#視覚障害
【ショートストーリー】36 あの頃
多数の人と違うことはそれなりに不便なことが多い。
あの頃、世の中が最大多数の最大幸福を願えば、マイノリティとよばれる人たちはその中心から少しずつずれていった。
小学生になったぼくは父にキャッチボールをしてほしいとせがんでいた。
おじさんからもらった焦げ茶色のグローブはスルメイカのように硬かったけれど、ぼくにとっては輝かしい宝物が増えたような心地だったんだろう。
でも、父はキャッチボールをし
【ショートストーリー】31 メトロに響く透明
タービンの唸るような響きに、動き出す車体の軋む音が重なる。走行音と同じリズムが身体に伝わってくる。
僕は長男と地下鉄にいた。
ベビーカーのとびでたグリップをしっかりと握る。二歳の長男は僕の気持ちを知ってか知らずか、頬をサイドバーに突っ伏し、お饅頭のような寝顔を見せる。
妻が出産予定日の二ヶ月も早く入院した。こうして地下鉄を乗り継ぎ妻の病院へ行くのも一週間になる。仕事を定時でぴたりと終え、保育