ファビアンとのニームデート(フランス恋物語74)
Samuel et Fabien
9月20日。
3泊4日のプロヴァンス旅行も今日が最終日だ。
私はニームのホテルで目覚めた。
今朝は10時にファビアンと、ホテルのロビーで待ち合わせの約束をしている。
ファビアンは、パリの友人・サミュエルのいとこで、ニームの闘牛を見に行くと言ったら「一緒に行ったら?」と紹介された人だ。
初めてパリでサミュエルに会った時、大好きなオーランド・ブルームそっくりのルックスに一目惚れしそうになったが、「今は恋愛はお休み」と決めていた私はなんとかその衝動を抑えた。
それなのに、昨日ニームで会ったファビアンも、サミュエルそっくりではないか・・・。
二人は父親同士が一卵性双生児で、いとこである彼らも双子のように似ているんだという。
昨日私はファビアンと闘牛観戦をしたが、その時は彼に惹かれる気持ちを抑えることができた。(※闘牛が衝撃的すぎて、それどころじゃなかったのもあるが)
しかし、彼の申し出により、今日は一日ニームを案内してもらうことになった。
果たして私は、ファビアンに恋することなく終われるのだろうか・・・。
闘牛文化博物館
ファビアンと待ち合わせをすると、私たちは円形競技場近くの闘牛文化博物館に向かった。
【闘牛文化博物館】
フランス唯一の闘牛博物館。
古代から現代まで続く闘牛文化と多様性、奥深さを伝える。
また、闘牛に関連のある美術品、地元、海外の伝統品を収蔵。
闘牛の歴史を紹介するものもあったが、ほとんどはコスチュームの展示がメインだった。
私は闘牛について気になっていたことを、ファビアンに聞いた。
「ところで、闘牛で殺された牛ってどうなるの?」
ファビアンは展示品を眺めながら答えた。
「牛はすぐに解体されて、すぐに市場に卸されるよ。」
それを聞いて、私は持論を展開した。
「そうなんだ。それなら良かった。
私ね、食べるための殺生はやむを得ないと思っているの。
ただ、見せ物のためだけに牛を殺すのはどうかと思っていたけど、ちゃんと食べると聞いてなんか安心したわ。」
ファビアンは「レイコは合理的だね。」と言った。
この「命をいただく」という日本人の感覚、彼には伝わったのだろうか・・・。
Le déjeuner
闘牛文化博物館を出たらちょうど昼頃だったので、ランチを食べることにした。
ニームは昨日・今日と"Feria”と呼ばれる闘牛祭が開催されることもあって、ビクトルユーゴ通りはお祭り騒ぎだ。
屋台やイベント仕様の即席レストランがあったので、私たちは美味しそうなパエリアの店に入った。
牛の赤ワイン煮込みをオーダーしたファビアンは、「もしかしたらこの牛肉も昨日の闘牛の肉かもしれないね。」と冗談を言った。
広場内のトランス音楽をかけたバーの前では泡パーティーが開催されていた。
「えぇ、何あれ?私初めて見るんだけど。」
ファビアンはサングリアを飲みながら笑った。
「泡パーティー知らないの?
確か、スペインのイビサ島が発祥だったかな。
僕は一度体験したことあるけど、結構楽しかったよ。
レイコも、一緒にやってみる?」
ファビアンと泡にまみれる・・・。
一瞬楽しそうだと思ったが、後が大変そうなのでやめておいた。
Maison Carrée
ランチを終えると、ニームの有名な観光名所であるメゾン・カレに行った。
【Maison Carrée】(メゾン・カレ)
紀元1世紀に建てられた、アウグストゥス皇帝の2人の孫カイウス・カエサルとルキウス・カエサルに捧げられた神殿。
現存するローマ神殿の中では極めて保存状態が良く、コリント様式の列柱が特徴的である。
建物内では、「Nemausus, la naissance de Nîmes」ニームの誕生の短編映画が上映されている。
メゾン・カレはギリシャのパルテノン神殿に似ているので、私は先月ニコラと行ったアテネ旅行を思い出してしまった。
まさかあれから1週間後には別れて、1ケ月後には違う男の人とニームデートしているなんて、誰が想像できようか・・・。
私は隣にいるファビアンを眺めて、感慨深い気持ちになった。
Jardin de la Fontaine
「ここは自然がいっぱいで眺めがいいから好きなんだ。」
そう言ってファビアンに連れられてきたのが、街の中心部から北西にある、フォンテーヌ庭園だ。
フォンテーヌ庭園に行く途中、木洩れ日と運河の眺めがとても綺麗で、私は感動した。
その風景はパリのサンマルタン運河を連想させて、今度は5月にデートしたアランを思い出した。
そう考えると私、色んな人とデートしてるな・・・。
どの恋も短命に終わりその時は苦しかったけれど、時間が経てばいい思い出に変わっている気がする・・・。
フォンテーヌ庭園に着くと、ローマ時代の遺跡・ディヌス神殿を見学した。
そしてさらに丘を登り、マーニュ塔を目指す。
今日はとてもいい天気で、暑い中丘を登るのは体力勝負だ。
私がへばっていると・・・ファビアンは「僕に摑まって」と手を差し伸べた。
私は坂道を登るのが辛すぎて、何も考えずその手に摑まってしまった。
しまった!!
こんなことをしたら、丘を登りきった時に離すのが辛くなってしまうではないか。
彼と手を繋いだ瞬間疲れが吹っ飛び、今度はドキドキした気持ちでいっぱいになった。
・・・あぁ、なんで私はイイ男との接触に、こんなに弱いのだろう。
Tour Magne
頂上に着くと、私は名残惜しい気持ちを残しつつその手を離した。
そこには、いかにも遺跡っぽい、面白い形の塔がそびえ立っている。
タフなファビアンは、あの塔を指さして言った。
「あれがマーニュの塔だ。
中の階段を上がれば、頂上からの眺めは最高だよ。
ほら、僕が手伝ってあげるから、あと少し頑張って。」
【Tour Magne】(マーニュの塔)
ケルト人(ガリア人)時代の前3世紀から存在していた古代城壁の見張塔で、ローマ時代の城塞で最も高い塔である。
八角形をしていて、当時基壇の上は3階建てだったが、3階部分が崩壊した、現在は2階分の32mの高さとなっている。
ニームの中の三大ローマ遺跡(円形闘技場、メゾン・カレ、マーニュの塔)の中で最も古い建造物。
塔内部の螺旋階段は、狭くて暗くて急だった。
私はファビアンに摑まるようにして、その階段を登った。
疲れを感じながらも、私はファビアンに触れられる高揚感に満たされている。
彼はこの状態をどう思っているのだろうか・・・。
階段を登りきると、ニームの素晴らしい景色が広がっていた。
・・・不思議だったのは、屋上の展望台に着いてもどちらも手を離そうとしなかったことだ。
ここには、私たち以外他に誰もいなかった。
彼は手を繋いだまま私を誘導すると、眺望の説明を始めた。
「ここは見張り台だった所だから、ニームの街並みがよく見渡せるだろう。
ほら、駅方面を見れば、円形闘技技場も見えるよ。」
私は景色を見ながらも、隣のファビアンが気になってそれどころではなかった。
一体、彼はどういうつもりでいるんだろう・・・。
横にいるファビアンを見上げると、思わず目が合ってしまった。
すると、ごく自然な流れで彼は私にキスをした。
私にそれを拒否する気力などなく、気が付けば彼の首に手を回していた・・・。
私たちがキスを続けている間、誰もここには登ってこなかった。
ファビアンは私を抱きしめながら、こう言った。
「この間別れたナタリーとは、もともとうまくいってなかったんだ。
そんな中、サミュエルが『綺麗な日本人女性が闘牛を見にニームに来るよ』と言ってたから、君と会うのを楽しみにしていたんだよ。
実際会ってみたら、予想以上に君は素敵だった。
だから今日デートに誘って、もっと仲良くなりたいと思ってたんだ。」
オーランド・ブルーム似の美しい男にそんなことを言われ幸福感に包まれる一方・・・私の心中は複雑だった。
あぁ、せめてファビアンがパリの人だったらなぁ。
「私も初めて会った時から、あなたを素敵な人だなと思っていた。
でも、私は今夜ニームを発たないといけないの。」
ファビアンは、真剣な表情で訴えた。
「良かったら、僕んちに来てもう少しニームに残らないか。
まだレイコと離れたくないんだ。」
いやいやいやいや、さすがに、そんなことしたらパリに・・・いや、日本に帰れなくなってしまう。
フランスでこんな素敵な男性と相思相愛になることはもうないだろうし、とっても残念なのだが・・・さすがにそれは無理だ。
「ごめんなさい。
私、日本語教師の仕事をしていて、明日受け持ちのレッスンが入っているの。
だから、絶対今日中にパリに戻らなければいけない。」
これは、ファビアンだけでなく自分も諦めさせるための嘘の予定だ。
私は間違いが起こらないよう、自ら予防線を張っておいた。
ファビアンの切ない表情を見ると、胸が痛む。
彼は私を強く抱き締めると、最後にこう言った。
「わかったよ・・・。
じゃ、そろそろ闘牛の時間があるし、ここを出ようか。」
マーニュの塔を降りてからも、私たちは手を離そうとしなかった。
La corrida
円形闘技場に着いたのは、開始30分前だった。
昨日と同じ場所にいるのに、私たちの関係性はまったく変わったものになっていた。
隣に座ったファビアンは、私の肩に腕を回して座り、目が合うと当たり前のようにキスをしてくる。
ここまできたからには、私も束の間の恋人タイムを楽しもうと思った。
闘牛が始まるとキスはやめて二人とも鑑賞モードに入り、その一部始終を真剣に見守った。
2日目ともなると私も闘牛を観るのに慣れてきて、昨日ほどのショックは受けなかった。
もしかしたら、ファビアンとずっと触れていたからかもしれない・・・。
今日も計6回の闘牛を観戦すると、私たちは闘技場を後にした。
ファビアンは名残惜しそうにしていたが、私はパリへの終電があるのでだんだん現実に引き戻されつつあった。
ニーム駅でキスをした後ファビアンは何か言おうとしたが、私は時間がなかったのでそれを聞かずに去ってしまった。
de Nimes à Paris
ニーム発パリ行きのTGVの中で、私はファビアンが最後に何を言おうとしていたのかを考えていた。
しばらくすると、携帯にファビアンからのメッセージが届いた。
レイコがいなくて寂しい。
また会いたいよ。
10月末までにパリに行くから、会ってくれない?
不思議なもので、ニームを離れると私のファビアンへの気持ちもどんどん離れていってるような気がした・・・。
ごめんなさい。
私は旅行や英語の短期留学に行く予定があるから、ほとんどパリにいないと思う。
必ず会えるかどうかはわからない。
9月にはストラスブール&ナンシー旅行、10月はイタリア、そしてマルタ島の英語留学を予定している。
彼のために予定を割けるかどうかはわからないし、これ以上会って深入りするのは危険だ。
わかったよ。
またメールする。
そこで、メッセージのやりとりは終わった。
今回の3泊4日のプロヴァンス旅行で得た教訓は、とにかくもう一人旅はこりごりだということだった。
前半のアヴィニヨンとアルルは孤独で怖い思いもしたが、後半のファビアンと会ってからのニーム2日間は、楽しく過ごすことができた。
ストラスブール&ナンシー旅行はミヅキちゃんと行くことが決まっているからいいが、問題はイタリア旅行だ。
何とか一緒に行ってくれそうな友達を探すしかないか・・・。
ちなみにストラスブール&ナンシー旅行は、ミヅキちゃんとの予定の兼ね合いで、「パリに戻って4日後には出発」という過密スケジュールを立てていた。
その間にある人物からの連絡により、この旅行も「恋愛封印」とはかけ離れたものになってしまうのである・・・。
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