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珈琲の大霊師

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シャベルの1次創作、珈琲の大霊師のまとめマガジン。 なろうにも投稿してますが、こちらでもまとめています。
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#ファンタジー

珈琲の大霊師135

珈琲の大霊師135

 テントに到着すると、いつもの朝の常連達が何やら熱心に話し合っているのが見えた。

「よう、おはようさん。何話してるんだ?」

「あ、ジョージさん!見て見て!この人凄いんだよ!」

 例の娼婦が目を輝かせながらジョージを呼んでいた。それなのに、いつものように駆け寄っては来ない。つまり、心理的にそれだけ関心の高いものがそこにはあるのだ。

 ジョージの胸が高鳴る。

(来たか!?)

「モカナ、準備

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珈琲の大霊師134

珈琲の大霊師134

 その男は、毎日テントを訪れていた。珈琲が限定になってからは、テントにジョージ達が来る前、早朝に訪れるようになった。

 男は低血圧で朝に弱かったが、不思議とそれが続いたのは、他にも同じような連中がいたからだった。

「来ましたね。今日も早いですね」

 男がテントまで来ると、そこには焚き火に当たって談笑する男が3人、女が2人。

「おはよう……ございます」

 男は、人と話すのが苦手だった。

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珈琲の大霊師133

珈琲の大霊師133

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第20章

     珈琲のある風景

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 サライ湖の畔に、唐突に露店ができたのは、それから三日後の事だった。

 日差しを遮るテントだけ張られたその下から、魅惑的な香りが近くの市場に流れてくる。

「ん?なんだ、これ。良い匂いだな」

 嗅ぎ慣れない素敵な香りに、何人もの通行人が引き寄せられていった。

 そこ

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珈琲の大霊師132

珈琲の大霊師132

「”サラクの寵愛”という名はどうだ?良い名だろう?大国のお墨付きだぞ」

 エルサールが、白髭を撫でつつ言う。その目は獲物を狙う虎のそれだ。獲物は世界経済。

「うちの豆を使っておいて何を言うか!むしろ、”ツェツェの宝玉”でどうだ?」

 普段仲の良いエルサールとハーベンだったが、国益となると黙っていられないようだった。

「あまり一国のイメージが強くなると、他の国での展開速度が鈍りませんか?」

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珈琲の大霊師131

珈琲の大霊師131

「ふ……ぁ、ぅ……」

 モカナは震えていた。目は虚ろで忙しなく動き、ジョージはモカナが何も見ていないのが分かった。

「ふっう、うぁ、うわ、ウゥゥゥゥゥ、ふぅぁぁぁぁん」

 ボロボロと泣き出したモカナを見たドグマが、その人生においてしたことのない、何とも愉快そうな笑みを浮かべて笑いだした。

「ふっ、ハハハハハハ!!ハッ、ハハッ!」

 泣くモカナを見て余計に笑っているようで、ジョージは一瞬殴

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珈琲の大霊師130

珈琲の大霊師130

(こいつ、ただの甘党じゃねえ。真性の馬鹿だ。いつもはどうか知らないが、こと甘味に関しては俺やモカナにとっての珈琲並みの馬鹿だ)

「……あんた、いつもそんな調子で彼女とも話してるのか?」

「何かおかしいか?リリーの菓子なら、俺は万の言葉を尽くしても語足らんぞ?」

 と、真面目な顔でドグマは言った。

(あー。こいつ、真性だやっぱり。こりゃ、リリーも腕が上がるはずだぜ。こんな、本心からの、全力の

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珈琲の大霊師129

珈琲の大霊師129

「これは、不思議な飲み物だな。深い味だ。落ち着く。俺は、苦いものが苦手なのだがな」

「らしいな。彼女に聞いたぜ?あんた、甘党なんだってな?」

「なっ!?リリーが言ったのか?」

「ジョージさん、リリーさん内緒にしてって言ってましたよ?」

「あ、そうだっけ?まぁ、寝てるあんたの側で、そう、そこの椅子に座ってさ、穏やかに笑いながら、のろけられたぜ?あんたが、男で、しかも国の乗っ取りなんて大層な事

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珈琲の大霊師128

珈琲の大霊師128

 初めて見る衰弱した王を前に、心配そうな顔を繕いながら、ドグマは感じていた。

 これは天啓であると。

 リリーをエルサールの世話役に推薦すると、バドルは喜んで採用した。バドルとしても、身内から信頼できる世話人が欲しかったのだ。

 まさか、それが刺客だったとは、当のリリーですらが知らなかった。ドグマが毎日のように直接渡しに来る薬の事を微塵も疑わず、王が余程心配なのだろう、自分が早く治してあげな

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珈琲の大霊師127

珈琲の大霊師127

 最初に貧民街を訪れたのは、父親の仕事に着いて回っていた時だった。

 貧民街では、自分の食い扶持すらまともに稼げぬ者も多くいた。その殆どは、戦災によって体が不自由になった者達で、当時はサラク王家の温情によって配給を受けていた。

 始めて訪れた貧民街は、不衛生で常に物の腐ったような香りと、垢臭い匂いに満ちていた。ドグマが父親の仕事について回っていたのは、他に居場所が無かったせいだったが、ドグマは

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珈琲の大霊師126

珈琲の大霊師126

「体に力入らないだろ?俺はいらないって言ったんだがな、リフレールも心配性でな。悪く思わないでくれよ」

「……殺された所で文句も言えぬ立場だということは理解している。俺は、負けたのだからな」

「物分りが良いってのは有り難い。……ん~~、もう少しかかるか」

 男が少女の方を振り向いて、何やら手元を見ている。

「はい」

「そうか。じゃあ、とりあえずは自己紹介といこう。俺はジョージ=アレクセント

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珈琲の大霊師125

珈琲の大霊師125

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第19章

     運命の出会い・甘×苦

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 歓声が聞こえる。ああ、きっと王が凱旋したのだ。胸がわくわくしてくる。

 少年ドグマは屋敷を抜け出し、城壁の門へと走った。

 8人の屈強な男達が担いだ乗り物の上で、エルサール王が皆に手を振っている。

 眩しい。なんと眩しい光景だろう。

 力があり、包容力のあ

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珈琲の大霊師124

珈琲の大霊師124

 バドルを盾にしながら、ドグマはリフレール達の会話の隙を狙ってドアを開き、素早く王座の間に入り込んだ。

「会談の時間にはいささか早いようだが。早くも痴呆の気か?リフレール」

 ドグマの第一声は、そんな挑発から始まった。言いながら、バドルを促し黄金の玉座に座らせた。当のバドルは静かなもので、促されるまま玉座へと座った。

「あら、ドグマこそ警備の兵を手配し忘れたのではありませんか?基本中の基本で

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珈琲の大霊師123

珈琲の大霊師123

 翌日、サラクシュー王宮。

 ドグマは、残った1000名の貧民部隊を街に紛れさせ、外壁の門から王宮までのルートに幾多の罠を仕掛けて待ち構えていた。

 徹夜で罠を準備していたドグマは、憔悴し、眠気に支配されていた。会談予定の王座の間の隣にある準備室で、こっくりこっくりと頭を揺らしていた。

「……はっ、くっ、眠りかけていたか。……無理も無い……な」

 その時、準備室の扉を叩く音がした。ドグマは

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珈琲の大霊師122

珈琲の大霊師122

 そして、前日。

「……やべえな。納得できねぇ」

 ぐったりと椅子にもたれかかるようにして、ジョージは呟いた。その横では、モカナが椅子の足に背中を預けて眠そうに頭をこっくりこっくりとしていた。

「やれる限りはやった……やったが、どうにも納得いかねえ……。マルクから持ってきた豆も、今回の用件には弱すぎる。くそっ、マルク製は酸味と苦味はあるが香りは微妙だし、ツェツェ製は香りだけで味が薄いときてる

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