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"歴史" 系 note まとめ

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2019年10月の記事一覧

〈動員-交易-地縁〉現代都市の考古学

 14世紀にエジプトを訪れた一人のヨーロッパ人は、こう記している。「ひとつのピラミッドの中腹に、表層の石をはがし、下へころがり落としている石工たちを我々はみとめた。…この表層の石をはぎとる作業は、千年以上も前から始まっているということだ。」  ピラミッドは主に近隣から切り出された石灰岩からなるが、かつてその表装は赤や白の花崗岩で覆われていた。この巨大な人工の「山」からは、有史以来絶えず、特に利用価値の高い花崗岩が「採石」されていたのだ。  ピラミッドが立地する下エジプトでは、

【26の図解で学ぶ】世界史のまとめ

◉全文無料 「【図解】ゼロからはじめる世界史のまとめ」のまとめです。  26の時代の「つかみかた」をおおづかみにまとめてあります。  異なる時期に作成したものが混ざっています。細かいところもかなりありますが、難易度、フォーマットや形式は順次統一していく予定です^^ 【1】約700万年前~約12000年の世界 人類が誕生し、テクノロジーと「心の世界」が発展する 「人類」が他の「類人猿」から枝分かれしてから 氷期が終わるまでです。 今後の研究によっては「7

即位式と「高御座」について――折口信夫に対する岡田の批判にふれて

 これもいま書いている本の研究史の部分です。高御座が神話的な存在であることの説明として上げておきます。  よく知られているように、折口信夫は「真床覆衾の発見」によって、天孫降臨神話の全体を大嘗祭にむすびつけた。これに対して論文「大王就任儀礼の原型とその展開」において、始めて学術的な批判を展開した岡田精司は、天孫降臨神話はむしろ即位式に対応していると論じた。私はこれは基本的に正鵠を射ていると考える。  そもそもこの論文「大王就任儀礼の原型とその展開」は、大王就任儀礼の本体は、

屍者の帝国/伊藤計劃×円城塔

死んだ人間の身体を再利用しそれなりの仕事はできるよう、疑似霊素をインストールする。 100年前、18世紀の終わりまで、人間の肉体は死んだら黙示録の日まで甦る事はないとされていた。しかしいまは、そうではない。死後も死者は色々と忙しい。 と、ジョン・H・ワトソンが語る19世期末のロンドンで、物語ははじまる。 ロンドン大学で医学を学ぶワトソンは、卒業を間近にしたある日、屍体に疑似霊素がインストールされ、動く死者になる瞬間をはじめて目にすることになる。 その施術を行なったのは、

ニック・ランドと新反動主義/木澤佐登志

未来への希望がゼロとなった状態を見通す、どこまでもダークでホラーな思想。 それなのに何故だろう。 暗い見通しを表現したものをとにかく好む傾向が僕にはある。 小説でも、音楽でも、映画でも、絵画でも、そして、こうした思想書でも。特にイギリス発のダークな作品はジャンルに関わらず、ずっーと以前から好きだ。 その意味で、この本もとても良かった。 木澤佐登志の『ニック・ランドと新反動主義』。 ペイパル創業者にして、Youtubeをはじめ、LinkedIn、Airbnb、 Space

【読書】 無文字社会の歴史

歴史の視点は縦方向には強いが横方向には弱い。これは西洋史を中心として見てきた世界史にも言える。黒人アフリカの歴史が世界史において申し訳程度にしか扱われていないことが証左である。人間が過去を認識する時、対象が認識上の主体に近いほど歴史的に働くが、遠いほど歴史の問題は地理的な隔たり、つまり文化空間の差異の問題に置き換えられる。 文字を持たない社会は、口頭による伝聞が主になる。歴史伝承の中でも特にイデオロギーの表現としての面が強くなるのは、集権的政治組織をもつ社会の場合、現王朝に

荒川区から考えている

東京の荒川区に住み始めたのは00年代の初めのことだから、かれこれ20年近くのお付き合いとなる。途中一回勤め先近くの台東区に浮気したが、どうしても荒川区の引力に抗えず、戻ってきた。区内で計5回引越している。引っ越し貧乏の典型である。 荒川区に住み始めたころ、わりとすぐに隅田川との関係を思うに至り、図書館とかで調べまくった。別に駐車場として使われているわけではない一階のある「高床式」の建物がやたらある、というのに気づいて「あ、これ水害対策かな」と思ったのがひとつ。あと、とにかく

歴史は実験できるのか? 〜この本をデータサイエンティストにお勧めする理由〜

歴史研究への実験的アプローチについて記した本です。 編著は「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレド・ダイアモンドと「国家はなぜ衰退するのか」の著者ジェイムズ・A・ロビンソンで、2名によるプロローグ、あとがきと7つの事例で構成されています。 自然科学の実験室のように整備することができない環境でのデータを使った実験を行う際の手法、考慮点を実例ベースで説明されています。 ビジネス環境でのデータ活用に通じるものも多くありますので、ビジネス環境でのデータ分析を行うデータサイエンティストも

【書評】「今」を理解するには「歴史」から学べ 『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 - ムンディ先生こと山崎圭一』

いまをときめくYouTube大学・中田敦彦氏が使った教科書 ご存知の方も多いと思いますが、中田のあっちゃんが世界史編で度々取り上げてネタとして活用していたのが本書となります。 特徴として、「年号がまったく登場しない」、「世界史の歴史が1つの物語でつながる」「4つの地域を主役に展開」という点が表紙にも書かれている通り、非常に読みやすく面白い内容として理解することが出来るのです。 普段のニュースをなんとなーく見ているあなた、世の中のいざこざの原因ってご存知でした? そうです、

ジョン・ダワー『吉田茂とその時代』上巻、中央公論社、1991年、「日本語版への序文」まとめ

本書と著者についてこの書籍の日本語版は1981年にTBSブリタニカから出版され、今年2019年で40年近くが経とうとしている。それにもかかわらず、未だに多くの日本語版が各出版社から出されていることは、本書が名著たる所以かもしれない。(ちなみに今回私が読んでいるのは91年中央公論社出版のものである) 著者、ジョン・ダワーは日本文化、近現代日本史、日米関係の研究者であり、マサチューセッツ工科大学の名誉教授としても知られる。なによりも、彼の代表著作である戦後日本を描いた『敗北

1983年10月7日、イスラエルのテルアビヴで、パレスチナのガザから来たパレスチナ人一家と出会った時のこと

先月11日、2019年9月11日に note に新規登録、これまで 911 アメリカ同時多発テロに関わって 3本、「ボブ・ディランの不都合な真実」(パレスチナ・イスラエル問題に絡むもの)について 2本を投稿し、ディランについては続編を予定していますが、前回は 1983年10月4日にイスラエルのハイファを訪れた時の自分の日記を転載しました。今日は、それから 3日後の 1983年10月7日に、同じくイスラエルのテルアビヴで、その日、パレスチナのガザ地区からテルアビヴにやって来てい

「複雑な世界で。」

映画・「グリーンブック」を観た。 ジム・クロウ法という黒人を差別する法律があり今より顕著に差別が行われていた1962年アメリカ。 仕事を探していたトニーはコンサートツアーを行う天才黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。 仕事を引き受け二人はグリーンブック(黒人用旅行ガイドブック)を頼りに8週間のツアーに出かける。 という実話に基づいた映画。 昨年度のアカデミー賞作品賞を獲った映画でもあり映像も内容も良かった。 ただ良い映画だとは思ったんだけど、 とトニーが

アンティークコインの世界 〜ニュースタイルアテナ〜

アテナイが発行したアテナとフクロウを刻む4ドラクマ銀貨は、アンティークコイン収集家の中で最も人気の高いコインのひとつである。ギリシア関連のあらゆる書籍、学校の教科書でも紹介される古代ギリシアを代表するコインだ。だが、一般的に紹介されるアテナイのコインは前5世紀の繁栄期に発行されたタイプで、本当は少しずつデザインを変容させながら前1世紀まで発行されている。今回紹介するコインは、アテナイがローマに造幣所を閉鎖される少し前に発行されたものである。この時代に発行されていたものは、アテ

三内丸山遺跡人口500人説はこうして生まれた

 青森市にある国の特別史跡―三内丸山遺跡では、最盛期に人口が500人も住んでいたと一般にいわれています。多くの考古学専門家の方々と同じように、案内人もこのことを信じることができないのですが、世上ではそのようにいわれ、「真実を伝えること」が社会的責務であるはずのマスコミまでがそのように伝えています。100人の世間一般の人に、三内丸山遺跡では最盛期に何人の人が住んでいましたかと問えば、おそらく95人以上の人が500人と答えるであろうくらいに、世間を席巻しているといっていいでしょう