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"歴史" 系 note まとめ

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カザフスタンの世界遺産は、何もない大草原だった

その朝、ホテルで簡素な朝食を食べながら、そこへ本当に行くべきかどうか、迷っていた。 春のカザフスタンの旅の途中、タラズという小さな町で迎えた朝だった。 何もなさそうな町で1泊してみるのもいいかもしれない……と立ち寄った町だったけれど、そのタラズは想像以上に、何もない町だった。 前の日の夕方、カザフスタン鉄道をタラズの駅で降りても、どうやら観光客は僕一人しかいないようだった。 駅を出て、夕暮れの町を歩き始めても、心を動かされる風景は何もない。 陰鬱な曇り空の下、彩りを

10分でわかるネオ哲学史『一度読んだら絶対に忘れない哲学の教科書』読書案内+参考文献の補足

この記事では、ネオ高等遊民『一度読んだら絶対に忘れない哲学の教科書』SBクリエイティブの参考文献を紹介します。 と同時に、それぞれの哲学者の解説で、どんな内容が書かれているのかを、ごく簡単に紹介していますから、ざっくり内容を把握するにも適しています。 ページ数の都合により、出版物には参考文献をすべて載せることができませんでした。(本書は全256ページですが、これがキリのいい数字みたいです。たしか8ページか16ページ単位での増減となる、と聞きました。) そのため、一次文献

大学で講義した

今日は京都大学で講義をした。新入生向けに開講されるILASセミナーというのがあって、その枠で講義した。大学では、どういうわけか院生相手にこれまでしてきたのだが、学部生相手に授業したのは久々で、緊張した。 講義名は、「人新世の「人間の条件」を考える」というもので、概要は下記のとおりである。 どれくらい受講生が来るのか心配だったが、わりと来てくれた。文学部、法学部、経済学部、総合人間学部、農学部など、多彩である。よく考えてみると、合格発表からまだ一ヶ月程度で、つまり、受験勉強

【ニッポンの世界史】#35 進む「世界史離れ」:文化圏学習・ナチカル・共通一次

 これからいよいよ「ニッポンの世界史」にとってきわめて重要な1980年代に足を踏み入れます。  この10年を通して、世界史にいかなる意味がつけ加わり「世界史必修化」に至るのか。  ”公式” 世界史と ”非公式”世界史の輻輳を追うことで、経緯を浮かび上がらせていきます。 「文化圏」学習の徹底:1978年度指導要領改訂  そのためにまずは "公式" 世界史の動向から確認していきましょう。  1970年度の学習指導要領改訂で導入された「文化圏学習」は、古代文化につづく時代を、

【お砂糖とスパイスと爆発的な何か】外の世界とつながる外国語学習~内部告発者への尋問テープをもとにした映画『リアリティ』(北村紗衣)

 ローリング・ストーンズの新アルバム『ハックニー・ダイアモンズ』の先行シングル「アングリー」のビデオを見た方はおられるでしょうか。ロサンゼルスの道路を走る赤い車にやたらゴージャスな髪の長い女性が乗っていて、ストーンズのロゴみたいに舌を出したり、エアギターを披露したりする内容です。道の脇には大きな看板が何枚もあり、車が通るといろいろな時代のストーンズが看板から飛び出すよう動き出して演奏をしてくれます。  今回の記事で紹介するのは、この女性を演じたシドニー・スウィーニー主演の新

SDGsとは一体、何だったのか?【世界史でよむSDGs】はじめに

いまや日本のSDGsは、空虚な「記号」である  2015年に採択されたSDGs(国連持続可能な開発目標)は、スタートしてから早9年目を迎えようとしている。  SDGsの実施年限は2030年だから、まだあと6年ちょっと、残されていることになる。  にもかかわらず「SDGsとは一体、何だったのか?」などと問うのは、ちょっと時期尚早ではないかと思われるかもしれない。  最初に筆者の立場を明確にしておけば、日本におけるSDGsはすくなくとも本来の趣旨に沿った受容には失敗している

【ニッポンの世界史】#34 1970年代のまとめ

 これまで1970年代に多くの回を費やしてしまいました。  それも無理はありません。  こうやってみてみると、1970年代の「ニッポンの世界史」には、これまでになかった多くの新しい要素がつけ加わり、そうした「転回」こそが、1980年代以降の転回に大きな影響を与えることとなるからです。  以下に整理しておきましょう。  たとえば ①文化圏学習は、比較文明論、国際化言説を通してビジネス教養的世界史へ。  ②マルクス主義批判(政治・経済史偏重)は、実証主義や社会史への関心

&(アンドのマーク)は使わない

ビジネスに使えるデザインの話ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。 欧文のルール日本人は知らない欧文(主に英語)のルールというものがあります。これは英語の授業でも教えてくれません。それゆえか翻訳者からの原稿にも、このルールに則っていないものがすごく多くあります。 知っておくと何かとアドバンテージになるので少しずつご紹介していきます。ご紹介した欧文のルー

【現地リポート】日本史講師が”歴史フェス”に潜入!!

皆さん、こんにちは。 日本史講師のSatoです。 今回、私は2024年3月17日に名古屋大学東山キャンパスで開催された”歴史フェス”に潜入してきました。 その模様をお届けしたいと思います。 ”歴史フェス”とは・・・ 歴史フェスは、歴史に関心のある人が一つの場に集まって、ともに歴史を楽しむお祭りです。 (歴史フェス公式HPより) 歴史研究者や社会科(日本史・世界史)教員のみならず、歴史を楽しみたいすべての人が一緒に歴史(学)について考えたり、情報共有したりするという新しい

【ニッポンの世界史】#33 地政学化する世界史:キッシンジャー・『悪の論理』・高坂正堯

2010年代の世界史ブーム  連載の第1回で、2010年代以降の世界史の一般書のトレンドに、(1)データベースとしての世界史、(2)文理融合的な世界史、そして(3)世界史のなかの日本史があると書きましたね。  この連載をお読みの方ならば、「おすすめの世界史の本」ということで手にしたことがある人も少なくないのではないかと思いますが、ここでのわたしたちの目的は、これらの書籍の内容をレビューすることにあるのではありません。  2010年代以降の一般向け「世界史ブーム」という状況が

歴史学の本をガチで精読してみる

はじめに:不惑のチャレンジ!  今年は、私にとって、40歳という節目の年になります。40歳と言えば、「不惑」です。『論語』の中で、孔子が、人生を振り返り、もう「心に迷うことがなくなった」と語った年齢です。しかし、そもそも、その孔子はすでに15歳の時に「学を志した」と述べています。私にとって、40歳は、「不惑」というよりは、遅ればせながら「学を志す」年にしていきたいです。  そんな不惑の私の今年のチャレンジは、英語で書かれた歴史学の学術書を精読することです。  大学時代に

益田勝実氏と歴史学の立場

 「益田勝実氏と歴史学の立場(400×5枚以上。9月24日しめきり)」という標題があるのですが、どこに発表したか忘れました。一〇年以上は前のものです。  益田勝実氏の仕事を読むようになったのはいつ頃のことか記憶がない。ただ、大学時代に『火山列島の思想』を手に取ったことは確実で、変わった名前の本だと思ったことが記憶に残っている。そして手許に益田さんが登場する『文学』の一九九〇年冬号があるから、そのころからは意識していたのだと思う。  ただ、この「研究の対象としての文学」という

國學院大學ポッドキャスト番組「学問のNUMA」 歴史学から切り拓く、教科書には載らない戦国時代<後編>

その時歴史を動かした!? 矢部教授の論文に世間が注目 第3回のゲストは、文学部史学科の矢部健太郎教授。<前編>では、戦国時代に起こった数々のイノベーションや織田信長と豊臣秀吉の知られざる素顔に迫りました。 <後編>では、矢部教授の人となりがわかるエピソードも。なんと、歴史学のNUMAにハマったきっかけは、歴史シミュレーションゲームの名作「信長の野望」なのだとか。同じく「信長の野望」にハマっていたタツオさんも乗っかって、話題は思わぬ流れに。2人のゲーム愛に宮田さんもたじたじ

楽しく学ぼう! 戦後日本と「WGIP」についてのQ&A

3月16・17日の東京新聞/中日新聞に、風元正さんの『江藤淳はいかに「戦後」と闘ったのか』の書評を寄せました。Webにも転載されたので、こちらのリンクから読めます。 平山周吉さんの『江藤淳は甦える』が「実証史学」的な江藤論だとすれば、風元さんの本は「文芸批評」的な江藤論。ちなみにどちらも、編集者として生前の江藤と面識のあった方ですね。 さて江藤淳の戦後との闘いというと、いま多くの人が連想するのがWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)ですよね。風元さんの