マガジンのカバー画像

小説

14
運営しているクリエイター

#短編小説

彼の決意は壊せない -砕かれた【黄金比】-

彼の決意は壊せない -砕かれた【黄金比】-

 ――さあ、今日も『勉強』だ。
 グラバールで、かつて『天才』と呼ばれた蒸気機関技師、アルトゥ・シャオンは、工具を手に取った。

 青い空から暑い日差しが降り注ぐ。天気は快晴だった。
 朝、アルトゥは家を出て、アルフライラ郵便公社へと向かっていた。カバンのなかには《手紙》ではなく、彼自身が愛用する工具が入っている。普段は特務局員の一員として局内を出入りしているアルトゥだが、今日の目的は別にあった。

もっとみる
安らぎの場所 -小さな故郷-

安らぎの場所 -小さな故郷-

 大陸横断鉄道の列車から見える街並みの景色が、少しずつ東方系の色を帯びてきていた。
 ――帰ってきたな。
 ルーシン ウェイは故郷に近づくにつれ、顔の緊張がほぐれていくのを感じていた。普段は気づかないが、外の世界にいると、やはりどこか身体に力が入ってしまうものなのだということを、自覚させられた。
 アルフライラ北東区、イェンルー老街。その近くの小路にある、小さな商店。ここが、ルーシンの実家だった。

もっとみる
BARD――世界は囁く(前編)

BARD――世界は囁く(前編)

 それは今日のことか、昨日のことか、明日のことでありましょうか。
 とある小さな村に、バードという名の娘が暮らしておりました。
 バードは、風や木や虫たち、その他様々なものと話をすることができる娘でした。川の楽しそうな笑い声、土の優しい子守唄、星たちとの秘密の内緒話。他の村人たちが知らないことを、世界の神々の囁き声から知ることができました。
 時には神様たちの話を皆に伝えることによって、村人たちを

もっとみる
紅(くれない)に水くくる

紅(くれない)に水くくる

「はぁ……やっぱり綺麗だなあ」
 様々に色づくもみじと穏やかな川の流れを見て、私はため息をついた。秋の山の暖かい色は、こっちまで気分を上げさせてくれる。それは私の名前が、くれないの葉――つまり、漢字で「もみじ」と書いて「くれは」と読ませるように付けられたので、もみじそのものに親近感を得て育ったせいなのだろうか。
 昔から私はもみじが好きだった。夏に育った瑞々しい青い葉が、秋になると赤やオレンジ、黄

もっとみる
カシオペア

カシオペア

※前書き※
 この小説は、コラボ企画展 HAKOLIEN文×画「椅子のある部屋」(箱の中のユーフォリア様主催) に千梨が参加し、展示された作品の再掲載です。
 コラボイラストは、坂本みちよ様に描いていただきました。ありがとうございました。
 ファンタジー、シリアス、ほのぼのなイメージで描きました。5000字作品です。
 加筆版を収録したコピー本が存在しています。
※前書きおわり※

○本編○
 

もっとみる