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サミュエルとの出会い(フランス恋物語70)

再度の忠告

9月上旬のある日。

私はエリカちゃんと一緒に、彼女の友人宅に向かっていた。

今夜はエリカちゃんの友人宅でFête(宅飲みパーティー)があるので、「気分転換にどう?」と誘われたのだ。

私は歩きながら、エリカちゃんに先日相談していたウエノさんの件を報告した。

「この間ウエノさんに提案された2ケ月限定彼女プランの件、ちゃんと断ったよ。」

エリカちゃんはホッとしたようにつぶやいた。

「あぁ、良かった。それ聞いて安心したよ。

今日のFêteに来るメンバーはパティシエ仲間とその友人で、変な人は来ないと思う。

でも、レイコちゃんはパリにいるの残り2ケ月切ったんだから、いいなと思う人がいてもあまり深入りしない方がいいよ。

今日は”気晴らし”って意味で呼んだんだからね。」

その言葉を聞いて、私は「もしタイプの人を見付けても話しかけないぞ」と肝に銘じた。

私は現在の関心事を話そうと思った。

「それよりも私、今月行く南仏旅行のことで頭がいっぱいなの。

6月にスペイン旅行に行った時に闘牛を見なかったことが悔やまれて、調べてみたら、9月19・20日にニームで闘牛の祭りがあるんだって。

ニームに行くついでに、アヴィニヨンとアルルも寄ってくる。

今日、闘牛好きとかニーム出身の人って来ないかなぁ?」

エリカちゃんは笑った。

「闘牛ってまたマニアックだねぇ。

そんなピンポイントで条件にあてはまる人いるかな?

でも、何か情報収集できたらいいね。」


そんな話をしているうちに、Fêteの会場であるアパルトマンに到着した。

Fête

Fêteが行われている部屋に入ると、天ぷらを揚げているいい匂いがした。

「Bonsoir. Enchantée!!」

私たちは、中のメンバーに挨拶をした。

先に部屋にいた5人のメンバーは全員20~30代の日本人とフランス人で、用意された料理は和食とフランス料理が半々だった。

パティシエ仲間みんなで作ったというケーキは、結婚式のケーキみたいだった。


私たちはカウンターキッチンの前に集まると、それぞれ自己紹介をした。

パティシエ、キュイジニエ、パン屋さんと各界の精鋭が揃っているようで、今日の料理は豪華そうだ。

自己紹介をした人のうち3人は男性だったが、タイプの人はいなさそうでホッとした。(「勝手にそういう基準で見て、本当にすみません」と、心の中でつぶやきながら・・・)

エリカちゃんの言葉が胸に刺さり、私は帰国までは恋愛を自粛しようと思っていた。

会場内でも、なるべく女性とばかり話すようにした。

こんなことを気にしている自分がバカみたいで、「もういっそのこと、修道院にでも入った方がいいんじゃないか?」と思ったりした。

Samuel

時間が経つに連れてどんどんゲストが増えてきた。

日本人やフランス人だけでなく、スペイン人、イタリア人、韓国人、中国人と国際色豊かな顔ぶれが集まってきた。

軽く挨拶したが、やはり同年代が多そうだ。

その中に、オーランド・ブルームそっくりのイケメンがいることを、私は発見してしまった。

やばい・・・私の大好きな顔だ。

だめ、こっちに来ないで~!!

彼は私の前に来ると、”Samuel”(サミュエル)と名乗った。

そして、彼は私が日本人とわかると、日本語で話し始めた。

「こんばんは。僕は今日本語を勉強しています。

良かったら、一緒に話しませんか?」

・・・あぁ、なんで今出会うかなぁ。

やっぱり神様は私を修道女にしてくれそうにない。

La corrida

私とサミュエルは端っこのテーブルに移動して、会話を始めた。

私は彼を好きにならないように、心の中で自分に言い聞かせた。

「レイコよ、勘違いするんじゃない。

この人は日本語を勉強したくて私に声をかけたんだ。

決してナンパじゃないんだぞ。」

私は本職である日本語教師モードに気持ちを切りかえた。

サミュエルは日本語で自己紹介を始めた。

「僕は32歳です。

プロヴァンス地方のニーム出身です。」

・・・え、今、ニームって言った!?

彼の出身地が今私の中で一番ホットな”ニーム”であると判明し、思わず声を上げた。

「ニームなの!?私、今月闘牛を観に行くつもりだよ。

サミュエルは闘牛好き?」

サミュエルは”ニーム”・”闘牛”というワードを聞くと、いっきにテンションが上がったようだ。

「本当!?僕も闘牛大好きだよ。

日本人がわざわざ観に行ってくれるなんてすごく嬉しいな。

闘牛はよく家族で行ったよ。

そうだ、闘牛好きのいとこが『今年も観に行く』って言ってたから、良かったら紹介してあげるよ。

一人で観に行くより、詳しい人と一緒に行った方が楽しいでしょ?」

そりゃそうだ。一人で闘牛観戦するより、誰かと一緒に観る方がいいに決まっている。

「是非是非!!いとこ紹介して。」

なんと、私とサミュエルは”闘牛”で意気投合してしまった。

こうして私たちは連絡先を交換してメル友となったのである。

E-mail

それ以降、私とサミュエルはメールのやりとりをするようになった。

メールの内容は、ニームや闘牛に関することが中心で、彼お薦めの闘牛のyoutube動画も送られてきた。

メールの文章は必ず日仏併記で、お互いに間違っているところは添削し、言語学習にも前向きだった。

やはり彼は下心はまったくないようで、それは私を安心させた。

彼は何度か「会ってエシャンジュ(言語を教え合う会)しよう。」と誘ってくれたが、私は何かと理由を付けて断った。

少し前の私なら、喜んで行っただろう。

しかし今は「恋愛は自粛する」と決めたので、超顔がタイプのサミュエルと会って、好きになってしまうのが怖かった。

その点、メールだけなら好きになることはないから安心だ。

旅行の出発1週間前くらいになると、サミュエルのいとこ”Fabien”(ファビアン)の連絡先も教えてもらい、ファビアンともメールのやりとりをするようになった。

ファビアンは32歳の男性だが、当日は彼女も一緒に来ると聞いて、私はますます安心した。

私は充実した闘牛観戦ができそうで、親切に色々教えてくれるサミュエルとファビアンに感謝した。


こうしてあっという間に月日が過ぎ、9月17日の南仏旅行初日を迎えた。

旅程は3泊4日で、アヴィニヨン、アルル、ニームの順で南仏3都市を回る。


しかし、準備はしっかりしてきたはずなのに、この一人旅は波乱含みのものになってしまうのである・・・。


ーフランス恋物語71に続くー


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