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シャベルP
2019年3月12日 22:19
「”サラクの寵愛”という名はどうだ?良い名だろう?大国のお墨付きだぞ」 エルサールが、白髭を撫でつつ言う。その目は獲物を狙う虎のそれだ。獲物は世界経済。「うちの豆を使っておいて何を言うか!むしろ、”ツェツェの宝玉”でどうだ?」 普段仲の良いエルサールとハーベンだったが、国益となると黙っていられないようだった。「あまり一国のイメージが強くなると、他の国での展開速度が鈍りませんか?」
2019年3月11日 23:55
「ふ……ぁ、ぅ……」 モカナは震えていた。目は虚ろで忙しなく動き、ジョージはモカナが何も見ていないのが分かった。「ふっう、うぁ、うわ、ウゥゥゥゥゥ、ふぅぁぁぁぁん」 ボロボロと泣き出したモカナを見たドグマが、その人生においてしたことのない、何とも愉快そうな笑みを浮かべて笑いだした。「ふっ、ハハハハハハ!!ハッ、ハハッ!」 泣くモカナを見て余計に笑っているようで、ジョージは一瞬殴
2019年3月10日 23:02
(こいつ、ただの甘党じゃねえ。真性の馬鹿だ。いつもはどうか知らないが、こと甘味に関しては俺やモカナにとっての珈琲並みの馬鹿だ)「……あんた、いつもそんな調子で彼女とも話してるのか?」「何かおかしいか?リリーの菓子なら、俺は万の言葉を尽くしても語足らんぞ?」 と、真面目な顔でドグマは言った。(あー。こいつ、真性だやっぱり。こりゃ、リリーも腕が上がるはずだぜ。こんな、本心からの、全力の
2019年3月10日 00:25
「これは、不思議な飲み物だな。深い味だ。落ち着く。俺は、苦いものが苦手なのだがな」「らしいな。彼女に聞いたぜ?あんた、甘党なんだってな?」「なっ!?リリーが言ったのか?」「ジョージさん、リリーさん内緒にしてって言ってましたよ?」「あ、そうだっけ?まぁ、寝てるあんたの側で、そう、そこの椅子に座ってさ、穏やかに笑いながら、のろけられたぜ?あんたが、男で、しかも国の乗っ取りなんて大層な事
2019年3月8日 22:39
初めて見る衰弱した王を前に、心配そうな顔を繕いながら、ドグマは感じていた。 これは天啓であると。 リリーをエルサールの世話役に推薦すると、バドルは喜んで採用した。バドルとしても、身内から信頼できる世話人が欲しかったのだ。 まさか、それが刺客だったとは、当のリリーですらが知らなかった。ドグマが毎日のように直接渡しに来る薬の事を微塵も疑わず、王が余程心配なのだろう、自分が早く治してあげな
2019年3月7日 22:39
最初に貧民街を訪れたのは、父親の仕事に着いて回っていた時だった。 貧民街では、自分の食い扶持すらまともに稼げぬ者も多くいた。その殆どは、戦災によって体が不自由になった者達で、当時はサラク王家の温情によって配給を受けていた。 始めて訪れた貧民街は、不衛生で常に物の腐ったような香りと、垢臭い匂いに満ちていた。ドグマが父親の仕事について回っていたのは、他に居場所が無かったせいだったが、ドグマは
2019年3月6日 21:05
「体に力入らないだろ?俺はいらないって言ったんだがな、リフレールも心配性でな。悪く思わないでくれよ」「……殺された所で文句も言えぬ立場だということは理解している。俺は、負けたのだからな」「物分りが良いってのは有り難い。……ん~~、もう少しかかるか」 男が少女の方を振り向いて、何やら手元を見ている。「はい」「そうか。じゃあ、とりあえずは自己紹介といこう。俺はジョージ=アレクセント
2019年3月5日 22:33
――――――――――――――――――――第19章 運命の出会い・甘×苦―――――――――――――――――――― 歓声が聞こえる。ああ、きっと王が凱旋したのだ。胸がわくわくしてくる。 少年ドグマは屋敷を抜け出し、城壁の門へと走った。 8人の屈強な男達が担いだ乗り物の上で、エルサール王が皆に手を振っている。 眩しい。なんと眩しい光景だろう。 力があり、包容力のあ
2019年3月4日 22:48
バドルを盾にしながら、ドグマはリフレール達の会話の隙を狙ってドアを開き、素早く王座の間に入り込んだ。「会談の時間にはいささか早いようだが。早くも痴呆の気か?リフレール」 ドグマの第一声は、そんな挑発から始まった。言いながら、バドルを促し黄金の玉座に座らせた。当のバドルは静かなもので、促されるまま玉座へと座った。「あら、ドグマこそ警備の兵を手配し忘れたのではありませんか?基本中の基本で
2019年3月3日 23:20
翌日、サラクシュー王宮。 ドグマは、残った1000名の貧民部隊を街に紛れさせ、外壁の門から王宮までのルートに幾多の罠を仕掛けて待ち構えていた。 徹夜で罠を準備していたドグマは、憔悴し、眠気に支配されていた。会談予定の王座の間の隣にある準備室で、こっくりこっくりと頭を揺らしていた。「……はっ、くっ、眠りかけていたか。……無理も無い……な」 その時、準備室の扉を叩く音がした。ドグマは
2019年3月2日 23:31
そして、前日。「……やべえな。納得できねぇ」 ぐったりと椅子にもたれかかるようにして、ジョージは呟いた。その横では、モカナが椅子の足に背中を預けて眠そうに頭をこっくりこっくりとしていた。「やれる限りはやった……やったが、どうにも納得いかねえ……。マルクから持ってきた豆も、今回の用件には弱すぎる。くそっ、マルク製は酸味と苦味はあるが香りは微妙だし、ツェツェ製は香りだけで味が薄いときてる
2019年3月2日 00:06
「ジョ、ジョージさん、それ、本気ですか?」 ジョージの話を聞いたモカナの第一声がそれだった。気のせいか、顔が青ざめている。「ああ、って俺がそういう冗談言うと思うか?」 大してジョージはさも当然といったように首を傾げる。「思いません」「なぁに、前にやった事があるんだからできるだろ」「……うぅ~~。でも、ボク、ちょっと自信無いです。その、あの時は、ボクの故郷から持ってきたあの豆
2019年2月28日 22:39
モカナの改心の出来。新しい珈琲の一滴が口の中に入った時、ジョージは驚いて目を見張ってしまった。 口の中から、頭の先まで一瞬にして珈琲で満たされたかのように錯覚する程の香味。今まさに舌の上で蒸発する湯気に含まれた珈琲がどんどん広がっていく様が手に取るように分かった。 頭の中が急速に透過されるような、朝の目覚めの感覚にジョージは感覚が覚醒するのを感じた。「うおぁっ!?なんだこの香り。うほ
2019年2月27日 22:42
数日後、その朝ジョージは妙に早く起きてしまっていた。 テントからぼんやりした頭で出ると、ぐったりした2000人の貧民部隊が寝息を立てていた。(本命が敗れたドグマってやつは、どう出てくるかな?うーむ、まだ眠くて頭が働かねえなあ。あー、こんな時はやっぱり珈琲だよなあ) そんなことを考えていたから、ジョージはとうとう自分が珈琲恋しさのあまり幻覚を見るようになったのかと思った。 嗅ぎ慣れ