#親子
【ショートストーリー】36 あの頃
多数の人と違うことはそれなりに不便なことが多い。
あの頃、世の中が最大多数の最大幸福を願えば、マイノリティとよばれる人たちはその中心から少しずつずれていった。
小学生になったぼくは父にキャッチボールをしてほしいとせがんでいた。
おじさんからもらった焦げ茶色のグローブはスルメイカのように硬かったけれど、ぼくにとっては輝かしい宝物が増えたような心地だったんだろう。
でも、父はキャッチボールをし
【ショートストーリー】12 大きめのスーツ
僕は子どもの頃、サンタクロースはなんて理不尽なやつだろうって思っていた。
友だちは流行りのゲームや大きな高価そうなおもちゃをもらっていたのに、僕には、僕のサンタクロースは、希望したものを届けてくれたことはなかった。
いつからか、クリスマスのイルミネーションは灰色な思い出のなかに沈んでいた。
それでも母親はわずかばかりのご馳走を用意してくれた。
外食に行く特別な夜もあった。
母は、決まって会計
【ショートストーリー】8 イングリッシュ・ガーデン・サラダ
「そういえば、母ちゃんを置き去りにしてしまったぁぁ」
碧はミニトマトの収穫に夢中で、車イスの母親のことをすっかり忘れていた。
「碧ちゃん待って」
さやかはかけていく息子の背中を見た。ゆっくり車椅子の車輪部分を握って、少しずつ前へ前へ力を入れて畑の脇の比較的平らな道を選び進む。
「ごめんごめん母ちゃん」
額に汗が光る碧がさやかに駆け寄った。
「でも小学校で育ててるミニトマトよりもすげー美味