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シェフや栄養士の出張「作り置き」料理代行サービス「シェアダイン」


出張「作り置き」料理代行サービスを手がける「シェアダイン」。栄養士や調理師など「食のプロ」が家庭に出張し、数日分の料理を作り置きする。作り置きだけでなく、食に対する相談もサービスに組み込み、家庭料理、日本の食文化を継承する仕組みを作っている会社だ。

その主催者であり共同代表者の一人、井出有希さんは東大卒。二度のリストラの後、友人と共に「シェアダイン」を起業した。

朝日新聞で取り上げられていた井出さんの経歴をまとめると次のようになる。

東大卒から2回のリストラ…収入10分の1の仕事で気づいた価値とは


井出有希さんにとって、1回目のリストラは、東大を卒業してから9年目。
土日も関係なく働き続けたのに、同僚との別れを惜しむ間もない。
むしろ、「早くして」とせかされた。

最低限の荷物をまとめ、オフィスを後にした。
残りの荷物は郵送で届いた。

「ドラマみたいなこと、本当にあるんだ」

 いま、そう振り返る。

 現役で東大に合格。経済を俯瞰できる仕事につきたいと、日本の大手銀行や商社を中心に就職活動した。

 面接で、何度も聞かれた。

 「結婚したらどうするの?」「子どもができたら?」

「とんでもない会社に入った」

 だが、米国の証券大手、ゴールドマンサックス(GS)の質問はシンプルだった。

 「あなたは何ができるの?」

 GSは「弱肉強食でガッツがある人がいく会社」というイメージだった。迷いもあったが、自分の能力だけを重視してくれた姿勢にひかれ、就職を決めた。

 外資系企業はよく、「up or out」の世界と言われる。簡単に言えば、昇進しなければさよなら、という意味だ。

 アナリストとして、企業を分析し、株価を判断して、投資家を説得する。上司の言われたことだけを完璧にこなしてもアウト。自分なりの付加価値をつくらなければアウト。

 「とんでもない会社に入った」

 働き始めて半年。自問自答を繰り返し、焦り続けた。

「逃げたら終わる」休まず働いた日々

 
でも、やらなければいけない。仕事は毎日深夜まで。休みもほとんどなかった。

 「逃げたら私のキャリアは終わる。その先にある自分の可能性を期待したい」それが原動力だった。

 そんなときに起きたのが、2008年のリーマン・ショックだった。        世界の株式市場が暴落し、金融機関の経営を直撃した。

 2009年2月、上司に呼び出され、リストラを告げられた。

 30歳。悔しさが体を駆けめぐる。

 「やりたい仕事はもっとあった」

 同時に、少しほっとした。

 「仕事が向いていないと、ずっと思っていた。でも、やりがいがあり、いい会社だと思えたから、自分から辞めると決断できなかった。やっと、この舞台から下ろしてくれたんだ」

 次の就職先も、外資系の企業だった。取引先だった米国の資産運用会社から声をかけられ、働き始めた。

 仕事は順調だった。分析力が買われ、柔らかすぎると批判された話し方も、この会社では生かすことができた。

 大学時代に知り合った男性と再会し、結婚した。

2回目のリストラも突然…

 「そろそろ子どもを……」と考え始めた矢先、その日は突然やってきた。

 33歳。2回目のリストラだ。

 東京支社が閉鎖されることになり、仕事を失った。どこにもぶつけようのない怒りがわき上がり、不安も募った。

 「次の会社に入っても、上司に信頼されるまでに1年かかる。慣れない場所のストレスもある。妊娠どころではなくなった」

 年功序列の国内企業で働く夫がうらやましくなった。

 でも、金融業界のキャリアは諦めきれなかった。2回リストラされたけど、実力主義である外資系でこそ自分の力を生かせると思った。

 米国の経営コンサルタント、ボストン・コンサルティング・グループに再々就職した。

 13年9月に長男が誕生した後も、早く復職したくて、保育園を必死に探した。復職したときは仕事の感覚が失われていて、取り戻すのに必死だった。

毎日唐揚げばかり…そんな悩みが仕事に発展

 長男はよく食べ、よく寝て、すくすく育った。

 だが、2歳になると急に、緑の野菜を食べなくなった。気に入らないおかずにはかたくなに手をつけない。白米だけしか食べない日もあった。

 いろいろ試してみても、食べてくれない。いらいらが募り、意味なく怒ってしまう。悪循環だとわかっていても、どうすればいいのかわからない。

 長男に言われるがまま、スーパーの唐揚げばかり買う。毎日同じメニューの繰り返しに、絶望していた。

 子育て中の同僚に聞いてみると、同じような悩みを抱える人がいた。

 食が細い、偏食、アレルギー――。誰もが悩みを抱えていることを知るとともに、こんな話もした。「専門的な知識や技術を持つ人が作ってくれるといいのにね」

 知り合いの料理人に自宅にきてもらい、3時間かけて料理を作ってもらった。菜の花やインゲンといった普段は絶対に食べない野菜でも、プロの料理人が味付けを工夫すると、長男はかぶりついた。

 「これだ」

 介護食や離乳食、病気で外食できない家族との食事、仕事で忙しい人への作り置き。食生活に困っている家庭にシェフを派遣し、料理をつくるサービスを始めようと、会社を辞めて同僚と「シェアダイン」を立ち上げた。

シェアダインの誕生

2017年に50人の登録シェフから始まった「シェアダイン」。離乳食から生活習慣病まで、家庭料理をパーソナライズする、ホームシェフのサブスクサービスだ。

https://sharedine.me/

1回3時間の訪問で、栄養士などの食の専門家が、献立の提案から調理まで行う。料理家が「作り置き」をしてくれる出張料理代行サービスともいえる。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って在宅勤務が増えたことや、勤務先の飲食店が休業したシェフの受け皿にもなったこともあり、いまは2千人以上が登録するなど、サービスを広げ続けている。

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外食は安価な選択肢がたくさん出てきているし、デリバリーサービスに関しても、有名シェフが考案したようなお弁当も手が届くような時代になった。

けれどその一方で、「私自身が考える家庭料理、手料理の良さというのは、相手を慮って作るということだと考えています」。井出有希さんとの共同経営者である飯田陽狩さんは、そう語る。

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「例えば、私は茶わん蒸しが大好きなんですが、学生時代に嫌なこととかがあって気持ちが落ち込んでいるときなんかに、何も言っていないのに食卓に茶わん蒸しが並んでいるといったことがよくありました」。

「こういった気持ちのあり方もそうですし、体調が悪いときなんかは薄味がうれしいなど、おいしいと思う塩加減も体調によっては全然違ってくることがあります。産後の食事は特に典型的だと思います」。

その人やその家庭のライフステージによって、必要になる栄養素や献立も変わってくるという中で、相手を慮って作るという家庭料理の価値は今後も残っていくのではないかという考え方に共感する。




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