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2020.10.11 yonige 健全な社会ツアー 爽秋編@佐賀GEILS

久々に対面ライブのレポートを書いてみる。yonige、福岡以外の九州を廻るツアーのファイナルが佐賀GEILSで開催。ここに来るのは3年ちょっとぶり。駅前の西友が潰れ、GEILS真向いの塾が工事中だったこと以外はなんの変りもない。しかしコロナ禍を受けてGEILSの総収容人数は50ちょっとに減らされ、フロアには椅子が並べられていた。整理番号が50だったので最後列かなと思っていたけど、最前列の1番端っこが空いていたのでするっと入り込んだ。9

牛丸ありさ(Vo/Gt)、ごっきん(Ba)に加え、ホリエマム(Dr)、土器大洋(Gt)を加えた4人編成。「大変な状況の中、お集まり頂きありがとうございます」という牛丸の一言以外、最後の挨拶までMCナシ。ひたすらに曲を積み上げていくライブ構成だった。大阪のライブハウスでのし上がったバンドゆえ、その勢いの良さも強みであったが、こういう状況下ゆえかアッパーな楽曲は少なめ。しかし実のところそれは今のモードにマッチする。5月リリースの傑作『健全な社会』はガシガシと盛り立てる曲は一切なく、ミドルテンポで穏やかな楽曲が中心だ。たまたまだろうが、今着席でyonigeを観るというのはとてもしっくりくるのだ。「11月24日」の平坦さから激情を行き来する構成、「健全な朝」の淡々とした感傷。どれもがじっくりと味わうのに相応しい。

新作からの「ここじゃない場所」、前作『HOUSE』からの「2月の水槽」、2015年の「バッドエンド週末」が同居しているのも興味深かった。元より持っていたグルーヴィーな素質を発展させたのが『HOUSE』から『健全な社会』だというのもよく分かる。そしてどっしりとしたバラードをより強く届けられるのも今のyonigeだ。土器のギターワークは繊細に楽曲を膨らませつつ、重厚な楽曲における役割も大いに果たしていてさすが名アレンジ請負人である。そしてドラムのホリエも変拍子ながら打撃の重みを感じさせるリズムを繰り出す。この編成だと今回のライブ数少ないアッパーな「顔で虫が死ぬ」、「悲しみはいつもの中」といった楽曲での気持ち良さも絶大。この辺りのBPMの曲はやっぱり拳突き上げながら聴きたいなぁと思ったりもした。

牛丸がアコギを持つ「サイケデリックイエスタデイ」、ワルツのリズムで虚しさを募らせる「あかるいみらい」、yonigeの楽曲が持つ諦念や感傷がよく表現された楽曲たち。座ってじっくり聴くとしんみりとした気分を全身で受け止めて堪らない気分になった。最近は対面ライブという事実自体があまりに高揚感をもたらしてくれるものだから忘れかけていたけど、ライブというのは"楽しさ"だけを提供してくれるものじゃない。何とも物哀しい気持ちになったり。しまっておいた記憶にタッチしたり、様々だ。6年住んだ佐賀で聴くとモラトリアムな季節を思い出して随分と切なくなってしまった。「リボルバー」のくれる日常感とか、戻れない日々のお話という感じで。何もかもが後日談になったその先、みたいな『健全な社会』の世界の前日譚のよう。

再び牛丸がアコギを奏でる「メリークリスマスイブ」、演奏前に4人が向き合って呼吸を合わせていたのが印象的。粛々と進むライブだがどこか穏やかな空気が漂っている。そのムードを引き継いだ温かな曲調が季節を呼び込む。どこか気の抜けた「どうでもよくなる」のけだるげなサウンドを投下した後、「みたいなこと」のネオアコ的な大きなイントロへ繋がったのはハイライトだった。歌詞中の<どうでもいいよ>とはこのアルバムを貫く空気感の種類でもあるが、<どうだってなるよ そのままでいてよ>と続けるこの曲は優しく日々を抱きしめてくれるように思う。こっちも生きてる、そっちはどう?、そういう交感を果たせるのが今のyonigeだ。<強いて言うならば宇宙の果てがずっと続くことだよ>というラインがくれる自由と肯定感たるや。

ライブ本編、最後を締めくくるのはアルバム同様の「ピオニー」。良い予感を全部閉ざしていくような、緩やかな死ともいうような歌詞はなぜだか安らかなメロディで綴られていく。このテンションがどういうわけか心地よい。希望よりも絶望寄り、なんかつまんねぇって気分。日々に通奏する空気感が見事に音楽になった1曲を心に落とした。しばし呆然としつつ、徐々に手拍子がアンコールを呼び込む。まずは牛丸が1人でアコギを抱える。ずんとした空気を綻ばせる「佐賀の店のなさにびっくりした」(本当にそうなのです)という一言から「春一番」をゆったりとプレイ。そしてラストは壮大なロックバラッド「春の嵐」。この2曲をアンコールに添えてくれたおかげで少し前を向けた。いつもよりすっとリアルな世界へと戻れるライブ。これもまたイイな。

<setlist>
1.11月24日
2.健全な朝
3.ここじゃない場所
4バッドエンド週末
5.2月の水槽
6.往生際
7.顔で虫が死ぬ
8.悲しみはいつもの中
9.サイケデリックイエスタデイ
10.あかるいみらい
11.リボルバー
12.メリークリスマスイブ
13どうでもよくなる
14.みたいなこと
15.ピオニー
-encore-
16.春一番
17.春の嵐



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