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珈琲の大霊師230

「よし、ちゃんと掴まったか?持ち上げるぞ?」

 頼りになる声がかけられた。

「はい」

 私は頷いて答えた。次の瞬間に、ふわりと私の体が浮かび上がった。とても心細い気持ちになるけれど、この人、ジョージさんは失敗しないと分かる。力の掛け方にブレが全く無いからだ。

「はい、今度はこっちを掴んでくださいね」

「いくさー」

 元気な声が二つ、私の手を引っ張って、支えてくれる。私自身は何もしないまま、多分、馬車の、荷台に載ることができた。

 二人が座らせてくれた場所には、何かふかふかするものが敷いてあって、お尻は痛くない。

 二人の名前は、モカナちゃんと、ルビーちゃんだ。

 私がこっちの世界に戻って来てから何日か、シーラさんという人の家で過ごした。誰も私の事を知らないみたいで、私は自分が誰なのか今も分かっていない。

 でも、必要なことは教えてくれるし、手助けしてくれるから、私は少し頑張れば一人で家の中を歩くこともできるようになった。

 皆、私に親切……だと思う。昔の事は何も覚えていないけれど、こんな風に手取り足取り助けて貰ったような気がしないから。

 長い間、光の向こうにしか見られなかった景色が、見えない私の目の向こうに広がっている。

 私の目は、今は塞がっているけど治る見込みがあるってジョージさんが教えてくれた。確実ではないから、そういう事に詳しい人の所にこれから向かうらしい。

 私がついて行きたいという前に、ジョージさんは連れて行くって言ってくれた。

 私は、もう一人になりたくない。どんなに多くの光に囲まれていても、私に言葉を返してくれない光はもう寂しすぎる。

「大丈夫?お尻痛くない?」

 この光と声は、シオリさんだ。

「大丈夫、です。ふかふか、してます」

「そっか。2枚敷いて良かったね。困ったことがあったら何でも言ってね」

 シオリさんも、とても親切な人。それに、なんだか私と話すときに嬉しそう。

 だから、私も嬉しいんだ。

「よし、出発するぞ。キビト、世話になったな」

「ううん。君達のおかげで、僕は次の仕事を始められるよ。ありがとう。また来てね。その時には、村人皆で迎えられるように頑張るよ」

「ははっ。そりゃあ楽しみだ!シーラさんも、またな!」

「気をつけてね」

 馬のいななきが荷台に響いて、がたんごとんと動き始めた。私は体制を崩してしまって、ルビーちゃんに支えられた。

「ありがとう」

「いいってことさ」

 ああ、胸が躍る。

 まだ見ない場所に、この優しい人たちと一緒に行くんだ!!

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