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【小説】あと0日で新型コロナウイルスは終わります。

~終息へのカウントダウンと、新しい世界のはじまり~

アキナは、仕事が終わると電車に乗り、本来の自宅がある最寄駅に向かった。駅に着くと時計は午後8時をまわっていた。どんなに急いで帰っても、クリニックの仕事が終わり、アキナの自宅がある最寄駅に着くとこんな時間になってしまう。

そこから、タクシーに乗り、運転手にアキナが住んでいるアパートの住所を告げた。

アパートに近づけば近づくほどに、アキナの動悸は激しさを増してきた。

(どうしてもわたしのメンタルが持たずにダメだったら、そのままタクシーを駅にUターンしてもらおう。それで、今晩もホテルかネットカフェに泊まろう。できることから、コツコツ。できることから、コツコツ、コツコツ、……。)

固く握ったアキナの手はかなり汗ばんでいた。

「近くに着きましたけど~、どの辺に停めますか~。」

タクシー運転手はのんびりした口調で聞いてきた。

「あ、あの、そのアパートの階段の下にタクシーを着けてください。」

「ああ、はい。」

タクシー運転手は少し不思議そうにしていた。

「600円になります。」

アキナのアパートは最寄駅からギリギリ1メーターであった。アキナはお財布から千円札を出しながら、

「あ、あの、あの、わたし、お釣りいらないんで、その代わり、あの……」

「はい?」

「あの、わたしがタクシーを降りてから、2~3分ここに居ていただけませんか。」

「はい?」

タクシー運転手が何かを言おうとしたので、

「この前、ここに変質者が出たんです!わたしが部屋に入るまでいてください!いてほしいんです!お願いします!」

アキナは一気にまくし立てた。タクシー運転手は一瞬なんのことのか理解できなかったようだが、ゆっくりとドアを開けた。

「ありがとうございます!」

アキナはそういうと、急いでタクシーを降り、階段を駆け上がると、アキナの部屋のドアの鍵穴にカギを差し込んだ。ドアノブを回しドアを開けると、鍵穴からカギを抜き、すばやく中に入るとドアを閉め、カギを掛け、ドアチェーンをつけた。

アキナはひと息つくと、ドアスコープから外を覗きこんだ。しばらくすると、タクシーが走り去っていく音が聴こえた。



アキナは部屋の毛布にくるまり、テレビを観ながらガタガタと震えていた。

「ほんとうにダメだったら、ほんとうにダメだったら、今からタクシーを呼んで、駅かホテルかネットカフェに行ってもらおう。ほんとうにわたしのメンタルがダメだったら、無理しないでおこう。できることから、小さなことからコツコツやって、ほんの少しでも前進したら、自分自身を褒めてあげよう。」

アキナはブツブツつぶやきながら、自分で自分を鼓舞した。



それから数時間後のテレビ画面では、

「あと1分となりました!10秒前から皆さんとカウントダウンしましょうかね。ようやくここまで来ました!どうですかね?」

司会者がタレントに話を振った。

「日本中の皆さん、世界中の皆さん、お待たせしました!新型コロナウイルスのワクチンが配布になります!ほんとうに長くて長くて辛い生活でした。それももう終わります。お疲れ様でした!」

「10秒前になりました!」

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0
!!」

バンバンバン、ドドーン、ドンドン!

「やったー!やったー!おめでとう!」

テレビ画面一面に花火がうち上がり、アパートの近所の家からも歓声が聴こえた。

「ほんとうにこれで終わったんだ。新しい世界がはじまるんだ。世界も、わたしの生活も。」

いつの間にか、アキナの動悸も治まっていた。



それから一ヶ月後、アキナは勤めていたクリニックを辞めた。

PTSDの治療に専念するため、“ゴミ屋敷”であるアパートの部屋を片づけるため、助産師学校に入学するための試験勉強をするため。

「お金は足りてるの?」

「まあ、なんとか。」

数年ぶりに、田舎の母から電話がかかってきて会話をした。

「たまには帰ってきてね。」

「うん、わかった。」

これから何度も、自分も世界もつまずくかもしれない。でも、次につまずいたときには、対処できるように今より強い人間になっていようと思った。

新型コロナウイルスは、
今日、終わりました。

これは、実体験に基づいたフィクションですが、精神的な病気を抱えている方が仕事を辞めることは、病状の悪化に繋がることもありますので、必ず専門家にご相談ください。

【後書きの前書き】

第1話からお読みになっている皆様、お疲れ様です。ありがとうございます。フォローをずっと外さないでくださって、ほんとうにありがとうございます。最近知ったという方もありがとうございます。医療関係者の皆様、矛盾だらけの内容だったと思いますが、お付き合いくださってありがとうございます。

明日以降、100日連載小説の『あとがき』『お礼』『反省』『メリット』『デメリット』などを書いていこうと思います。 他にも、コメディやグルテンフリー情報も徐々に再開していきます。

新型コロナウイルスの終息を願いながら、100日連作小説に挑戦しましたが、残念ながら、今、日本は第3波に襲われています。 なるべく早く皆様の健康や生活や経済が良い方向になりますように。

2020年11月21日

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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