珈琲の大霊師231
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第29章
珈琲の専学士
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キビトの村を出て二日が経ったさ。あたいらは、今サトラの川とかいう大きな川に沿った道をのんびりと進んでるさ。
こういう移動だけの旅は結構退屈になるから、あたいはいつも馬車の外を歩いたり、ジョージの隣で話したりしてる事が多いけど、カルディが来てからは荷台に居ることも多くなったさ。
「あらっ、この香り、始めて嗅ぐ香り。シオリさん、これは何かしら?」
「えっ?えーと、えーとね……う、うう、ルビーちゃん知らない?」
こんな風に、カルディは何でも珍しがる。目が見えない分、音とか匂いには人一倍敏感さ。
「この匂いなら、あたいも知ってるさ。モフの樹の花の香りだと思うさ」
「へぇ~。これがモフの樹の香りなのかぁ。あ、えっとモフの樹っていうのはね、種がモフモフの綿帽子がなる樹なのよ。残念ながら、全部細かい種子だから綿の代わりにはならないんだけど、昔の人はこれをなんとか使えるようになりたくて沢山研究したらしいわ」
シオリは知識だけは沢山あるけど、感覚が鈍いのと経験が少ないから、こういうことも良くあるさ。
「そうなの。甘い香り。シオリさんは本当に物知りですね」
「ん、んふふ。そうでもないのよ。これから行くアントニウス=カルラン様は私なんか比べ物にならないくらい物知りなんだから」
ああ、またシオリのアントニウス様病が始まったさ。1日1回はやらなきゃ気がすまないみたいさね。
「あ、ルビーちゃん嫌そうな顔してる!!いい?アントニウス様の所に行った時に、そんな顔してちゃ絶対ダメだからね!?」
「はいはい。分かってるさ」
アントニウス様病のシオリはいつもの何百倍も我が強くなるから、こっちが折れてやるしかないさ。
最近、シオリが妙に嬉しそうなのはアントニオとかいうおっさんにもうすぐ会えるから。あと、多分カルディが何でも頼るから、今まで一番頼りない扱いされてたシオリは、単純に頼りにされて嬉しいんさ。
かく言うあたいも、色んな事に興味津々なカルディを見てると飽きないから、こうして荷台で大人しくしてるのさね。
しかし、このカルディ。多分、モカナも薄々気づいてると思うけど、精霊の姿が全然無いさ。それなのに、気配はするってのが不気味さね。
何か切欠があれば、またあののっぺらぼうずになっちまうんじゃないかって、少しだけ気になるさ。
「あ、そういえばモフの花ってこの時期は美味しい蜜が集まってるんじゃなかったかな。ルビーちゃん、お願いしてもいい?」
花取ってこいと。シオリは、最近遠慮なくあたいに頼みごとをするようになったさ。
まあ、別に悪い気はしないさね。あたいは、体動かしてる方が好きだしさ。それに、あのビクビクしてたシオリよりはこっちの方が良い。
「はいよ。ま、シオリじゃもし取って来れたとしても馬車に置いてかれるのがオチだしさ。あたいが一っ走り行ってきてやるさ」
言いながら、全身をバネにして荷台から飛び降りる。全身に力が漲ってるのが分かる。やっぱり運動不足さね。
あー、意外と近い所にモフの樹があるさ。運動不足解消にはならなそうさね。
そうだ。折角だから、あいつらが驚くくらいの量を採って戻ってやるさ。
ひひっ、モフの樹覚悟するさぁ!丸坊主になってもらうさね。
何回か往復して無理やり荷台に詰め込んだモフの花は、その後当分甘い香りを残してったさね。
ほどほどにしときゃよかったさ……。
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