サントリーニの婚前旅行(フランス恋物語64)
Santorini
8月下旬のある日。
ギリシャのアテネに2泊した私たちは、昼頃飛行機でサントリーニ島に移動した。
サントリーニ空港からホテルのあるイアまで、タクシーに向かう。
タクシーの車中、ニコラは私を見つめながらにこやかに言った。
「ここサントリーニ島は、”La lune de miel”(新婚旅行)で行きたいなとずっと思っていた所なんだ。
レイコとここに来れて本当に嬉しいよ。
もちろん僕らの本当の新婚旅行は別に行くから、行きたい所を考えておくんだよ。」
私は笑顔で応えながら、フランス語に”La lune de miel”(新婚旅行)はあっても”婚前旅行”という言葉はないだろうなぁ・・・などと考えた。
私たちは付き合ってまだ1ケ月も経っていない。
ニコラは結婚という言葉をよく口にするけど、本気なのかしら。
そもそも私はこの人と結婚したいのかどうか・・・まだわからないでいた。
Hotel
イアという地域は美しい夕陽が見られる場所として有名で、4つ星以上の高級ホテルが密集している地域らしい。
タクシーを降りると、断崖の上に建つ白壁の家々と海とのコントラストに目を奪われる。
私は思わず写真を撮ろうとしたが、ニコラに「ホテルからでも景色は見えるよ。早くチェックインしよう。」と言われ、カメラをしまった。
私たちは崖の階段を降りた所のホテルに入り、チェックインの手続きをした。
ホテルは洞窟をイメージしており、こじんまりとした可愛らしいデザインの建物だ。
ホテルスタッフは英語だけでなくフランス語も話せ、さすがヨーロピアンの人気ハネムーンスポットだなと実感した。
Japonisme
部屋に入ると、壁は真っ白、調度品はブルーで統一されており、サントリーニのイメージそのものを再現した空間だった。
テラスに出るとプライベートプールが付いており、ここから外の眺めはまさに絶景だ。
「すごい、私、こんなホテル泊まったことがない!!
ニコラ、素敵なホテルを見付けてくれてありがとう。」
部屋に戻った私がニコラに抱きつくと、彼は満足そうに頷いた。
「これくらいお安いご用だよ。
僕からも、レイコにお願いがあるんだけど、いいかな?」
私は上機嫌で応えた。
「いいわよ。なあに?」
ニコラは自分のスーツケースからある荷物を取り出した。
それは、白地に青い紫陽花があしらわれた浴衣だった。
「これを見て、僕と一緒にサントリーニの街を歩いてくれないか?」
ニコラの過度な日本趣味に、私は呆れた。
「イヤだよ。
目立つから恥ずかしい。
そもそも、浴衣に合う下駄は持ってきてないでしょ?
日本に一緒に行った時に着てあげるから、今回は我慢して。」
なぜニコラは、サントリーニ島にわざわざこれを持ってきたのか?
確かに浴衣の色地は白と青で、サントリーニの雰囲気に合っているが・・・。
すると、ニコラは懇願するように言った。
「わかったよ。
じゃあせめて、部屋の中だけでも着てくれないか?
浴衣を着たレイコを抱いてみたい。」
私はニコラの春画愛好家の側面を思い出し、思わず笑ってしまった。
実は、初めからそっちが目的だったのでは・・・?
「わかった。じゃ、先にシャワーを浴びてきていい?」
それを聞いたニコラの目は、爛々と輝いていた。
Comme la lune de miel
シャワーから出ると、私は浴衣の着付けを始めた。
ニコラは、私と入れ替わりでシャワーを浴びている。
下駄は忘れていたが、浴衣を着るための一式はちゃんと揃えられていた。
どうやって用意したのかと聞くと、父・セザールの後妻であるアヤコさんに頼み込んで譲ってもらったそうだ。
アヤコさんは変態オヤジ・セザールを夫に持つ人だから、きっとその息子・ニコラの嗜好もある程度理解しているだろう。
私は恥ずかしくて、アヤコさんに合わせる顔がないと思った。
バスルームから出たニコラは、浴衣姿の私を見て感動したようだった。
「Comme tu es belle !!」
(なんて美しいんだ!!)
こんなに嬉しそうな顔のニコラを見たことはない。
着物や浴衣を今まで何度も着たことのある自分からすれば何てことはないのだけれど、日本マニアの彼からすると昔からの憧れの姿なんだろう。
こんなことぐらいで素直に喜ぶニコラを可愛らしいと思った。
あ、本当の意味で彼を喜ばせるのは、これからか・・・。
ニコラは、すぐさま私に挑んできた。
彼のなすがままに任せていると、帯は外さず浴衣だけをはだけた形で私を脱がす格好となった。
私は日本古来の着方に則り、浴衣の下は何も付けていない。
その蠱惑的な姿態は、いつも以上に彼を興奮させたようだ。
鏡に映った「全裸の白人男性と、浴衣をはだけた日本人女性が絡む姿」は、確かにかなり扇情的だった。
しかし、それを見た私は、「長崎の出島の遊女はこんな感じだったのだろうか?」などと思いを巡らせてしまったりして、なかなか行為に集中できないでいた。
そんな私の心の内など気付くことなく、しばらくしてニコラは絶頂を迎えた。
私は彼にキスをしながら、「私たちは本当にないものねだりのカップルだなぁ」と、つくづく思った・・・。
Le déjeuner
目覚めるとお腹が空いたので、私たちはホテルを出て、ランチのレストランを求めてフィラの町へと歩いた。
フィラの町並みや、ここから遠くの町を望む景色は想像以上の美しさで、「やっぱりサントリーニに来て良かった」と心から思った。
私たちは入口のドアが可愛らしいレストランに目を止め、ここでランチを食べることにした。
ドアを開くと海が広がっていて、その絵はドラえもんのどこでもドアみたいだと思った。(ニコラには伝わらないだろうと思って、言わなかったけれど)
階段を降りて行くとテーブルが並んでいて、私たちは海側の席に座った。
ジョージ・クルーニー似のニコラと一緒にいると、名もないレストランでも豪華に思えてくるから不思議だ。
ギリシャ特製サンドウィッチを食べながら、私は海の景色を見た感想を述べた。
「町並みの景色はサントリーニ独特だけど、海そのものは、私の地元の瀬戸内海に似ている。
波が穏やかで、たくさん島が見えるところとか・・・。」
「瀬戸内海?」
私は紙に日本地図を書きながら、説明してあげた。
「日本の本州と四国の間にある海のことだよ。
実際、この辺りはギリシャをイメージした観光地がいくつかあって、日本人にとってギリシャは憧れの地なんだよ。」
ニコラは興味深そうに私の説明を聞き、こう言った。
「じゃ、そこもまた一緒に行こう。
その時は浴衣も着てね。」
・・・私は浴衣の約束なんて、すっかり忘れていた。
SANTO WINES
ランチを終えると、二人ともワイン好きということで、”SANTO WINES”というワイナリーツアーに参加することにした。
フィラからタクシーで20分後、SANTO WINESに到着した。
インフォメーションセンターに尋ねると、当日のガイドツアーのチケットも買うことができた。
間もなくガイドのお姉さんが現れて、工場の前へと案内され、ここサントリーニの土地とワイン造りについて英語で説明を始めた。
工場に入り、葡萄の圧搾機や、ワイン樽がずらっと並んでいるのを眺めたり、野外の天日干しされている大量の葡萄も見た。
英語も堪能なニコラは、ガイドの説明を熱心に聞いている。
こんな時、英語もフランス語もできる人は羨ましいな、と思った。
私もニコラに紹介されたアンナ先生についてから、だいぶフランス語がわかるようになってきたけど・・・。
見学を終えると、いよいよワインの試飲だ。
工場併設のテラス席は絶景が望めて、それだけでも得した気分になる。
私たちは、”Flight10”という名前の、60cc×10種類をテイスティングできるコースを選んだ。
「ニコラ、これってワインのボトルでいうとどれくらいの量?」
「そうだな・・・フルボトルでちょうど1本ぐらいじゃない?
無理して飲まなくていいよ。
残したら僕が飲んであげるから。」
そう言ってはくれたけれど、どのワインも美味しいので、結局全部飲み干してしまった。
私はヘロヘロになってしまったが、ニコラはアルコールに強いので、同じ量を飲んでもケロッとしている。
「ごめんなさい。
観光はやめて、ホテルに戻ってもいい?」
ニコラは笑顔で了承した。
「もちろんさ。
観光は明日ゆっくりやればいい。
僕はいつもレイコ最優先だからね。」
私たちはSANTO WINESを出ると、イラのホテルに直行した。
部屋に戻ると、私はそのまま熟睡してしまった。
さすがのニコラも、この時は手出ししなかった。
Le dîner
夕食はホテルのレストランで取ることになった。
あまり食欲がない私は、アラカルトでシーフードリゾットだけ頼んだ。
ニコラは、魚のフリットやギリシャソーセージやサラダなどをモリモリ食べて、やはりこの人はタフだなと感心した。
夕焼けに染まる海とイアの街並みは、それはそれは美しく、酔った私の体に温かく沁み入った。
この景色を見ただけでも、「このホテルに泊まって良かった」と心から思える。
私はニコラに何度も「Merci beaucoup.」とお礼を言った。
Private pool
日焼けをしたくない私は、テラスにあるプライベートプールに夜入ろうと決めていた。
夜のプールはライトアップされ、昼とはまた違ったラグジュアリー感を演出してくれる。
ニコラがシャワーを浴びている間に、私は水着に着替えプールに入った。
左右を眺めると、ライトアップされた町並みがとても綺麗だ。
私がその景色に魅入っていると、バスルームから出てきたニコラもプールに入ってきた。
「今日は最高だったよ、レイコ。」
ニコラは私を抱きしめキスをし・・・それだけにはとどまらず、自然な流れで私の水着に手を入れてきた。
夜とはいえ、ライトアップされたプールは明るく、崖の上からこちらが見えることを私は知っている。
「Non!!」
私はニコラの手を払いのけ、プールから上がると、バスローブを羽織り部屋に戻った。
ニコラは残念そうに後を付いてくる。
その顔を見て不憫に思った私は、ベッドの上でその続きに応じることにした・・・。
この日は無事終えたが、翌日のサントリーニ滞在において、私はニコラのせいで大変な目に遭ってしまうのである。
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