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珈琲の大霊師228

「カルディ…………」

「え?」

「名前。カルディってのはどうだ?」

 気がつけば森の中。俺の中で、1つのアイディアが生まれていた。

「カルディ………カルディ……。私の、名前」

「ああ、そうだ。あんたの名前は、今からカルディだ」

 ジョージさんが告げた名前を胸に、泥の女の人は少し嬉しそうに笑いました。

 カルディ、カルディ。なんだか、ボクは聞いたことがあるような気がします。

「さて、聞きたい事が色々あったはずなんだが覚えてねえんじゃしょうがねえな。ここに居る意味も無いし、とりあえず家に戻るか」

 ジョージさんが、さっと来た道を戻ります。ジョージさんがそう言うなら、きっと大丈夫。ボクもすぐ後に付いて歩き出します。

「えっ!?あ……えっと、そ、そうだね?」

 キビトさんが慌てて誤魔化しましたけど、どうかしたのかな?

「……まって。わた、しは?私は?」

「何言ってんだ。一緒に行くに決まってんだろ。ああ、そうか。目が開かないのか。ちょっと触るぞ」

「え?」
 
 ジョージさんが素早くカルディさんの瞼を持ち上げたみたいでした。

「痛いっ」

「あぁ、こういう事か……。まあ、無理もねえ。悪かったな。モカナ、手を引いてやってくれ」

 ジョージさんに頼まれました。嬉しいです。

「はいっ。カルディさん、しっかり掴まって下さいね」

 握ったカルディさんの指は、ひんやりとしてて骨ばっている感じがしました。きっと、長い間土の中にいたからかな。

「ぅ、こ……う?」

 こわごわ握ってくるカルディさんに、強く握り返します。こうすると安心できるって、ボクは知っているから。

「はい。足元、木の根でゴツゴツしてますから、ゆっくり行きましょう」

「うん」

 ボクとカルディさんが歩き出すと、ぼーっとしていたルビーさんも歩き始めました。

「倒れそうになったら、あたいが支えてやるさ」

 と言って、ボクにニッて笑いかけてくれました。やっぱりルビーさんは頼りになります。

「え、え、・・・あ~~~~。ははっ、うん。そうだね、行こうか」

 キビトさんは一番最後まで戸惑っているみたいでしたけど、笑って少し楽しそうに付いて来ました。

 大丈夫ですよ。

 ボクには見えますから。ジョージさんが、強い、強い気持ちで前を進んでいるのが。

 だからボクは、いつだって安心して着いていけるんです。ジョージさんが揺れるなら、ボクと珈琲が、ジョージさんの役に立つその時なんです。

 ジョージさんの側にはボクの居場所がある。ここに居ていい、居て欲しいと思われている。

 何てボクは幸せなんだろうか?ボクは、ジョージさんに幸せを返せているんだろうか?

 少しずつでも、返せているといいな。


「へ?ジョージさん、今なんて?」

 シーラさんとのんびりとお茶をしていた私に、何か非常識な事をジョージさんが言ってきた。

 聞き間違えだと思って聞き返す。

「だから、元泥の王の女を連れてきたが、記憶が無いから普通に初対面として接してやってくれ」

 聞き間違えじゃなかったー!?ちょ、ちょっと待って!?伝説級の化け物が、今この家の外にいるの!?あ、でもジョージさんが無策のはずないもんね。きっと、何か手を打ってあるに違いない。

「……あ、安全なんですよね?」

「さあな。とりあえず、カルディって名前はつけた」

 名付け……ああ、そうか。記憶が無いって事は名前も無いものね。

 でも大丈夫かなぁ?なんだか、昔そんな感じで悪魔に名前をつけた男が取り殺されたって話があったような気がするけど。

「ちょ、ちょっと覗いてからでいいですか?」

 やっぱり、自分の目で見ないのは不安!!

「ああ」

 あっさりとドアの前からジョージさんが離れた。う、そうだよね。自分の手で開けなきゃね。

「はぁー……ただいま帰ったさー!」

「ぅぶっ!?」

 いたっ!!!!いったああああああああああああ!!!

 ドアが!!角が!!鼻、唇に!!痛い!!なんでそっちから開けるの!?

「あ、あれ?なんでシオリそんな所にいたさ?」

「……それより、他に言う事、あるんじゃ、ないかなぁ?」

 痛みで頭がカッとしてて、多分今普段はしないような顔してると思う。角に当たった部分も含めて。

「悪かった」

 うわ、気持ち篭もってないわー。……でも、今はそれより他にしなきゃいけないこともあるんだった。

 今、私の目の前に、見たことの無い色白の女の人が立ってる。服がなんか、べちゃべちゃで、所々乾いてる泥だし、きっとこれが、元泥の王……。

 まかり間違って泥の王に戻ったら、私死ぬ。

「え、えっと、こんにちは?」

 なるべく、笑顔で。さっき打ったところ凄く痛いけど笑顔で!!

「こん、にちは」

 その声は少し枯れた印象だった。

「おい、モカナ。あいつの目、どうなってる?」

「ふぇ?……見えないって意味ですか?」

 シーラの家に着いて、すぐにルビーとシーラさんには湯を沸かしてカルディの体を洗ってやるように支持。シオリは、過去の文献を当たってみるとか言って逃げた。

「やっぱり見えないのか。泥で塞がってるだけじゃないんだな?」

「えっと、多分。ボク達は、必ず目に水の気配がありますけど、カルディさんの目にはそれが無いです」

「まあ、そうか」

 そりゃ何百年も土の中にいたんだ。その程度で済んでる事がむしろおかしい。

「目が、どうかしたの?」

 と、カルディの様子を見に行っていたキビトが戻って来た。そうだ、こいつにも聞きたい事があった。

「いや、目が泥で潰れちまってるのは、なんとかできねえかなとな」

「ああ……。僕にはできないけど、もしかしたら土の大精霊とか水の大精霊なら、どうにかできるかもしれないね」

「土の大精霊ってのは、どの辺りにいるんだ?」

「うーん、土は見かけることが珍しいんだよ。いつも大地の下の溶岩の流れを調節してるから、折角建てた大精堂にもいない事が多いって話だったよ。400年前の話だけど」

「水の大精霊様だったら、ボク会った事あります」

 とモカナ。いや、知ってるけどな。

 うーむ、となると、一度マルクに戻る必要があるか?

 だが、アントニウス=カルランとかいう民俗学の大家の住んでる所はここからそう遠くない。そっちを回ってみてからでもいいか?

 どうするかな。

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