見出し画像

方舟を創る人々へ~2021.07.11 MONO NO AWARE「ODORI CRUISING」@福岡CB


MONO NO AWARE、2年ぶりのアルバムで2年ぶりの福岡公演。コミュニケーションを始めとし、何となくの生き辛さを現世で抱える人々とともに悩み合うかのような4thアルバム『行列のできる方舟』を引っ提げてのツアーで、ちょうど折り返し地点。現時点で唯一のソールドアウト公演ということもあって、収容人数を間引いてはあるものの大盛況の様子。開演時間となり、波音とカモメの鳴き声を入場SEとして4人が入場。玉置周啓(Vo/Gt)が、ギターを掻き鳴らし、トライバルビートと民謡コーラスが広がってアルバム同様のオープニングナンバー「異邦人」へ。最前列での鑑賞、大迫力のグルーヴだ。

アルバムを貫くテーマとして"分かり合えなさ"があり、故にもどかしく、故に言葉を疑い、故に愛おしいというその逡巡が作品全体で繰り広げられるのだが、「異邦人」はその象徴。関わりへの諦めと"ありのまま"でいることを表裏一体で描いたような1曲だ。タイトなファンクネスが炸裂する「幽霊船」もまた、珍妙なムードの中にも薄っすら絶望感が継続し続けている。93,94年生まれという同世代だからこそ分かるが、どういうわけか"ゆとり"のレッテルを貼られ、なぜか低い地点からスタートせざるを得なかった劣等感が彼らの曲には刻まれているのだ。「水が湧いた」も祝祭感はあれどもどこか不穏。祭囃子が静かな闘争と偉大な逃走のバックトラックとして響いてくる。

いつも何を言っているのかが難しい玉置のMCはやや抑えめ。<生麦 生米 生卵>とキメを3度繰り返し、「かむかむしかもにどもかも!」からはアッパーでポップな楽曲を立て続ける。アルバム最初のシングル「ゾッコン」の突き抜けるようなエネルギーは玉置が10代の頃に作ったがゆえ、だろうけどアルバムの中でもひときわ前のめりなブライトサイトを担っている。一転して、サンバのリズムで軽やかに歌う「孤独になってみたい」では全てを断ち切り、タイトル通りのことをそっと思い描く。このように、全く異なると思える2つの感情を往来しながら紡がれたのが『行列のできる方舟』であり、その逡巡の過程をそのままショーアップしたかのようにライブは進行していく。

過去曲のセレクトも見事だった。「機関銃を撃たせないで」は今の日本を大いに賑わせているあっちとこっちの視点を右往左往し検証することを歌った楽曲であり、リリース時よりも遥かに混迷を極めたコロナ禍の今にぶっ刺さっていく。その後、玉置がガラケーにこだわり続けていた輝先輩(名前を明かすうっかりがあった)の漫談から、便利になり続ける世にも奇妙な社会への警鐘をタモリばりにストーリーテーリングする「5G」に突入。ここからは、やなぎさわゆたか(Dr)がパッドを叩く妖しげでドープな方面へ向かう。ダンスミュージック仕様にタメとドロップを際立たせていた「そういう日もある」など、曲のバリエーションを活かしきった流れ作りが素晴らしかった。

アルバムを貫くもう1つのテーマである"愛"にまつわる楽曲が終盤には連なっていく。超初期の曲でありながら新作で再録となった「ダダ」は、自分本意な気持ちと愛を伝えることの狭間でモヤつく心象が囁くような歌声とミニマルな展開で描かれる1曲。どこかやさぐれた、トゲトゲした質感もある曲だが最後は<あなたとふたりで歩いた場所からまた行こう>と括られ、次曲であるアルバムリード曲「LOVE LOVE」へとパスされる。こちらもかなり古い曲で、恋に恋する姿に胸を張り、過剰なまでに君を見つめるような歌詞は瑞々しく、少し痛々しく映るかもしれない。しかし、人一倍考え苦悩し言葉を綴る玉置だからこそ放つことのできる眼力の強い真摯さとも言えるだろう。

熱を上げていく感動的な「LOVE LOVE」を終えた後、終盤のMCで玉置はとても頑張って言葉を発していた。"風"を通して自然とともにある重要性を伝えたかったようだが、不謹慎なことを言ったりスピリチュアルな方向に行ったりと思いがけず発する言葉たちに振り回されていた。「言い切れないからアルバムにした」と強引に締めていたが確かに「そこにあったから」はあまりにも雄弁すぎる。広大で神秘的なイメージを引き連れ、肌に沁み込ませてくれる。続く名曲「言葉がなかったら」もそうだが、玉置は言葉と向き合うからこそその真逆の地点へも思いがけず向かう。MONO NO AWAREは歌詞を大事にするバンドだからこそ、言葉のない絶景、言葉じゃない行為にもタッチしていく。この一連の劇的な流れにアルバム4枚分の重みをズシリと感じた。

せーの!で始まる「東京」のアンセムとして成長ぶりは勇ましい。思えば、このバンドが何を歌いたいかが僅かに分かり始めた最初の曲だったように思う。<みんながみんな 幸せになる方法などない/無理くり手をつないでも 足並などそろわない>、このラインは『行列のできる方舟』に至るまで共有され続けている。時代は移ろい、考えることは増え、言葉選びには彷徨うばかり、、、その漂流の先、アルバム同様「まほろば」へと辿り着く。<ロマンティック あなたが生まれてきてくれたこと/ロマンティック 私が生きてくこと>というのは根源的なものだが、これからも揺らぎ、もだえ、考え続けていくことだろう。決して大団円とは言えない靄がかった締めで良かった。

アンコールではメンバーそれぞれのMCもあり、霞を食って生きてそうな独特の4人だったところから一気に人間味を増し、益々魅力的に映る。いつもの、アワアワとしながらも妙に堅苦しい玉置のMCが開陳されていたし、このバラバラな足並みこそバンドだよなぁと思う。竹田綾子(Ba)のルート弾きが格好よすぎる「井戸育ち」では、シャイギタリストの加藤成順(Gt)のレアなギターソロもあり大満足。この曲は自らを"井の中の蛙"に喩えて眼前に広がる世界へと足を踏み出す曲だ。個人的には彼らとの出会いの1曲だが、こうして様変わりした世界の中で改めて原点たるイメージで鳴らされるとグッとくる。彼らの楽曲の中で珍しいギターロック的快楽もまたその高揚感に繋がった。

ラストは彼らのユーモラスサイドの筆頭であった「イワンコッチャナイ」。曲調としてはずっと楽しく、曲中でお馴染みの玉置によるパントマイムも見事に決まっていたのだが、そういえば、である。この曲の歌い出しは<君に嫌われたらどうしよう あの日の言葉に震える>なのだ。まさに愛とコミュニケーションと言葉にまつわる歌なのだ。こんなにも謎めいた1曲だと思っていたのに、それもまた全て玉置の中では今に繋がる思考の手掛かりになっていたのだろう。かつて書き残した事象が意味をもって今に接続される、この経過をリアルタイムで知れるのはとても嬉しい。こんな体験ができるのも、MONO NO AWAREが現代を生きる同世代としてともに悩み生きていきたい仲間だからこそだろう。それぞれがこしらえた小さな方舟で、生きたい方向へふらりと行ってみたいだけの僕らなのだが、その中で葛藤は続いていく。その度に、今のMONO NO AWAREがどんな調子だい?と知っておきたいのだ。


<setlist>
1.異邦人
2.幽霊船
3.水が湧いた
-MC-
4.かむかむしかもにどもかも!
5.ゾッコン
6.孤独になってみたい
7.機関銃を撃たせないで
-MC-
8.5G
9.そういう日もある
10.ダダ
11.LOVE LOVE
-MC-
12.そこにあったから
13.言葉がなかったら
14.東京
-MC-
15.まほろば
-encore-
16.井戸育ち
17.イワンコッチャナイ


#コンテンツ会議  #コラム #エッセイ #音楽 #邦楽 #日記 #備忘録 #ライブ #ライブ日記 #ライブレポート #イベントレポ #音楽コラム #ロック #邦ロック #バンド #ロックバンド #mononoaware #行列のできる方舟



この記事が参加している募集

イベントレポ

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?