底なしの無垢と狂気の混在!ラストの笑顔に鳥肌が止まらない…「Pearl パール」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(623日目)
「Pearl パール」(2023)
タイ・ウェスト監督
◆あらすじ
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ダンサーを志ざし、スターの華やかな世界に憧れるパール。人里離れた農場で、厳格な母と体が不自由な父に育てられた彼女の愛への渇望が、スターへの夢を育み、両親からの異常な愛が、その夢を腐らせていく……。籠の中の無垢なる少女が抑圧から解き放たれたとき、比類なき無邪気さと残酷さをあわせもつシリアルキラーが誕生する!!(Filmarksより引用)
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『ダンサーに憧れる無垢な少女だったパールはいかにして凶悪な殺人鬼に変貌を遂げたのか』
ということで、先日視聴した「X エックス」(’22)から60年前が舞台であり、前作にも登場した最高齢のシリアルキラー•パールの若かりし頃を描いています。
A24初の3部作の2作目にあたり、監督•脚本は前作に引き続きタイ・ウェスト氏が務めています。
前作で主人公マキシーンと老婆のパールの一人二役を務めた怪物女優ミア・ゴス氏が今作でも主演(若かりし頃のパール)を務め、さらには脚本と製作総指揮も担当するという無双っぷりを披露します。
今作の脚本は「X エックス」の撮影よりも前に書かれており、その時点ではまだ三部作の構想はおろか、続編すらも考えられていなかったそうです。それでもミア・ゴス氏とタイ・ウェスト監督は
「仮に映画化に漕ぎつけることができなかったとしても、パールというキャラクターに素晴らしい来歴を与えることにはなるし、それがゴスの演技に役立てばよい」(Pearl パールWikipediaより抜粋)
と考えており、その後A24からもこの前日譚の製作にGOサインが出たそうです。
ミア・ゴス氏は1993年生まれの30歳で、10代半ばからモデルとして活躍し、2013年に「ニンフォマニアック」で俳優デビューを果たして以来、数々の作品に出演しています。年齢不詳を際立たせる童顔と薄い眉が特徴的で、とりわけホラー映画においてその独特な存在感を遺憾なく発揮しております。
ちなみに一番好きな映画は「パルプ・フィクション」で、休日はガーデニングや料理をして過ごすそうです。
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◇スペイン風邪が猛威を振るう1918年、テキサス州の片田舎の小さな農場の一人娘であるパールは出征した夫を待ちながら、農場の仕事、体が不自由な父親の面倒、さらには厳格な母親からの支配に追われる日々を過ごしていた。
いつか華やかな舞台でダンサーとしてスターになることを夢見る彼女にとって、農場のかかしや動物を相手に映画の真似事をするのが唯一の息抜きだった。そんなある日、町に父親の薬を買いに行った際にこっそり映画を見たパールは映写技師のジョニーと出会い、「ヨーロッパに連れて行く」という彼の誘惑に心が動かされる。
その後、夫の妹•ミッツィからクリスマスに全米を慰問するダンスグループのオーディションが町で行われることを聞かされたパールはオーディションに合格して鬱屈した日々から開放されることで頭がいっぱいになり、オーディションを受けることすら認めない母親と口論の末、火だるまにして家を飛び出してしまう。
という風に展開していきますが、ここはまだ起承転結で言うところの起と承です!こんなにも濃密な起と承を私は見たことがありません。
さらにはこれ以降に凄まじい転と結が待ち受けており、最後の最後まで私は目が離せませんでした。本当に面白すぎて、劇場で見なかったことを心の底から後悔するレベルでした。
片田舎の小さな農場で戻ってくるかも分からない夫の帰りを待ち、体が不自由な父親の世話や農場の仕事をこなしながら、異常なまでに厳格な母親からの抑圧と支配に耐える10代の少女•パールは日々何を思って暮らしていたのでしょうか。
日々のストレスによる反動から小動物を殺して沼に住むワニに食べさせることに快感を覚え、映画を見たり真似事をするのが数少ない息抜きで、かかし相手に性的欲求を満たそうとする彼女はこの頃からもう既に壊れていたのかもしれません。そんな彼女が自称ボヘミアン(自由人)の映写技師ジョニーとの出会いやダンサー募集の話を聞いたことによって、鬱屈した日々からの脱却で頭がいっぱいになるのは必然です。
母親は母親で夫の世話や農場の仕事に日々忙殺され、やりたいことなど一つもできずにこの小さな農場で一生を終えることを覚悟していたのかもしれません。そんな中、自分の娘がこっそり映画を観ていたり、ダンサーになって全米を回りたい等と戯言を言った日にゃあ、そりゃ頭に来るし、彼女の夢を全否定したくなる気持ちも分からなくはないです。
「持っていたものを全て奪われた私からこれ以上何を奪うの」というセリフが全てを物語っています。
もちろんパールがしんどいのは分かるんですけど、母親の「私はこんなに我慢してるのに!何であんたは自由になろうとするのよ!」という気持ちも分かるからこそ、本当に辛いです。明確に誰かが悪いというわけではないですから。
パールが母親を火だるまにしてしまったのも故意ではなく完全に事故でしたが、ここでもう箍が外れてしまったのでしょう。日頃から小動物を殺していた彼女にとっては命を奪うことへのハードルが人よりも低かったんだと思います。一夜を共にしたジョニーがパールの異常性を察して逃げようとした際も躊躇なく殺害、そして体が不自由な父親、全身の火傷ですでに死にかけてる母親の命も立て続けに奪ったあと、目一杯のお洒落をしてオーディションに臨むパールはあっけなく不合格となってしまいます。
彼女にとっての不合格はもはや「死ぬまで農場で過ごすこと」であり、それはもう死と同等のことだったのかもしれません。彼女の獣の咆哮のような号泣にはそういった思いがあったのではないでしょうか。
パールは心配して家まで付き添ってくれたミッツィに夫•ハワードへの思い、そして全ての罪を告白する。結婚したら農場を出られると期待していたのに、ハワードが農場暮らしを望んでいたことに不満を持っていこと。自身が不倫をしたこと。そして人の命を奪ったこと。
ミッツィがオーディションに合格していたことを察したパールはミッツィも殺害、そしてワニに食べさせてしまう。やがて戦地から帰ってきたハワードが見たものは食卓を囲む義父母の腐乱死体。そして満面の笑顔で出迎えるパールだった。
という終わり方なんですけども、このラストシーンのパールの笑顔は言葉では言い現せないほどに感情が入り混じっており、私は鳥肌が止まりませんでした。『映画史に残る』という表現はこういう時に使うものなんだと思います。
愛に飢え、夢を見て、全てが壊れ、抑圧から解き放たれたことで、底なしの無垢と狂気が混在したシリアルキラーが誕生したのかもしれません。これまで見た映画の中でもトップクラスに面白かったです。こんな素晴らしい映画に出会えて本当に良かったです。オススメです!
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