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『死神と蝋燭』フランス・ブルターニュ地方民話


あるところに、息子の名付け親を探している貧しい男がいた。彼は歩き、名付け親に相応しい人物を探した。

「名付け親を探している?なら、私こそ相応しい」

「あなたは誰だ」

「神だ」

「なら、あなたには任せられない。戦争も貧困もなくならないのは、あなたのせいだ」

貧しい男はその場を去り、息子の名付け親を再び探した。

「名付け親を探している?なら、私こそ相応しい」

「あなたは誰だ」

「私はペテロだ」

「なら、あなたには任せられない。キリストの一番弟子ペテロよ、キリスト教は金持ちのためのものだ。実際は金持ちばかり救われ、貧民は救われない」

貧しい男はその場を去り、息子の名付け親を再び探した。

「名付け親を探している?なら、私こそ相応しい」

「あなたは誰だ」

「私は死神だ」

「そうか。なら、あなたに息子の名付け親を頼みたい。あなたは誰に対しても平等だからね。死は何人にも平等にもたらされる」

「名付け親に選んでくれた礼がしたい。キミは貧しいようだね。だから、医者になりなさい。私が枕元に立っている場合は、患者は必ず助かる。だが、私が足元に立っている場合は、どんなに頑張っても助からない。それを覚えておくんだ。私が足元に立っている場合は何をしても助からないのだから、高い薬をわざわざ出す必要はない。薬に見せかけた水でも出しなさい。そうすれば、薬代が浮くだろう?」

この日、貧しい男と死神は友人になった。貧しい男は死神に言われた通り医者になり、そして金持ちになった。男の息子が大きくなった頃、死神は男を自分の屋敷に招いた。屋敷の中には、無数の蝋燭が置かれていた。

「これは何だい?」

医者の男は訊ねた。

「人の命の蝋燭だ。長いものは生まれたばかりの赤子、短いものや消えそうなものは死が近い者を表している」

「私の蝋燭も見れるのかい?」

「ああ、もちろん。これがキミの蝋燭だ」

「え?もう火が消え掛かっているいるじゃないか!」

「キミは3日後に死ぬ」

「そんな......」

「この隣の蝋燭を幾分か私の方に足せないか?」

「友よ、それはできない。それに、その隣の蝋燭はキミの息子の蝋燭だ」

「他にどうにかする手立てはないのかい?」

「どうにもできない」

「そうか」

医者の男はとうとう諦め、帰って行った。そして、死神が言った通り、3日後に死んだ。

これはフランスのブルターニュ地方に伝わる民話である。民間伝承ゆえに複数のパターンが存在し、その中でも細かなヴァラエティが幾つもある。今回紹介したものは、大筋を要約したものである。このエピソードは、不気味さの中のユーモアが特徴と言える。また、キリスト教に批判的な主人公の態度などは、当時の民衆の本音を体現しており、歴史の教科書には登場しない庶民の生の声も窺える。キリスト教の神や使徒より、死神の方がよほど平等で好感が持てるというような主人公の主張。まさしくそれは、当時の人々の声を代弁したものなのだろう。


【主要参考文献】
Anatole Le Braz “La Légende de la mort en basse Bretagne” Paris, Editions Champion.


*掲載画像は筆者作成の上、掲載を行った。


Shelk 🦋

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