珈琲の大霊師240
「始めまして。今日からご同乗させて頂きます、バリスタ=イタリーです。短い間ですが、宜しくお願い致します。田舎者ゆえ、失礼などござりましたら、ご指摘頂きますようお願い致します」
挨拶は何事も重要だ。私は今、珈琲の大霊師様の一行に一時的とは言え加えて頂くという栄誉を賜っている。失礼があってはならない。
なんでも、ご一行は首都のガクシュを通り、民俗学の専学士アントニオ=カルラン氏を尋ねる予定とか。私も首都に論文を提出するという話をしたら、なんと大霊師様、つまりモカナ様とジョージ氏が私を珈琲学において既に専門家として十分な知識を有していると保証すると言って下さった。
なんたる栄誉!!この手では、珈琲を生み出すことのできない未熟な私の、将来性を買ってくれたのだ。
通常、専学士になるには、論文の体裁を国で整えた後に、その部門の最先端の専門家が論文を認定し、始めて専学士に就任できるのだが、今回はその手間が省かれる事になるだろう。
私は、今後一生、この方々に足を向けて寝られないだろう。
馬車の中には、既に挨拶をした事のある面々、ツェツェ王女ルビー様、ジョージ氏の秘書らしいシオリ氏、それと始めて見る黒髪の女性がいた。
「はいさ。んじゃ、改めて。あたいはルビーさ。そんなかたっ苦しく話すのはやめて欲しいさ。あたいが居心地悪くなる」
と、ルビー様が気さくに右手を差し出してきた。どうしたものか?これは、手の甲にキスするべき案件か?それとも握手だろうか?どちらにせよ、手を取る所までは同じはず。
恐る恐る手を取ると、ルビー様はにかっと笑って私の手を握って下さった。体温が高い、と感じた。
「あんた、珈琲仲間に入るんだろ?そしたら、仲間さ。仲間同士は、上下なんて無いさ。肩の力、抜けっ」
バンッと背中を叩かれて、呼吸が止まる。私よりふた回りは小さいのに、なんという怪力………。
「ちょっと、ルビーちゃん。加減してあげた?咳き込んでるよ?あの、大丈夫ですか?」
と、私を心配して顔を覗きこんできたのは、シオリ氏だ。
「は、はい。大丈夫です、これしき。ご心配には、及びません」
「そうですか。でも、ルビーちゃんの言う通り、遠慮しないで下さいね。短いといっても、首都までは一週間程かかる予定ですし。息が詰まっちゃいますよ?」
ルビー様も、シオリ氏も何とお優しい方々なのだろうか?シオリ氏に介抱されていると、初見の黒髪の女性が私に近づいてきた。
「あなたは、とても、綺麗な色ですね。綺麗な形………」
と、歪に黒髪の女性は笑った。微笑んだ、のだろうか?
その目は、閉じられていて私を見ていないはずなのに、不思議と全てが見透かされているかのような錯覚に陥ったのだった。
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