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シャベルP
2019年6月30日 01:04
――――――――――――――――――――第30章 アントニウス・カルラン――――――――――――――――――――「申請書が通り、初歩問答と、調査が完了するまで2週間程かかるそうですので、アントニウス氏の元に行って帰って来るだけの時間は十分にあるかと思います」 と、説明を受けたバリスタが、ガクシュの拠点に戻って来たのはその日の夕方だった。小さな厨房では、ドロシーがくるんくる
2019年6月29日 00:39
エルフェン共和国、首都ガクシュ。世界のありとあらゆる研究の最先端を自負する知の宝庫だ。 大陸最大の図書館に、政府機能が付加されており、各国の精鋭達が自国の技術を守るために、警備に当たっていた。「ふわ~。凄い大きさですね。マルクの水宮より大きいかもしれません」 その巨大さを前に、見上げても端の見えないモカナが声を上げた。「この図書館、通称バビロンは200年かけて技術の最先端であるエ
2019年6月27日 23:53
「始めまして。今日からご同乗させて頂きます、バリスタ=イタリーです。短い間ですが、宜しくお願い致します。田舎者ゆえ、失礼などござりましたら、ご指摘頂きますようお願い致します」 挨拶は何事も重要だ。私は今、珈琲の大霊師様の一行に一時的とは言え加えて頂くという栄誉を賜っている。失礼があってはならない。 なんでも、ご一行は首都のガクシュを通り、民俗学の専学士アントニオ=カルラン氏を尋ねる予定とか
2019年6月27日 00:35
世界で2番目に美味い珈琲を入れる事に並々ならぬ自信を持っていたジョージだったが、たった1日でほぼ完璧に珈琲を分析してしまったバリスタに取って替わられるのではないかと、内心気が気でなかったわけだが、それが杞憂である事を、その晩に知ることとなった。 バリスタの論文をシオリにチェックさせた結果、文面に若干の誤字脱字があったものの、内容に問題は無いという結果となった。ジョージは、バリスタに学術面での
2019年6月26日 00:41
「まぁ、なんだ。こんな事を話しても分かるとは思ってないんだがな」 ジョージさんは話し始めた。「はい」 私はその通りだと思うから、頷く。私は、何も知らないから、殆どの事は分からないからだ。「俺は、珈琲についてだけは、モカナに次いで世界2位の自信があったんだ。だが、今日、俺以上に珈琲を理解する奴を目の当たりにしちまった。それで、苛ついてるってわけだ」 ジョージさんの言葉は端的だと思
2019年6月25日 23:03
「………やっぱり、只者じゃなかったなぁ。あいつ……」 ぺらり、と紙を一枚めくりながらジョージさんが呟いたのを私は聞き逃さなかった。 村人への珈琲指南が終わるのを見計らって、私は兄さんの原稿を持って、宿屋に押しかけた。面倒そうな顔をされるかと思いきや、ジョージさんは真剣な顔でそれを受け取って、私を部屋まで案内してくれた。「はい、どうぞ」 私とジョージさんに、香ばしい珈琲が横から差し出
2019年6月24日 00:23
「ジョージ、今日の連中が来たさ」 ルビーの声が聞こえて、目が覚める。旅の中でルビーが起こすときは、大抵野党か面倒な野獣が現れたとか、トラブルが大半だ。だから、俺の頭はルビーの声だとすぐ覚醒する癖がついたらしく、起こすときはルビーに頼むことにしていた。「おう、そんな時間か……。モカナは?」「先に起きて珈琲用意してるさ」「寝ても覚めてもだな」 そんな会話をしながら身を起こす。最初の
2019年6月22日 23:44
モカナとしては至極いつも通りの珈琲が淹れられたと言えた。よくあんなガン見されていつも通りにできるなと感心はするが、いつものモカナだ。 問題は、さぁ飲んでみろと珈琲を差し出されたこの優男が、一口飲んだ後意識がどっかにすっ飛んでいって帰ってこない事だった。「おい、目開けたまま動かないぞ。大丈夫なのか?」「珈琲を飲んだら死んじゃう病気なんてあるんですかジョージさん!?」「いや、無いと思
2019年6月22日 00:10
確かに俺は目を閉じるなと、この優男に言った。が、人間である以上そんな事は不可能だ。と、思っていた。 おいおい大丈夫かこいつ、目潰れるぞ。 優男は、モカナの手元から一瞬たりとも目を離そうとしなかった。その一挙手一投足を正確に刻み込もうとするかのように、自然と姿勢や手元はモカナのマネをし、その間呼吸も忘れたように見入っている。 もちろん、モカナはそんな事はまるで気にする事もなく淡々と珈琲
2019年6月18日 23:15
――――――――――――――――――――第29章 珈琲の専学士―――――――――――――――――――― キビトの村を出て二日が経ったさ。あたいらは、今サトラの川とかいう大きな川に沿った道をのんびりと進んでるさ。 こういう移動だけの旅は結構退屈になるから、あたいはいつも馬車の外を歩いたり、ジョージの隣で話したりしてる事が多いけど、カルディが来てからは荷台に居ることも多く
2019年6月18日 01:11
「よし、ちゃんと掴まったか?持ち上げるぞ?」 頼りになる声がかけられた。「はい」 私は頷いて答えた。次の瞬間に、ふわりと私の体が浮かび上がった。とても心細い気持ちになるけれど、この人、ジョージさんは失敗しないと分かる。力の掛け方にブレが全く無いからだ。「はい、今度はこっちを掴んでくださいね」「いくさー」 元気な声が二つ、私の手を引っ張って、支えてくれる。私自身は何もしないま
2019年6月16日 23:00
「ふぅぃ、凄い量の泥だったさ……」「やりがいがあったねぇ」 腕を捲ったシーラとルビーが、シーラのお古に着替えたカルディを伴って戻ってきた。「ありが、とう。さっぱり、しました」 泥を落としたカルディは、少し痩せすぎているが真っ白な肌の整った顔の女だった。泥にまみれて縮れていた黒髪はまっすぐ伸び、まだ水分を含んで艶やかに光を湛えていた。「おお、終わったか。よし、じゃあ聞いてくれ。こ
2019年6月16日 00:27
「カルディ…………」「え?」「名前。カルディってのはどうだ?」 気がつけば森の中。俺の中で、1つのアイディアが生まれていた。「カルディ………カルディ……。私の、名前」「ああ、そうだ。あんたの名前は、今からカルディだ」 ジョージさんが告げた名前を胸に、泥の女の人は少し嬉しそうに笑いました。 カルディ、カルディ。なんだか、ボクは聞いたことがあるような気がします。「さて、
2019年6月15日 00:01
俺が決めてどうするんだよ。そんな事したら、俺に対する依存度が上がるだろうが。お前ならともかく、俺に依存させてどうするんだよ。確実に手に余るだろ。 ルビーにモカナは……、ちらっと見るが、明らかに俺任せ。モカナは俺がどうにかすると疑ってもいないし、ルビーは話の筋すら理解するのをやめて、ただジロジロ泥女を眺めてるだけだ。 あー、こういう時にリフレールがいると楽なんだがなぁ。せめて、シオリを連れ