マークの大冒険 百年戦争編 | 本当に大切なもの
晴れた日の土曜日の午後、写真事務所の中でマークはボヤいていた。事務所の窓の外から入る陽光が、部屋の中に微かに舞う埃を浮かび上がらせている。遠くの国道を走る車の走行音が僅かに聞こえてくる。近くの電柱からは鳩の鳴き声が聞こえ、ガレージの車のボンネットの上で猫たちが日向ぼっこしていた。本当に絵に描いたような平和な日で、穏やかでゆったりとした時間が流れていた。
「結局、今回も意味のない冒険だったよなぁ。せっかく稼いだ金は、全部ジャンヌの身代金に使っちまったし。何やってんだろなぁ」
「別に今回に限らず、お前はいつもそうだろう。ローマで手にした聖盾アンキリアもヌマに返しちまうし、ギリシアで手に入れた黄金の果実も結局ウェスタに返還しちまうし。世界をこの手にできたのに、お前は本当に大馬鹿ものだよ。フランスでも、ブルボン家の隠し金庫の鍵をそのまま親族に返しちまったしな」
隣にいたホルスが呆れた口調で言った。
「ボクみたいなお人好しな性格ってのは、ホントに損だよな。そういう自分が、我ながら憎いぜ。まあ、でも、どんなことも人の命には変えられない。ジャンヌが大人しく、どこか別の地で、新たな人生を送ってくれていることを願うよ。だけど、やっぱり本当に惜しいことしたな。打ち出したばかりのあのエキュドール金貨は、MS70も夢じゃなかったかもしれない。あんなのこっちの世界じゃ、どんなに金を積んでも一生見られないシロモノだぜ?。コインオークションに掛けたら、どれだけの金になってたか」
「俺にはさっぱり良さが分からんけどな。ただの金の塊だろう」
「キミに幾ら語ったところで、理解はし合えなさそうだな。まあ、他人から理解される趣味だとは思わないが。けど、また考えないとだな。億万長者になる方法を。お人好しも相まって、ボクが富豪になる日は、だいぶ遠そうだけど」
「次はどこに行くってんだ。もう十分、いろんなところを旅しただろう」
「いや、ボクの冒険はたとえ東の風が吹こうとも終わらない。まだまだ始まったばかりさ。財宝をこの手にするまではね」
「だが、あのルイお坊っちゃまだけは、お前の旅の収穫かもな」
「ああ。あの子のためにも頑張らんとな。真面目に就職でもすっかな。性に合わんが。どっかにコイン屋の求人でもないかな〜。後で就職サイトを見てみるかな」
「父親になるってのは、どういう感覚だ?もうしばらく経っただろう」
「今でも何だか分からない不思議な心地がするよ。まあ、でも悪くはないね。だが、言うことは利かないし、金はめちゃくちゃ掛かるしで、自分の父親の偉大さを知ったよ」
「そうか。なら、後悔してるか?」
「いや、全く。生まれ変わったとしても、躊躇なくまた同じ道を歩むよ」
「だろうな。父親なら誰だっていばらの道と分かっていても、その道を選ぶ」
「意外だな」
「俺にも4人の息子たちがいた。それぐらい分かる」
「なら、ボクらは同志だな。今は彼が将来、どんなふうに育って、どんな大人になっていくかが楽しみで仕方ない。ボクの夢は億万長者になることだが、所詮お金はただの引換券に過ぎない。物的な豊かさでは手に入れられないもの。家族や仲間、今こうして目の前にある時間。お金という引換券で交換できないものにこそ、本当の価値がある」
「今日はやけに語るな」
「ああ、それと忘れてたが、エジプトで出会ったキミも、ボクの旅の大収穫だったな」
「キモいこと言うな」
そう言ってホルスは、マークから顔を逸らした。
「照れるなよ」
「父さん!そろそろ遊びに行こうよ。この前の室内アスレチックにまた行きたい!瞳ねえちゃんは?来る?」
部屋の向こう側からルイが勢い良く走って来た。
「ああ、行こうか。瞳もそろそろ来るよ」
マークは微笑を浮かべると、ルイの方に向かった。
End.
Shelk 🦋