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ほんとうにうるさいのはどっち?|絶対音感をもつ人との生活

「ほんとうに、もう、うるさいんだよ!」

職場の10歳年下の先輩が、経営者がいないところで、経営者に対して毒づいた。

「『あの人は騒がしい』だの『大きな音を立てる』だの。わたしそんなにうるさいかな⁉ うるさくないよね⁉ ほんとうに神経質! 細けぇんだよ!」

先輩は高速で仕事を片付けることがよくあるのだが、そのとき、必ずドッタンバッタンガシャーンガラガラガラ……と、物を落としたり、ぶつかったりして、大きな音を立てていた。

イライラしたり、集中してくると、指でデスクをトントントントトントントントトト……と弾いて、変則的なリズムを刻んだ。

* * *

トントントントン……

「やめて!」

指でテーブルをタップすると、母からすぐに注意された。

「第2バイオリンとビオラのチューニングが合っていなくて気持ち悪かった」

市民楽団の音楽会から帰宅すると、母はトイレに駆けこみゲーゲー吐いていた。

「緊張して、声が1オクターブ高くなっちゃった」

「マキのは、1オクターブまで高くなくて、5音だから」

絶対音感をもつ母との生活は、いつも息が詰まるものだった。

ドアを閉めるときは、バッタンもガチャッももちろんのこと、かすかにカチャと音を出すのも厳禁だった。

足音は立てない。拍手はしない。口笛は吹かない。指でタップしない。もし、どうしてもやりたいなら、プロの音楽家並みに。もちろん、そんなことはできない。

小さなボロアパートに住んでいたので、隣の部屋にいても音が聴こえたため、夜の9時から朝の7時までは、水道から水やお湯を出さない。ガスコンロや電子レンジは使わない。テレビやラジオはイヤホンで聴く。音が出る食べ物は食べない。

絶対音感をもつ母との生活は、無音の生活でもあった。

* * *

ガッシャーン、タンタンタタタンタタタタタ、……。

(ほんとうに、うるさいなぁ)

10歳年下だけれど、この職場では彼女が先輩だから、わたしは注意できない。

経営者も絶対音感の持ち主かもしれない。

ならば、先輩が出す音は、相当不快で我慢できないレベルだ。

それなのに、先輩をたまにしか注意しない経営者は、かなり我慢強くて寛大だ。

どちらが《うるさい人間》で、どちらが《他人に迷惑をかけて》いて、どちらが《他人に寛容》かは、視点が違えば、まったく見える景色が変わってくる。

自分だけの小さな世界で、物事を判断しては危険だ。

相手がなぜ怒っているのか、たまには別の視点に立って考えてみたり、意見を求めてみよう。

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