見出し画像

暴かれたニコラの秘密(フランス恋物語62)

Nicolas et moi 

8月にお付き合いをスタートした私とニコラ。

ニコラ(38歳)は、ジョージ・クルーニー似のルックスで、不動産経営者という、結婚相手には申し分のない男性だ。

付き合って1週間後には、私の大好きなジャンヌダルクの生まれ故郷”ドンレミ・ラ・ピュセル”へ旅行に行き、二人の仲はより親密なものとなった。

そして、「8/15にヴェルサイユの実家に一緒に行こう。日本語が上手な父にも会わせるから。」とニコラは言ってきた。

「フランス人は、結婚とか関係なく、すぐに恋人を紹介する」というけれど、彼はどういうつもりで私をお父さんに紹介するんだろう?

そういえば・・・フランス人の初めての彼氏・ラファエルに家族を紹介してもらった時のことを私は思い出した。

DNA

8月15日にニコラが実家に帰るのには理由があった。

別に日本のようにお盆があるわけではなく、この日ヴェルサイユ宮殿で行われる”DES GRANDS EAUX NOCTURNES DE VERSAILLES”(花火のイベント)を私に見せたいのが一番の目的で、そのついでに寄るということだった。

ニコラの両親は彼が10代の頃に離婚して、実家には現在お父さんと新しい奥様がいらっしゃるという。

ニコラの家からヴェルサイユに向かう車の中で、私は彼の家族について再確認した。

「ニコラのお父さんっていつ頃再婚したの?

相手はいくつぐらいの人?」

ニコラが隣で運転しながら答える。

「父が再婚したのは去年だったかな・・・。

相手は50代の日本人女性でアヤコという名前だよ。

父は母と離婚してからは、相手の女性は日本人や日系ハーフが多かったなぁ。

私はこの発言から、親子の好みが似ていることに気付いた。

「お父さんも日本人女性が好きなんだね。

ところで、お父さんっていくつ?」

ニコラは思い出すように答えた。

「えぇっと・・・僕の父は学生結婚だったから、確か今58歳だよ。

僕がきっかけで結婚したようなものだから・・・。

あ、僕に兄弟はいないよ。」

私は思い切って聞いてみた。

「ニコラの女性の好みって、お父さんの影響も大きいの?」

ニコラはこちらをニヤリと見ながら笑った。

「・・・そうかもしれないな。実家に来たらわかるよ。」

その返答は、少し意味ありげに聞こえた・・・。

ヴェルサイユの実家

別にヴェルサイユ宮殿の敷地内にあるわけでもないのに、”ヴェルサイユ”という響きだけで、なんだかセレブの最上級のような響きが感じられるのはなぜだろう。

パッシーにあるニコラのアパルトマンから車で30分くらいのところに、その実家はあった。

私たちが到着したのは18時過ぎで、すぐに夕食をご馳走になることになっていた。

「ニコラもお金持ちだから、その実家はもっとすごいのかな?」という期待はしていたが、パリ市内の小さな美術館くらいの大きさはあるのではないかという、立派な大邸宅だった。

「ニコラの実家って、もしかしてメイドがいたりする?」

恐る恐る聞く私に、ニコラは平然と答えた。

「普段はいるけど、今はバカンスで帰ってるよ。」

そりゃ、こんな大きな家ならやっぱりメイドはいるよね・・・と納得した。


ニコラの導きで、実家に足を踏み入れてみると・・・。

「な、なんだこれは!!」

廊下には赤絨毯が敷かれ、天井には高そうなシャンデリアが吊り下げられており、中はまるで城館のようだった。

「こんばんは。レイコさん。」

「ようこそ。」

ドアの音で気付いた、ニコラの父とアヤコさんが歩み寄ってくる。

ゲストの私に合わせてか、どちらも日本語で話しかけてくれるのはとてもありがたい。

「お邪魔してます。レイコです。よろしくお願いします。」

「ニコラの父、セザールです。」

「妻のアヤコです。」

セザールもジョージ・クルーニー似で、アヤコさんと名乗る女性は武田久美子にそっくりの美魔女だった。


「な、何なんだ!?この美男美女夫婦!!

そして、二人とも現役感バリバリなのがすごい!!」(心の声)

この豪華な邸宅といい、美しすぎるカップルといい、ニコラの実家は驚きの連続だった・・・。

Le dîner

早速夕食ということで、私たちはダイニングに案内された。

私は手土産に持って来た、とらやの羊羹を差し出した。

大きなテーブルに着席すると、アヤコさんが料理を運んでくる。

「レイコさん、日本の味が恋しいんじゃないかと思って・・・。」

そう言いながら出された物は、割烹料理屋のランチのようなお膳だった。

フランスに来てこんな”THE 和食”を食べられるとは思ってなかったので、私は感激した。


唯一日本語がわからないニコラに配慮しつつも、4人の会話は基本的に日本語で行われた。

初めに聞いていた通り、セザールの日本語は完璧だった。

ニコラにも会話がわかるよう、私たちはしばしば仏訳を加えた。

「私たちがどうやって出会ったのかとか突っ込まれるかな?」とドキドキしていたが、会話の中心は、セザールとアヤコさんの馴れ初めやノロケ話が中心で、私たちはただ相槌を打っていればいいだけだった。

アヤコさんお手製のお膳はとても美味しく、美魔女な上に料理上手なら、そりゃセザールもぞっこんになるだろうなと思った。(いつもはメイドが作っているらしいが)


デザートの抹茶のアイスクリーム(どこで入手するのかは謎)を食べ終わると、アヤコさんは膳や皿などを下げ始めた。

私も手伝おうとしたが、「レイコさんはいいのよ。そのまま座っていて。」と強く言われ、お言葉に甘えることにした。

アヤコさんは台所に行って、そのまま戻ってこない。

皿洗いに時間がかかっているのだろうか・・・。

Le conseil

しばらくすると、ニコラがトイレに立った。

私と二人きりになったセザールは、にこやかに言った。

「レイコさんみたいな素敵な女性がニコラの彼女になってくれて、僕はとても嬉しいよ。」

「ありがとうございます。」と会釈すると、彼は表情を一変させ、深刻な顔つきで私に尋ねた。

ところで・・・ニコラの前の妻との離婚原因は聞いているかい?」

私は、その意味深な表情に釣られて、ついペラペラと喋ってしまった。

「えぇ、『前の奥さんは気性が激しくて、ヒステリーだから別れた。』と聞きました。」

セザールは、さらに深刻な顔になった。

「それだけ?」

「えぇ、それだけです。」

すると、セザールは顔を近づけて小声で言った。

「実は、ニコラは結婚期間中に浮気をしたんだよ。

そこからジョゼフィーヌは嫉妬深くなって、おかしくなってしまったんだ。」

「そうなんですか!?」

確かに、ニコラは仕事をバリバリやるし、お金もあってモテそうだし、”英雄色を好む”の部類には入るが・・・。

今はラブラブでも、いつかは私も浮気をされてしまうのだろうか?

私が不安そうにしていると、セザールが好色な顔つきになって聞いた。

「こんなことは言いにくいんだが・・・、ニコラは” faire l'amour”が旺盛だろう?

レイコさんは、ちゃんと応えられているかい?」

・・・ニコラの” faire l'amour”は、スポーツと変わらない。

アスリートになった気持ちで、私は高らかに宣言した。

「はい。私、体力には自信があります!!」

セザールは一瞬驚いた顔をしたが、安心した面持ちでこう言った。

「じゃあ大丈夫だ。

ニコラは『ジョゼフィーヌが淡泊すぎて、他の女に走った』と言ってたから。

レイコさんは心配することないよ。」

一瞬「この人、セクハラオヤジっぽくて気持ち悪い」と思ったが、貴重な情報なのでありがたく頂戴することにした。

そして・・・きっとセザールも同様で、アヤコさんも体育会系なんだろうなと勝手に想像してしまった。


噂のニコラが戻ってきたので、セザールのタレコミはここで終了した。

Japonisme collection

ダイニングを出ると、ニコラに「君に見せたいものがあるんだ。」と言われ、大きな部屋に案内された。

そこは、漆器、磁器、陶磁器、蒔絵、壺、屏風、着物、仏像、浮世絵など、日本のありとあらゆる美術工芸品が展示されており、まるで美術館のような空間だった。

奥に甲冑が置いてあるのを見付けた時は、すごすぎて笑ってしまった。

私が興味深そうに部屋を眺めていると、ニコラが自慢気に言った。

「すごいだろ?

これはみんな父が集めた物なんだ。

僕は子どもの頃から”Japonisme”に囲まれて育ったから、ずっと日本への憧れを持ち続けているんだ・・・。」

なるほど。

で、浮世絵の美人画を見て、日本人女性に憧れたということかな?


そう勝手に解釈していると、ニコラは私を手招きした。

「レイコに見せたい、とっておきの物があるんだ。」

言われるままニコラに近づくと、彼は鍵のかかった引き出しを大事そうに空けている。

書物のような物を取り出すと、上気した顔をこちらに向けて言った。

「僕はこれを見るとすごく興奮するんだけど、レイコどう思う?」

彼が差し出した物は・・・・・・日本の春画だった!!

「・・・・・・・・・・。」

どう思う?と言われても・・・。

ニコラとセザールが日本人女性にこだわる訳が、やっとわかった気がする。

「なんなんだよ、この変態親子!!」(心の声)

私は本当に、何も言葉が出てこなかった。

DES GRANDS EAUX NOCTURNES DE VERSAILLES

ニコラの実家を出て、私たちがヴェルサイユ宮殿に着いたのは21:30頃だった。

ヴェルサイユ宮殿は、約3年前に元・夫との新婚旅行で行ったことがあったけど、夜はまた違った雰囲気だ。

ライトアップされた宮殿はとても綺麗で、入場前から胸は高鳴る。

DES GRANDS EAUX NOCTURNES DE VERSAILLES
(デ・グラン・ゾー・ノクターン・ドゥ・ヴェルサイユ)
ベルサイユ宮殿の庭園で行われる夏限定のナイトショー。
バロック音楽が流れる中、ライトアップされた噴水が真夏の夜を幻想的に彩る。
フィナーレは「アポロンの泉水」をバックに打ちあがる豪華な花火が上がる。

入口で貰ったパンフレットを頼りに、庭園の各所に仕掛けてあるスペクタクルを一つ一つ見て行った。 

ライトアップされた噴水や、レーザー光線を使って銅像を幻想的に見せる技術は日本で見たことがなく、「さすがフランス、魅せるのが上手いね。やっぱりアートの国だな~。」と感心した。


ヴェルサイユの庭園はとても広くて、あっという間にフィナーレの23:00になってしまった。

メイン会場となる中央の大きい通路に急ぐと、花火だけでなく火炎砲による炎のアトラクションもあり、初めての経験に私は興奮した。

日本と比べると花火の規模は小さいが、大音響のクラシック音楽と、ベルサイユ庭園とのコントラストが素晴らしい。

このヴェルサイユのナイトショーに、私は言葉では言い表せられないくらい感動していた。

ニコラにちゃんとお礼を言わないと・・・。

「ここに連れて来てくれて、ありがとう。私はとても幸せだよ。」

すると、安心したようにニコラは言った。

「あぁ良かった。

さっき実家で春画を見せた時、レイコに引かれたんじゃないかと心配したんだよ。」

確かにちょっと引いたが・・・まぁ私に実害はないし気にしないでおこう。


それよりも、セザールのアドバイスを思い出し、私は今夜のために体力を温存しておこうと思った。

「歩き疲れたから、車の中では寝ててもいい?」

「もちろんだよ。マシェリ」

ニコラは満面の笑みで、私にキスをした。


来週にはサントリーニ島旅行が計画されていて、私たちはリゾート気分に浮き足立っていた。

しかしその旅行で、二人の間に一波乱が起きてしまうのである・・・。


ーフランス恋物語63へ続くー


【お知らせ】雑記ブログも書いているので、良かったら見に来てくださいね。(オススメページをピックアップしてみました)
【カウントダウン大河 麒麟がくる】俳優が役の解釈や意気込みを語る
【hide】長年のファンが魅力と愛を語る③(1998~2020)
【大阪】大阪城天守閣 ミライザ大阪城 オススメ周辺レポート

 

Kindle本『フランス恋物語』次回作出版のため、あなたのサポートが必要です。 『フランス恋物語』は全5巻出版予定です。 滞りなく全巻出せるよう、さゆりをサポートしてください。 あなたのお気持ちをよろしくお願いします。