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アンティークコインの世界|アルフォンソ13世5ペセタ銀貨とスラブのおはなし

今回は、スペインコインについて紹介していく。この度も発行背景等の歴史だけでなく、スラブに関する内容も交えて述べていく。スラブについての連載は、スペイン→イギリス→ギリシア・ローマ→メキシコと来て、またスペインに戻る。

私はかつてからスペインコインに惹かれており、特に彼らが発行した大型銀貨に魅了され続けてきた。収集の初期からスペインコインには注目しており、現在に至る。独特の雰囲気を持ったスペインコインは、収集を存分に楽しめる最高峰のジャンルのひとつだろう。

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図柄表:アルフォンソ13世 
図柄裏:スペイン王国国章 
発行地:スペイン王国マドリード造幣局
発行年:1898年
発行数:39,977,000枚
彫刻師:Bartolome Maura Montaner
銘文表:ALFONSO XIII POR LA G DE DIOS 1898
銘文裏:REY CONST L DE ESPANA 5 PESETAS SG V
額   面:5ペセタ
材   質:銀(.900) 
直   径:37.5×2.0mm
重   量:25.0g
分   類:Cal27
評   価:PCGS MS61


スペイン王国で1898年に発行された5ペセタ銀貨。5ペセタ銀貨は発行枚数が多く、かつては地金型銀貨としてプレミアムが付かないコインとして扱われていた。だが、その多くが溶解されてしまったことと、近年のアンティークコインブームも相まって、現在では再評価されている。

一般で流通していた通常貨であるため、状態が優れたものは少なく、現存するものの多くが摩耗している。そのため、コンディションが優れるものは特に高額で取引されるようになった。

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本貨は、アルフォンソ13世のサード・ポートレートの少年像を描いている。この肖像の前に乳児像を描いたファースト・ポートレート、癖っ毛が特徴的な幼児像を描いたセカンド・ポートレートが存在する。年齢の変化が見られる興味深いコインのひとつである。

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アルフォンソ13世のファースト・ポートレートが描かれた5ペセタ銀貨。世界的に類例を殆ど見ない赤子の単独肖像を描く珍しい貨幣で、彼が誕生前から王位を継承していた背景に基づく。かつてスペインは世界中に植民地を有する大帝国であり、ヨーロッパ最強の国家として君臨していた。


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アルフォンソ13世のセカンド・ポートレートを描いた5ペセタ銀貨。癖のある巻き毛が特徴的な肖像である。現存するものの多くは状態が悪く、肖像がはっきりとしない。摩耗や傷があるものばかりで、発行枚数がそれなりにある割に綺麗なものを探すのが難しい。


アルフォンソ13世は、父アルフォンソ12世が若くして急死したため、母親のお腹にまだいる頃から王位を継承したことで知られる。当然、彼に政治の能力はなく、成人するまでは傀儡の王であり、実権はスペイン政府の要人たちに握られていた。

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裏側にはスペイン国章が表されている。複数のモティーフを取り入れたエスカッシャン(盾紋章)が非常に美しい。モティーフには全てバックグラウンドが存在し、スペイン成立の経緯を示してもいる。

王冠、盾、城塞、獅子、薔薇、円柱などの意匠が描かれている。円柱は「ヘラクレスの柱」と呼ばれるもので、ジブラルタル海峡を示している。これは、古代ギリシアのヘラクレスの神話に基づいている。

それでは、次はスラブのパッチに注目していこう。下記、パッチに記された情報の見方を明記していく。

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1898は本貨の発行年号であり、「SG V」は本貨の造幣官のイニシャルを示すもので、管理上の記号の役割も兼ねている。「5 Pta」とは「5ペセタ」の省略表記であり、本貨の額面を示している。

PCGSとは本貨の鑑定を行った鑑定会社であり、米国を代表する二大大手貨幣鑑定機関のひとつである。外国貨幣の他、日本古銭の鑑定を得意とするが、古代コインの鑑定サービスは行なっていない。

MSとは「Mint State ミント・ステイト」の意であり、未流通の造幣局で発行されたコンディションを保ったコインに対して与えられる評価である。だが、不思議なことにアルフォンソ13世のこのタイプのコインは、どれも表面に細かな擦り傷が見受けられる。おそらく、銀行等で袋に保管されていたのだろうが、移動時にコイン同士が擦れてできた小傷と思われる。どのコインにも一貫して、この細かな傷がフィールド全体に見受けられ、完全な傷なしのものを探すのは非常に困難である。

「Spain」とはそのままの通りスペインの意であり、本貨がマドリード王立造幣局で発行されたことを示している。スペイン支配下の属国で発行されたモデルであれば、ここにその属国の地名が記される。ボリビアなど、スペインは各地に属国を有していた。それゆえ、かつては「太陽の沈まない国」とも形容されていた。

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(1898)とは、本貨が発行された年号を示している。スペインコインの実発行年は、星印の中に打たれている。それゆえ、発行年がフィールドに大きく記されている年号とは異なるケースが存在する。本貨の場合は両者が一致している。このカッコ内には、星印内に記された本当の発行年が記される。

以上、スペインで発行された5ペセタ銀貨を紹介した。私はこのアルフォンソ13世というスペインの王が個人的に気に入っており、彼の肖像を刻んだコインを複数集めている。同じデザインの年号違いのみならず、同年号・同分類番号のものでも、状態が優れていたり、トーンが気に入ったものは都度入手するようにしている。コンディションが良ければ何枚持っていても構わないと思っているが、そのように思えるコインは珍しいため、そんな自分自身に驚いている。


Shelk 詩瑠久🦋




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