歴史は実験できるのか? 〜この本をデータサイエンティストにお勧めする理由〜
歴史研究への実験的アプローチについて記した本です。
編著は「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレド・ダイアモンドと「国家はなぜ衰退するのか」の著者ジェイムズ・A・ロビンソンで、2名によるプロローグ、あとがきと7つの事例で構成されています。
自然科学の実験室のように整備することができない環境でのデータを使った実験を行う際の手法、考慮点を実例ベースで説明されています。
ビジネス環境でのデータ活用に通じるものも多くありますので、ビジネス環境でのデータ分析を行うデータサイエンティストも、この本から有益な示唆を得ることができると思います。
概要
以下ざっくり内容を紹介します
実験室では比較する要素以外全て同じ環境に整えることができますが、歴史ではそうはいきません。
そこで使われているのが比較研究法と呼ばれる手法
コンセプトはシンプルで、多くの点で似ているが、比較したい要因だけ違いがあるような環境を比べることで、要因の影響を研究するという手法です。
考慮点
この方法には特有の考慮点もあります
統計的な考慮点
統計的因果推論を行う際に発生する下記のような一般的な考慮点は、当然ながら考慮する必要があります
原因と結果を取り違えるリスク
注目している要因以外に原因があるリスク
注目している要因が影響を与えているように見えるが、実際は相関のあるものが要因にリスク
メカニズムの解明が必要
因果関係が分かっても、それが何故発生しているか、メカニズムを突き止めないと役に立たない場合もあります
入植が森林破壊を引き起こすという因果関係を特定するだけでなく
その発生メカニズム「入植者が木を伐採したのが原因か?」「入植者が持ち込んだネズミが木をかじったのが原因か」まで解明する必要があるケースもあります。
調査目的の曖昧さ
調査の目的が曖昧なので、目標を測定可能な数値化するのが難しい。
目的が、経済発展、幸福など曖昧で、自然科学の原子のように明確な定義、測定が出来ません
アプローチ
調査項目をベースにアプローチを大きく3つに分類しています。
撹乱
何らかの大きな事象が異なる変化を引き起こしたと想定して比較を行う。
アフリカで奴隷貿易の影響を受けた地域と受けなかった地域の比較
インドの各地で異なる税制度の地域を比較
初期状態
初期状態の違いが異なる変化を引き起こしたと想定して比較を行う。
同じ民族が移住した2つの島を比較
同じ結果
異なる環境なのに同じ結果を引き起こしているケースの特性を分析する。
ヨーロッパの支配を受けた7つの場所で共通の結果を得ている原因
ケーススタディと一般化
自然科学では両方のアプローチがうまく共存しているが、歴史では課題がある、融合するアプローチが必要。
歴史学者の中には自分の研究分野と他の分野の共通性を探るアプローチに否定的な人もいる。
この本をデータサイエンティストにお勧めする理由
この本は明日から使えるノウハウを提供するものではありませんが、データサイエンティストの方が新しい視座を得るきっかけになり得ると考えています。
普段とは違うアプローチに触れることができる
データサイエンティストの方が普段慣れ親しんでいる統計学、機械学習、パターン認識などとは異なるアプローチでデータ分析を考えることが出来ます。
事例に触れることができる
「明日から使える」という部類ではありませんが、本書の8つの事例から、普段の活動へのヒントを得ることができると思います。
少々骨太ですが、プロローグとあとがき、だけでもぜひご一読下さい。
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