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BUMP OF CHICKEN『orbital period』と2007年のインターネット

お題企画を機にふと思い返してみると、2007年12月19日リリースのBUMP OF CHIKEN、5thアルバム(メジャー3rd)『orbital period』だったはず。2005年にBUMPと出会ってから初めてのアルバムで、ギンギンの期待感で聴いた。

当時と言えば、ニコニコ動画とYouTubeの黎明期。インターネットのエンターテイメントといえばフラッシュ動画とテキストサイトだったと記憶していて。テレビには流れない閉塞的かつマニアックで、ニヒルで冷淡としたユーモアたちが僕の中2心にぶっ刺さった結果、所謂インターネット老人会に入会できてしまった。部活もロクにしていなかった僕は2ちゃんねるもテキストサイトとほぼ同じカテゴライズのコンテンツとして放課後に毎日張り付き、とげとげしい言葉を眺めていた。Twitterが日本にやってくる数年前のこと。スマホが普及し、インターネットが皆の掌に置かれる少し前のことだ。

BUMP OF CHICKENにはおもしろフラッシュ経由で出会った。故に、バンプは自分にとって初めてインターネットを介して知ったバンドである。2ちゃんねるにもどうかしてるくらいにBUMPに関する言説が日夜匿名ネームで投下されていた。2006-2007年にリリースも少なかったからか、『ユグドラシル』以来に出ると思しきアルバムのガセ情報が出回り続けていた。それっぽい曲タイトル(「September rain」とか「カタストロフィ」とかあった笑)、ありそうな曲順(「カルマ」が序盤で「supernova」が終盤)とか。今考えるとなんでこんな嘘をつく必要が?と笑えてしまうけど、「人形劇ギルド」とかいう邦楽史に残る謎リリースのリークもあったし、ちょっと信じたりもしてた。

あの頃、インターネットを漂っていた寄る辺のない自我たちと、BUMP OF CHICKENが綴る孤独さや生き死にまつわる歌は強く共鳴し合っていたように思う。今のインターネットに溢れる整理整頓された卑屈さや、胡散臭い自己啓発とは違う、剥き出しで愚かしい感情たち。“弱虫の反撃”なんて名前を冠したバンドが愛されないわけない。そして中2で自分が明らかにメインストリームな人間ではないとあらゆる面で思い始めた僕自身の自意識にもそっとシンクロし、心酔するに至ったわけです。アルバムが出て欲しいという思念が寄り集まり、謎の妄想アルバムが乱立されていたことも納得できたりした。

当時はBUMPが新曲、新作を出すこと自体に強い意味を見出していたので冷静ではなかったけど、今振り返ると『orbital period』、というよりそこに至るまでのシングルの時点でバンドにかなり変化があったのだな、と思う。タイアップの増加、シンセ、ストリングスの導入。会場のキャパも大きくなり、より外に開けていくようになる状況の中で楽曲はリスナー、広い意味での大切な人へと向いていく。「花の名」が見つめる”あなた“、「supernova」が想う“君”、「ひとりごと」ですら誰かとでなければ、と歌う。その傍らで<自分の為に歌われた歌などない>(「才悩人応援歌」)と言い切り、<神様気分の俺様>(「ハンマーソングと痛みの塔」の目線も歌ってみせる。多岐にわたる様々な心象を手塚治虫「火の鳥」よろしく、「星の鳥」(ジャケットにあしらわれてるピカピカのアレ)が宇宙/時空を飛び回りながら見た世界を藤くんの筆致を通してまとめ上げたのが『orbital period』なのだな、と。

インターネットへはその後もしっかりと根差して生きていくわけだが、『orbital period』以降、僕はどういうわけかBUMPからはゆっくり離れていった。今は新作がリリースされれば聴き、現在地を知る、というような感じ。年月を経て、自分の好みが定まっていく中でそのど真ん中ではなくなったんだろうか、単純にどんどん巨大化していく規模感に気後れしてしまったからだろうか。あの頃、2ちゃんねるのBUMP掲示板に居たファンやアンチは今BUMPとどんな風に向き合っているんだろうとたまに思う。田舎の中学には存在しない刺激的な言葉で、僕を無駄に尖った人格に仕上げたあの顔も名前もない人たち。あの、どこにもいけず、何にもなれない気分、もしかしたら一生独りぼっちなのかもという心もとなさのやり場としてBUMP OF CHICKENの曲を大事に抱えていた僕らよ。『orbital period』はそんなメンタリティを象徴しつつも、俺たちは次へ行くよ、と告げている。

『orbital period』を締めくくる「flyby」という短い歌にある<バイバイ 忘レテモ構ワナイ 忘レナイカラ ズット応答願ウ>という一節は、今のような距離感でBUMPを聴く自分もそっと思い続けてくれているような気分になる。BUMPはその時々で表現と向き合い、その場所で共鳴する魂と出会いながら、時に別れも真っ直ぐに肯定しつつ、今まで少しずつ変わり、少しもブレずに来ているのだろう。<ベイビーアイラブユーだぜ>、胸キュン恋愛アニメ映画の主題歌、藤くんの結婚、2007年のネット民が聴いたら卒倒しそうなここ最近の姿だって、人が13年経ったと考えればごく自然のことなのでは。

個人的に当時の2大巨頭がBUMPとアジカン だったわけだけど、2006-2007年にかけて2組が全然曲を出さなくて。時間を埋めるようにして当時デビューしたばかりのBase Ball Bear、チャットモンチー、RADWIMPS、シュノーケル、9mm Parabellum Bulletや近い世代にシーンにいたストレイテナー 、ELLEGARDEN、フジファブリック、BEAT CRUSADERS、レミオロメンを聴き始めたことが今の音楽好き、バンド好きの礎になってるのです。そう考えると、寡作だったことすらも意味を持ってしまう。BUMPの公転周期から外れても尚、あの輝きは今へと繋がっている。あの星の鳥はこんな世界線の僕のこともまだ見つめているのかもしれない、なんて大いに自分の元に引き寄せて音楽を語るようになったのも、BUMPの仕業なんだからな!ありがとう!

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