珈琲の大霊師239
世界で2番目に美味い珈琲を入れる事に並々ならぬ自信を持っていたジョージだったが、たった1日でほぼ完璧に珈琲を分析してしまったバリスタに取って替わられるのではないかと、内心気が気でなかったわけだが、それが杞憂である事を、その晩に知ることとなった。
バリスタの論文をシオリにチェックさせた結果、文面に若干の誤字脱字があったものの、内容に問題は無いという結果となった。ジョージは、バリスタに学術面での珈琲を任せる事を決め、珈琲仲間に新しいメンバーが入った事を祝う為に、村人にそれを告知した上で、バリスタの専学士就任の前祝を開催する事にしたのだった。
村の小さな歓楽街とも言える中央広場には、モカナ達の馬車が入っていた。
中央の噴水の周りには、ジョージが声をかけた街の居酒屋、料理屋の連中が簡単な屋台を開き、村中から集まった人々で賑わっていた。
「今日は集まってくれて有難う。もう聞いているかもしれないが、俺達、珈琲伝道会はこのバリスタの論文を公式の資料として認め、珈琲についての専学士としてこの国に推薦する事を決めた。すなわち、それは俺達に仲間入りするという事でもある。今日は、その前祝だ。色々思う所はあると思うが、祝福して欲しい。今日の飲み代は、俺が持つ。遠慮せずに飲んで食って、このバリスタを送り出して欲しい。以上、乾杯!!」
「「「乾杯!!!」」」
ジョージの短い挨拶の後に、その場の全員に配られたエールがかち合わされた器から飛び出して地面に染みた。
「ちくしょう、バリスタこのやろう!!俺だって、狙ってたんだぜ!?てめぇだけ抜け駆けしやがってよぉ!だが、あの論文は俺には書けねえわ。おめでとう!!やったなこのやろう!!」
「あんたは昔から変わってて、本当に大成できるのか心配だったけどねぇ。こんな幸運は二度とないよ。しっかりやんな」
口々に祝いの挨拶を貰うバリスタ。普段無い待遇に酒は進み、意識にもやがかかってきた。
「ここは、やっぱり珈琲で礼を返さないとな」
とのジョージの薦めによって、珈琲に取り掛かったバリスタだったが、どうにも手元が怪しい。その横では、バリスタの妹がはらはらとその手元を見つめていた。村人達も、何故かにやにやと嫌らしい笑みを浮かべていた。
「??酒が回ってて上手く動かないのか?」
「……あの、えっと、その、兄さんって……、ちょっと器用じゃないというか……」
「?んん?」
ジョージがバリスタの横に立つ。バリスタはああでもないこうでもないと、頭を捻っていた。酔っ払っているとか、そういう問題では無さそうだ。
見ると、手振りが非常に大雑把だった。
「おいおい?そこはもっと繊細に、こう、手首だけで……」
「ええ、分かってはいるのですが、想像通りに手が動かないのです」
「………なに?ちょっと触るぞ」
ジョージが、バリスタの手首を掴み、間接的に金網を振ってみせると、バリスタは目を見張った。
「おお!!素晴らしい……そう、この返しをしたいのです。頭では分かっているんです」
「こうだこう。できるか?」
「………」
集中し、無言でその動作を繰り返そうとするバリスタだったが、どうにも手元が想像通りに動かない。間接の柔らかさ、筋力、そういったものが圧倒的に足りないのだ。
「………なるほどなぁ。頭で理解しててもできない。そんな事も、あるんだなぁ」
ジョージは、感心したように頷いた。
「知識だけで何でもできるようになるなら、練習なんていらないと思いますよ?ジョージさんは、自分が凄く器用だって事忘れてません?」
シオリが口を挟むと、ジョージは首を傾げて応える。まるで理解できないといったような顔だった。
「俺は器用だったのか……」
理解できていれば、再現は可能。というのが、ジョージにとっての基準なのだった。
その後、バリスタが真っ黒こげの珈琲豆を作ってしまい、ドロシーにあぎゃぎゃぎゃぎゃと笑われた後、手本としてモカナがルビーと珈琲を造って、その日の宴を締めたのであった。
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