、個室の四人席に通された。
 二人は腰を下ろし、昼間歩いて疲れた足を休めた。
「酒はどのくらい飲めるの? ビールは飲める?」と男が女に訊いた。
「そんなに強くはないけど、全然飲めないわけじゃないですよ」
 大学入学以降、あちこちで訊かれ続け、

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涙香

涙香



「それじゃ、行ってくる」
 早朝の駅のホームで、男は女の頬にキスを一つ残し、東京行きに乗り込んだ。
 女は右手を軽く振りながら、軽い微笑でそれを見送った。

 若い頃、様々な職を渡り歩き、一時華やかな業種にも身を置いたことのある男は、さほど美形でもなければ若くもないけれど、不思議とどこかあでやかな男だった。
 この男でなければ、こんな人目を引くような気障な真似はさせないのに。 
 女は、列車

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【二次創作】オペラ座の怪人異聞(追記あり)

『オペラ座の怪人』二次創作です。

 オペラ座の怪人のラストで、初回はボロ泣き、何度見ても辛さが減らず、可哀相で可哀相で、個人的にパラレルを作ってしまいました。
 こういうことをするのは、初めてのことです。拙い文章ですが、折角書いたので、この際、載せといてみようかと思います。

 あの舞台のラストは、美しい終わり方だったと思っています。
 あの物語の終わらせ方は、あれしかない、とすら思っています。

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【訳詞】The Phantom of the Opera

 私は、ここしばらく、ずっと、『オペラ座の怪人』25周年記念ロンドン公演に関する考察を、綴っております。
 主観の多い長文ばかりですが、よろしければ、ご覧ください。
 ここから始まってます。

■前置き

 今回は、私が以前手慰みで作った、「The Phantom of the Opera」の訳詞を載せます。

 この曲は、『オペラ座の怪人』の表題曲です。ロイドウェバー作曲。
 どんな方でも「ジャ

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